表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/51

???:復讐者

 瘴気が世界を覆っていた。


 瘴気は、大気に水に大地に染み込み、その活力を奪っていった。そしてまた、人々の精神にも少しずつ少しずつ浸透し、蝕んでいった。


 そうした状況に気付いた人々がいた。彼ら彼女らは、現状を愁いて嘆くだけではなく、行動した。その中にはエルトラス――後世、魔女と呼ばれるようになった大魔法使いや、カゾススの姿もあった。

 彼らは調べ、考えた。瘴気が発生する原因は何か、そして、瘴気を消し去るにはどうしたらいいのかを。長い時間をかけて、彼らは瘴気の大元を見つけた。それは、見たこともない怪物であった。ただ、そこにあるだけで瘴気を吐き出し続ける怪物。斬っても燃やしても死なず、滅することはできなかった。彼らはやむなく、その怪物を魔力の壁で包み込み封印することにした。数千年、数万年でも封印は解けることはない。

 だが、すでに怪物が吐き出していた瘴気は、消える事がなかった。瘴気をどうにかしなければならない。苦難の日々が続いた。そしてある日、カゾススが瘴気を集める方法に気付いた。そこに他の者が知恵を出し、瘴気の浄化装置――浄化炉が完成した。最初は小型のもので試して効果を確認し、次に大型の浄化炉を作り上げた。

 それは、ひとつでいくつもの村々から瘴気を祓った。だが、大陸全土の瘴気を浄化する能力はない。カゾススたちは、大陸全土に浄化炉装置を設置することを決めた。


「長い旅になるが、これも世のため。待っていてくれるか?」

「もちろんよ、あなた。この子も良い子にして待っていると言っているわ」

「おとーしゃま、ごぶじでーはやく帰ってきてね」

「あぁ、分かっている。なるべく早く帰るからね」


 妻と子を村に残し、カゾススは仲間とともに旅立った。瘴気を浄化する炉を作っては、また別の場所に。浄化炉を作っては、次の場所に。そうやって旅を続けた。


 やがて、三度目の春を迎えようとしていた頃、ようやくカゾススは故郷の村に帰ることができた。


 ――だが、彼が見たのは、廃墟であった。


 彼は妻子を捜し回った。が、見つかったのは隣村にいた、かつての村人だけだった。その男から、彼は真実を知る。


 この国の王が、村を焼き払い彼の妻子を惨殺したことを。


 王は怖れていた。カゾススの知恵と力を。民衆からの支持を。いつか自分を廃しカゾススが取って代わるのではないかと。怖れた王は、カゾススの妻子を人質にすることを思いついた。だが、村人がそれを許さなかった。

 不幸な行き違い出会ったのかも知れない。瘴気に心が蝕まれていたのかも知れない。「カゾススの妻と子を連れてこい」という王の命を、何としても果さんと兵士は抵抗する村人を捕らえ見せしめに殺した。そこから、村人と兵士の戦いが始まってしまった。カゾススの妻子は、その混乱の中で殺されてしまったのだった。


 カゾススは狂った。


 彼は村を襲った兵士を一人残らず見つけ出し、その縁故者も手に掛けた。そして、この国の王も王族も、一族郎党もろともにカゾススによって殺された。ひとつの王国を滅ぼしても、カゾススの怒りと悲しみは消えなかった。


 彼は、自ら作った浄化炉に潜った。浄化しきれなかった瘴気が溜まる最下層に自らの身体を横たえ死を待った。そうしなければ、大陸中の人間を殺してしまい兼ねなかったからだ。彼に残っていた、ほんの少しの理性が、そうさせたのかも知れない。


 誤算だったのは、瘴気が彼の精神と肉体を変化させてしまったことだろう。彼の肉体が滅びるまで、恐ろしい量の瘴気を浴び続けた。そして、死に至ってもなお、彼の精神は消えることなく、復讐の黒い炎を立ち上らせていた。


 長い時間が経過し、浄化炉は本来の役割を忘れ去られ、魔獣の住まう迷宮となった。カゾススは迷宮の奥底で、じっと苦悶に耐えながら復讐の機会を伺っていた。そして、ある日、呼ばれたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ