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13話

 先輩の力を借りて、何とか由衣への報告を済ませることが出来た。

 その後は三人で帰途につき、先輩と由衣は楽しそうに会話を弾ませていたが、俺はその会話に入ることが出来ずに、雑な相槌を打っていただけだった。


 今は家に着き、先輩を俺の部屋に案内して二人で居るわけだが……

 自分の部屋に女子と二人きりというのは、相手が意中の女性では無くとも無駄に意識してしまうものである。

 ましてやベッドの上で、肩と肩が触れ合う距離にて並んで座っているのだから尚更だ。


「あの……やっぱりもう少し離れませんか?」


 ちょっと親密すぎる距離感だと思うんだけど……

 

「駄目よ。由衣ちゃんが聞き耳を立てていたらどうするの」


 先輩が内緒話をするような小さな声でそう言った。


「由衣はそんな事しませんよ」

「絶対とは言い切れないでしょ?」

「絶対しませんって」


 由衣が人の部屋を盗み聞きするような事は想像できない。


「あのね優人(ゆうと)。今って凄く特殊な状況だって分かってる? お兄ちゃんの様子が突然おかしくなったんだよ?」


 ……確かに、由衣からしてみれば腑に落ちない事が続いているように見えるだろうが…… 

 

「だから心配して探りを入れてくるはず……私達が静かにしていれば痺れを切らして、そのうち部屋に入って来るわ」

「……いや、んなわけ……って先輩? な、何してるんですか!?」


 先輩はおもむろに上着を脱いでブラウスのボタンを外し始めた。

 

「制服を着崩していたら……ね? そういう風に見えるじゃない?」

「えっ、いや……それに一体なんの意味が……」

「イチャイチャしてるところを由衣ちゃんに見せつけるって言ったじゃない。君は自分の部屋に彼女を連れ込んで服をはだけさせているの、いい?」


 いやいや流石にそれはやり過ぎではないだろうか……

 もうこれ以上ないくらいに、俺の兄としての立場が崩壊しているというのに……


「あの……そこまでする必要は無いのでは?」

「いえ、最後の仕上げのためにも必要な事なの」


 仕上げ? まださらに何かするつもりなのか先輩は……


「あの……あんまり過激なのは勘弁――」


 勘弁してくれと、そう言いかけた時。


 ――コンコン、と部屋の扉がノックされる。


「お兄ちゃん? 飲み物持って来たんだけど、入っても大丈夫?」


 由衣が部屋の前までやってきた!


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 これは不味い……! 

 このままだと俺が先輩にエロい行為をしようとしている様に見えるだろう!


「先輩! 服をちゃんと着て!!」


 俺が慌ててそう言うと、何故か先輩は追加でボタンを一つ外した。


「ちょっと!! 駄目だって!!」

「これで良いのよ。早く由衣ちゃんを入れなさい」

「いや、でも……!」


 ――「お兄ちゃん? 入るよ?」


「ちょっと待て! 今は――」


 俺の制止を聞くことなく、由衣はドアを開いて中に入ってきた。


「お茶しかなかったんだけど……あ……」


 由衣はベッドの上の先輩に気が付き、固まってしまう。

 先輩の着ているブラウスはボタンが外れ、開けた胸元からは下着が見えていた。


「ご、ごめんなさい!」


 由衣はすぐさま回れ右をして部屋から出て行った。

 

 もう最悪だ。

 性にルーズな兄貴だと思われたに違いない……


「ね? 由衣ちゃん来たでしょ?」


 先輩は着崩している制服を直しながらドヤ顔を披露している。


「…………飲み物持ってきただけでしょ」

「そうかしら? ()()()()()()()()()()()、君が『待って』と言ったのに入ってきたじゃない?」

  

 言われてみればそうなんだけど……


「あれは間違いなく査察よ」

「……」


 こんなんで本当に上手くいくのだろうか……

 

「さてと、ちょっと行ってくるね」

「……えっと……どこに?」

「由衣ちゃんのとこ」

「あの……もうこれ以上は勘弁してもらえませんか……俺、本当に立ち直れなくなるかもしれません……」


 今日一日で俺の心はボロボロになった。

 これ以上酷いことになったら、旅に出て二度と返って来ないかもしれない……

 この家に居られないよ……


「大丈夫。フォローしに行くだけだから」


「まかせて」と一言いい残し、先輩は部屋を出て行った。


 もう不安しかない……


 

 ――しばらくして先輩が戻って来る。なにやら満足げな顔だ。


「話はつけてきたわ」

「……誤解は解けました?」

「次の土曜日に皆でデートすることになったわ!」

「……はい?」


 何を……言っているんだこいつは……


「私と貴志、君と由衣ちゃんの四人で遊園地に遊びに行くの」

「……えっと、まったく話の流れが分からないのですが……フォローはしてくれたんですか?」

「二人きりでデートすると今日みたいに身体を求められるから由衣ちゃんがガードして頂戴ってお願いしてきたわ」

「えぇ……」


 思わず俺は床に座り込み、頭を抱えてしまった。


「もう……終わりですよ俺は……」


 ほろりと目からは涙がこぼれた。


「妹に告白してから直ぐに別の女を彼女にして、その当日にエッチな事しようとしたエロ猿クソ兄貴ですよ……俺……」


「優人くん。私を信じてほしい。必ずあの告白を無かったことにして、君達を今まで通りの兄妹でいさせてあげるから」


 ……そう言ってくれるのは嬉しいのだが、先輩のやっている事は真逆の効果になっている気がする。

 

「………………もう好きにしてください」


 それでも俺にはどうする事も出来ない。

 先輩に頼るしかないんだ。

 

 俺は不甲斐ない。

 今回の件で嫌というほど思い知った。


「次の土曜日でけりを付ける……それで良いわね?」

「……はい」


 力なく返事をする。

 それとは対照的に先輩の顔は自信に満ち溢れている。

 どっから来るんだろうな、その自信は……


「それじゃ私は帰るから」

「えっ、あ、はい」

「明日の朝は君と一緒に学校へ行くから、私の家に迎えに来て頂戴。それと敬語を止めてちゃんと名前で呼ぶこと、同じ事を何度も言わせないでね」


「また明日」と言い残し、颯爽と帰っていった。


 嵐のような訪問だったな……

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