――罪の果てに――
――剣のぶつかり合う音は、次第に遠くなっていく。
沈んでいく陽の光。続いて訪れる宵の闇。それらにより彩られた荒野は、赤く、朱く染め上げられていた。点々と突き立てられている剣は、墓標のよう。
しかし、倒れる骸には人か、人ならざる者かの区別はなかった。
もしもこの光景を見た人は、なんと呼ぶだろう。
いいや、それはもう決まっていた。誰もがきっと、同じ感想を抱く。
そう、ここは『地獄』だ――と。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
そして今、咆哮を上げた大男には別の意味があった。
身の丈三メートルに届こうかというこの男の胸には、黄金の装飾の施された剣が突き立てられている。流れる血の量は、死に至るに十分なモノだった。
大きな身体を黒の鎧で包んだ彼は、膝をつき、右手に握った戦斧でそれを支える。
いかつい顔には右から左へ、斜めに大きな傷跡。
紅い瞳にはいまだに強い光が込められていたが、しかし眉間には深い皺が寄せられていた。歯を食いしばり、鋭利な牙を覗かせている。
二本の角は片方が折れ、黒く長い髪も垂れ落ちていた。
そう、この男にとってこれは『最期の瞬間』だった。
「くっ、くくくっ……」
あまりも悲惨な最期に思われるだろう。
それでも、この男に同情する者はいなかった。
さらにはこの男も、決して絶望などしていなかったのである。
何故なら、この男は『満足』していたから。
【魔王】と呼ばれたこの男は、すべての欲望を叶えたのだから。
「かっ、はははっ……」
街や村を焼き、国を滅ぼし、魔物の軍勢を操り強奪、略奪を繰り返した。
そんな男に誰が、同情などするだろうか。
「――我は(これで、解放される)満足だ」
男の前には一人の騎士が立っていた。
言葉などない。だけど、その者が何者かは明らかだった。
そう【魔王】は【勇者】に打倒される。
ゲームの結末は決まって大団円。
すべてが出来事の積み重ねによって進んでいく。それ故に、先ほどの【魔王】の口にしたセリフ。
それもまた、本心からであったかなど誰にも分からない――。
◆◇◆
――それから、どれだけの時間が経過しただろうか。
「あぁ……。ここは、どこだ?」
魔王は目を覚ました。
目の前に広がるのは、先ほどまでの荒野ではない。雲一つない青空のもとにある、長閑な大草原だった。さっきまであった傷など、跡形もない。
「――――――――」
その事実に、男は愕然とした表情を浮かべた。
そして、ある結論に至ったのだろう。
「くっ、ううぅ……」
岩のような手で顔を覆い、肩を微かに震わせるのであった。
その赤き瞳から落ちたのは、大粒の涙。
しかし、その涙にどのような意味が込められていたのか。
その真実を知る者は、彼以外にはいなかった。
初めましての方は初めまして。
鮮波永遠と申します。
この作品は、私が過去に書いた作品のリライト版になります。(というよりも、お蔵入り作品の引っ張り出し?w
次話の更新は22時頃に。
応援よろしくお願い致します!!
<(_ _)>




