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15話

「おい澄谷! お前、生徒会長と付き合ってるって本当なのかよ!?」

「えっと、いや、まあ……うん……」

「一体何をしたんだよ! どうやったらあの人と付き合えるってんだ!? おい!」

「どうって言われてもな……なんとなくというか……」

「いやいやいや、お前なあ、あの新庄先輩だぞ? なんとなくで付き合えてたまるかよ!!」

「知らないって。そんなこと……」


 朝のホームルーム前、クラスの男子から追及を受ける羽目になっている。


 事の発端は今朝の通学だ。


 先輩と俺は約束通りに、今朝は一緒に登校をしてきた。

 しかも昨日の下校時と同じように腕を組んで親しげにだ。

 はたしてそこまでする必要があったのかは謎だが、先輩曰く必要な事らしい。

 当然、学校一の美女と名高い新庄綾香が男と親密にしていたとなれば噂が広まるのも早かった。

 おかげでこうして朝からちょっとした騒ぎだ。

 他クラスの話したことのない奴からも声を掛けられるしまつで、まったくもって鬱陶しい。


 どうしてこうも他人の色恋沙汰に熱心になれるのだか……


「……どうやらお前は事の重大さが分かってないらしいな。いいか? 数多ものイケメンたちが散っていった相手なんだぞ? お前が選ばれたのには何か特別な理由があるはずなんだ!!」

「そんなもんなんも無いって……」

「後学のためだ! 教えてくれ! 頼む!!」


 偽の関係だ……なんて本当の事を話す訳にもいかないし面倒なこった。

 まあ適当にあしらうしかないだろう。


「んー……あんまりがっつくのは良くないんじゃないか?」


 自分でも驚くくらい適当な事を言ってみる。


「なるほど!」


 だがそれで納得してくれたらしい。アホだな。


 そいつは俺に礼を言うとその場から立ち去って行った。

 そんなにモテたいもんなのかね。まったく。


 

 その後も放課後になるまで何度か他の奴らに話しかけられたりもしたが、雑に対応してやり過ごした。

 いつまでも教室に残っていて、これ以上誰かに絡まれるのは御免なので、さっさと生徒会室へと向かう。

 去り際にクラスの男子から「イチャイチャしに行くのか?」と冷やかされたが、適当に受け流し教室を後にする。

 



 生徒会室もとい化学準備室に着くと先輩とその弟がすでに来ていた。

 

「こんにちは。優人」

「ああ……うん……こんちは……」

「ふふっ……もっと自然にしてくれないと。そんなんじゃ先が思いやられるわよ」


 ぎこちない挨拶を先輩にクスクスと笑われる。

 付き合っている間は敬語を止めろと言われたが、どうも慣れない。


「……それで、今日は何の話が?」


 話題を逸らすように先輩に尋ねた。

 放課後に生徒会があるからここに来るようにとしか言われていない。


「まあ取り敢えず座って頂戴、今お茶でも入れるから」


 先輩に促され席に着くと、弟くんと目が合う。


「…………」

「…………」


 相変わらずの眼光で俺を睨んでくる。

 こいつは先輩と俺が恋人のふりをする事について良く思っていないのだろう。

 まあ自分の恋人が他の男とそういう事するのを快く思うはずもないか……


「……その……いろいろと悪いな。協力してもらって……」


 次の土曜日のデートとやらはこいつも来るらしいし、少しは打ち解けたほうが良いだろうと思い、話かけたのだが……


「俺に話しかけるな」


 と、ご丁寧にあしらわれた。

 随分と嫌われたもんだ。

 

「もう少し仲良くしてくれると嬉しいんだけどな」


 そんな俺たちの様子を見て先輩が口をはさんできた。


「今回の件は私達が原因なんだし、ね?」


 機嫌の悪い弟をなだめるように、先輩はそっと肩を寄せ、手を握る。


「問題が解決するまで我慢してちょうだい。お願い……」

「……わかってるって」

「……ありがとう」


 先輩はしぶしぶ了解した様子の弟に笑顔を向けて、そのまま顔を近づけるとそっと頬にキスをした。

 

「……ごめんね。嫌な思いをさせて」

「謝るくらいならこっちにしてくれ」


 弟くんは不満そうな顔でそう言うと、じっと先輩を見つめる。

 そしてその距離を縮めていき、濃厚なキスを始めた。


 ……目の前に俺がいるんですけどね……

 あまり見てはいけないのだろうが、まあ目に入ってしまうのでしょうがない。

 先日に目撃した時のような熱いキスを繰り広げる。

 すでに俺に一回見られてるとはいえ遠慮なさすぎじゃないですかね……

 

 本来ならこういった姉弟での行為は非難させれるべき事なんだろうが、この光景を見て、少しでも『羨ましい』と思ってしまった俺は異常なんだろう。そんな自分が嫌いだ。


「今はこれでおしまい」


 先輩は唇をはなし、うっとりとした表情を弟に向けてそう囁く。

 

 その様子はとても姉弟には見えない。

 

 間違いなく、この二人は恋人なのだと、そう思った。



「それじゃあ本日の本題といきますか」


 ことを終え、すっきりとした顔を俺に向けて先輩は話を進める。


「えぇ、それでは改めまして、こちらが我が生徒会の新役員、新庄貴志くんです!」


 そう言って先輩はパチパチと拍手をする。


「ほら、あんたたちも」


 と、俺と弟くんに目配せをして拍手を促す。


「……」

「……」


 お互いにやる気のない拍手を無言でくりだす。

 乾いた拍手が教室内に響き、霧散する。


「貴志の役職は書記ね。教師にも許可は取ってあるから」

「書記って何をするんだ?」

「何もしなくていいわ。うちの生徒会はあって無いようなもんだから」


 我が生徒会の会長が自信満々に締まりのないことを言ってくれる。

 

「じゃあ何のために入れたんだよ……」

 

 当然の疑問をぶつける。


「学校内でも貴志とイチャイチャ出来る空間を確保するためよ」


 と、品行方正で通している生徒会長とは思えない答えが返ってきた。

 

「……マジで言ってるの?」

「悪い?」

「いや、別に……」


 この人いろいろとぶっ飛んでる……

 ここ数日で先輩のイメージがどんどん変わっていく。悪い意味でな。


「まっ、そんなことはどうでもいいの。それよりも次の土曜日に決行する作戦について話を進めましょう!」


 先輩はにこやかにそう宣言する。


 どうかまともな作戦になってくれと、俺はそう願うのだった。

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