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マイルズ:練習あるのみ

 碧の季上の月になると、学院内では浮ついた雰囲気と緊張した雰囲気が入り交じった、不思議な光景が広がる。中の月に技能大会が開かれるからだ。魔法が使えなかった頃のボクでも、何かワクワクした気分になっていた。

 技能大会は本来、魔法学部生徒による魔法技能の検定試験に近いものだったらしい。しかし、平和が長く続いている現在、大会は娯楽のひとつになっている。学院のみならず、王都の民の多くが(娯楽としての)技能大会に期待している。


 さまざまな検定……じゃない催し物の中でも、一番注目を集めているのが“闘技会”だ。一対一の勝ち抜け戦(トーナメント)で魔法技能を争う。武器の使用も許されているので、魔法が苦手でも体術で補うこともできる。一応、検定という名目なので、魔法学部は全員参加だ。


 前回は、見ているだけだったボクが、今回は参加できる。どこまで勝ち抜けるか分からないけれど。


「いや、マイルズは良い所まで行けるんじゃないかなぁ」


 そういうデイルは、毎回予選は突破するものの、本戦では二回戦か三回戦止まりなのだという。


「おいらの中長距離攻撃はぁ、本戦に出場できるような上級者には通用しないんだよぉ」


 デイルの魔法なら、試合開始とともに相手を射貫いてしまいそうだけど。


「上級者になるとぉ、複合魔法は当たり前だしぃ、体術も優れているからね~。躱されたりぃ弾かれたりして接近されちゃうとぉ、もうおいらに勝ち目はないのさぁ」

 でも、とデイル。

「マイルズはまだ魔法の使い方に迷いがあるだけでぇ、魔力の量はすさまじいもの。マイルズみたいに魔法を底なしで打ち続ける人、これまで見たことないよぉ」


 そうかな? と、ボクは火球をゆっくりと動かしながら答えた。今は、魔力の流れを制御する訓練をしているところ。ようやく、雑談しながれでも火球を操作できるようになった。でも、これじゃ予選突破はおぼつかない。


「前にも言ったと思うけどぉ、ゆっくりと焦らず自分らしい~方法を見つければいいよぉ」


 と、デイルはアドバイスしてくれる。ありがたいな。こんなボクの指導をしてくれるなんて、なんて良い奴なんだ。


「う~ん。やっぱりマイルズは変わっているなぁ」

「なにが?」

「おいら一般市民だよ? 貴族様とは身分が天と地ほども違うのにぃ、こうして放している。話すだけじゃなく、感謝したりぃ褒めたりぃ。やっぱ変わってると思うなぁ」


 そうだろうか? 領地ではそんな格差なかった気がする。領民のみんなは、父や私に気軽に話しかけてくれたし、父もまた領民の声を聞いていた気がする。


「ふぅ~ん。良い領主なんだねぇ。うらやましいなぁ」

「うん。父は誇りであり、ボクの目標さ」

「その気持ち、忘れないでくれるとうれしいなぁ」

「もちろん」


 いずれ、ボクは父の元に帰って、領地を治める手伝いをする。そして、いつか自らの考えで領地を運営していかなければならない。そのための知識を、ここザルダン学院で学ぶつもりだったし、実際に故郷にいるだけでは得難い知識も身につけることができたと思う。予想外だったのは、魔法が使えないことに対する偏見が、驚くほど苛烈であったことと、自分に魔法が使えるようになったことだ。


 魔法が使えないなら使えないなりに、領地を治めていこうと考えていたけれど、魔法が使えるようになると、今度はそれをどうやって領地運営に役立てていけばいいのか迷うようになった。

 単純に魔法を使うことが楽しい、けれど、それだけじゃダメなんだよなぁ。どうすれば魔法で領民を導くことができるようになるのか。ボクはそのためにも、いろいろと知らなければならない。技能大会は、その機会のひとつなんだ。


「さて、休憩は終わり~。次はぁ、少し実戦に近い訓練をしてみようかなぁ」


 技能試験に参加した経験があるデイルに、未経験のボクは頼るしかない。


「どうやるんだい? 一対一で戦ってみる?」

「そうだねぇ。一度、試しにやってみようかぁ?」

「ならば、私が相手をしようか?」


 突然、鈴のような声が聞こえた。


「これでも少々、腕には自信があるのでね」


 木陰から姿を現したのは、マーカス殿下の護衛――騎士のアルベルトさんだった。



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