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マイルズ:両親からの便り

 もはや日課となったデイルとの訓練を終えて寮に帰ると、寮母に呼び止められた。


「先ほどお部屋に伺いましたが、ご不在でしたね?」

「すいません、いろいろと忙しいもので」


 なぜか、素直に「魔法の訓練していて遅くなった」とは言えなかった。


「マイルズ・ヴァンダイン、学生の本分は学業です。徒や疎かにしないように」

「はい」


 ボクは頭を下げた。


「それはそれとして、ご両親からお手紙が届いています。お部屋に置いておきました」

「本当ですか! ありがとうございます」


 慌てて駆け出そうとするボクの背中に、寮母が「走らない!」と鋭い言葉を投げつけた。


「あなたは貴族なのですから、常に貴族たる心構えを忘れないように。いいですね?」

「は、はい……」


 寮母を怒らせないように、はやる気持ちを抑えながら部屋に戻った。机の上には、寮母の言葉通り、二通の手紙が置かれていた。大急ぎで、でも破らないように気をつけて開封した。まずは父上からの手紙だ。封を開けた途端、懐かしい故郷の香りがした。


 お前が魔法を使えるようになった、と聞いた。学院のルンナ医師がわざわざ知らせてくれたのだ。その報せを聞いて心が躍った。が、一方で心配もある。お前には魔法に関する知識を与えてきたが、魔法を使う時の心構えや、魔法が引き起こす結果についての責任の取り方などは教えてこなかった。

 私がすぐにでも駆けつけてやりたいが、翠の季に入った頃から魔獣どもの活動が活発になり、今は領地を離れることができない。どうか、学院でお前を導く師や友を見つけて欲しい。もしも助けが必要ならば、すぐに連絡をするように。


 父上から送られた手紙は、こんな内容だった。厳しい言葉の中にも優しさを感じる。でも、安心して。こっちで尊敬できる友人も見つけたから。


 もう一通の手紙に手を伸ばす。ずいぶんと厚いな、と思ったら、領地でたくさん咲いているバーナスの押し花が入っていた。小さい頃は、花畑に行ってこの花を摘んで回ったっけ。

 母からの手紙も慈愛に満ちているものだった。筆無精の父と違って、母はマメに便りをくれる。毎回、よく内容が尽きないものだと思うくらい、ヴァンダイン伯爵領の話とボクの心配をしてくれる。


 母の手紙には、魔法の反動が来ていないか? という言葉もあった。魔法の反動って、魔法を使いすぎて気を失ったり、大きな魔法を使って身体がぼろぼろになったりすることなんだけど、今のところボクにその兆候はない。安心して、母上。


 その日は、寝る直前まで両親に送る手紙を書いた。



「イグニス イグナス、火球よ、射貫け!」


 ボクの手の平から、握りこぶし大の火の玉が生まれ、正面の的に向かって飛んでいった。


「うんうん、今日は調子がいいね」


 ボクの火球が当たった的を見て、デイルが褒めてくれる。


「実は、両親から手紙が来てね、がんばらなきゃと思って」

「そうかぁ、それは良いことだね」


 そういうデイルの顔は、少しさみしげだった。そういえば、デイルが親について何か話すのを聞いたことがない。聞くべきだろうか? いや、デイルが話したいと思ったら、話してくれればいいことだな。


「でも、やっぱり何か違う感触なんだよね」

「それは、練習の中で掴み取っていくしかないってぇ、おいらは思うよ」

「うん」


 デイルの言う通りだ。両親をがっかりさせないためにも、もっと練習に打ち込もう。



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