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悠人:招佛浄土

「すまんな、マイルズ」


 できれば、何も言わずに済ませたかったが、それも無責任かと思う。俺はマイルズの守護霊だからな、ちゃんとケアもしないとな。


「俺には、どうやらやらなくちゃならないことがあるようだ」

「どういうこと、ですか?」


 マイルズは賢いから、もう何かを感じ取っているようだ。俺は、マイルズの前で膝を付き、彼の目を真っ直ぐ見た。子供の成長は早いな。出会った時より背が伸びている気がする。


「こいつと融合したことで、分かったことがある。奴の中で俺は、奴やマーカスの過去を追体験した。奴のやったことは間違っていた。でも、同情の余地はあったんだ」

「……」

「やったことは間違っているし、それの責任もたらなきゃいけない。でも、分かったんだよ。俺が救わなきゃいけないのは、こいつ(カゾスス)なんだって。それが、この世界に呼ばれた理由なんだよ、たぶん」

「そんな……だからといって、あなたが一緒に行く必要はないでしょう?」


 そうだな。できればそうしたいところだ。


「いや、こいつに自分で成仏する力は残っていないし、聖女の力で浄化しても魂が拡散するだけで、こいつの魂を救うことにはならない。俺の手助けが必要なんだよ、わかってくれるな?」


 少し震えているマイルズの頭に手を伸ばし、ポンポンと軽く叩いた。あぁ、そういえば師匠も俺の頭をよく叩いていたっけ。棒きれでだけど。

 マイルズは、ずっと俺を見上げている。その瞳が潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。俺、こういうの弱いんだよ。


「ボクは、あなたに何もお返しできていません」


 マイルズが、小さな震えを抑えながら言葉を絞り出した。


「そんなことは気にするなよ。俺に返さなきゃいけないものなんて、何もないよ。俺は、お前の守護霊なんだからさ」

「なら……守護霊なら、ずっとボクを護って――というのは、わがままですね」


 あぁ、我が儘は子供の特権だ。それを叶えてやりたいと思う。思うけれど。


「マイルズ。お前は俺がいなくても大丈夫。もう、大丈夫だから。お前にはデイルがいる。老師だって。それに、ルシアもアリ……アルベルトもいるじゃぁないか、な?」

「ハルト、さん」

「さ、もう時間がない」


 俺は起ち上がって、カゾススに近寄った。ルーが、駆け寄ってきて俺の前を塞いだ。


「ハルトッ! ま、まだ私との決着が着いていないぞっ!」

「悪いな、ルー。いつか、天上(あっち)で決着付けよう」


 エルがルーを引き寄せて、道を空けてくれた。


「ルー。ハルトの邪魔をしちゃいけないよ。……ハルト、カゾススを頼む。良い奴なんだ、本当は」

「分かっているよ、エル。わかってる」


 俺は、へたり込んでいるカゾススの前に立つと、ゆっくりと印を斬った。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行! 我と共に在り、我と共に逝け」


 あぁ、仏の力を感じる。現世では、こんなにはっきりとは感じなかったけれど。仏、この世界では神か、それとも精霊か。なんでもいい。生きとし生けるものを見守る高位の存在が、俺に力を貸してくれる。


「オン バサラバキリシャ ニルソナナウ サラバダルマ バシタハラハタ ギャギャナウ サンマサンマ ソワカ……」


 ゆっくりと、カゾススに手を伸ばす。光が、彼の者と我を結ぶ。


「奉り申す、この者の魂を救い給え。大いなる菩提の下に在らんことを許し給え」


 俺とカゾススの身体が、光に包まれ宙に浮かぶ。ゆっくりと高みへと昇っていく感覚。倒れ込んだマーカスの傍にアルベルトことアリシアとルーが見える。グラスゴー老師と賢者ゴースが、デイルとサイラスがこちらを見ている。祈りを捧げているルシアとその傍らでこちらを見上げるエルが見える。そして、マイルズの姿が。


 泣くなよ、男だろ。


 彼らの姿が、小さくなっていく。これで、ようやく俺も役目を終えることあできる。心の中は、幸福感と充足感で満たされていた。


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