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幼少期 出発 2

初投稿になります。


この前にプロローグと幼少期 出発 1 の投稿があります。

まだの方は是非そちらから。

「ねぇ、シン。ゼルってスライムだよね。」

「うん・・・多分」

「多分って・・・まぁ、こんな白っぽいスライムなんて他にみたことないよなぁ。」


ゼルはシンが捕まえたスライムでなぜかよくわからないが普通のスライムが少し青みがかった半透明の色をしているのにゼルは白っぽい色をしていた。

もともとこんな色だったわけではなく、ミニスライムだった時には他のスライム同様青みがかった色をしていたのだ。


シンが7歳の時に何を思ったのか、「スライムを捕まえてみよう。」と言い出し、教会や学校にある辞典や図鑑を読み漁り、スライムが魔力に反応したり、生き物の死骸に群がることを見つけ、ツボの中に近所の狩人からもらってきたフォレストウルフの耳を入れ、そこにこれでもかと魔力を詰め込んだ水を入れて、庭の片隅に罠のように口だけ見える形で埋めたのだ。3日後、シンとトールがツボを見に行くと中には小さなスライムが一匹いて、フォレストウルフの耳を半分ほど溶かしているところだった。



トールは、一瞬「やばい、グロい。」と思ったのだが、シンは大喜びでツボを掘り出すと、逆さまにして、中にいたミニスライムを出し、中にはまだ溶けかけたフォレストウルフの耳があるにも関わらず、指でつついてみたり、においをかいでみたりしたのだった。

そのうち、中に入れていた魔力を注いだ水が消えていたことに気が付き、「魔力の玉みたいなのを近づけたらどうなるんだろう?」とつぶやいて、当時は両手でしかできなかった、魔力の玉を出してみた。


そうすると、今までフォレストウルフを溶かすのに集中していたのか、何の反応も見せなかったミニスライムがにゅっと触手のようなものを出し、魔力の玉に触手を伸ばしたのだ。


「これ食べるのかな。」


兄の変な行動をあっけにとられてみているトールにやっと聞こえるぐらいの声でつぶやくと、両手の真ん中にできた魔力の玉を触手に近づけた。

すると、触手を伸ばしただけのミニスライムはぺっとフォレストウルフの耳の半分溶けたものを体から放出すると、くわっと体全体で、シンの両手を包み込むように飛びかかってきたのだ。


「!!危ない」


トールが叫んで目をつぶった。

小さいとはいえ、スライムなのだ。強酸の体液を持っていて、獲物をくるんで溶かして食べる。素手で長時間持てば、皮膚が溶けて、やけどのようになるのだ。

トールはシンがスライムに襲われて、両手にやけどを負ったと思ったのだ。

だが、いつまでたってもシンが泣くような声は聞こえない。

おそるおそる目を開けてみると、シンの両手にスライムはのっているのだが、魔力の玉をスライムが覆っているだけで、両手は赤くもなんともなっていなかった。


シンの手の上にのったスライムが魔力の玉の全体を包み込むとパスンという音とともに魔力の玉が消え去り、スライムは元の大きさに戻ってプルプルと震えているだけだった。

なんだかその震え方は『ぼく、わるいスライムじゃないよ』と言っているように見えるのはテンプレというやつだろうか。


「いまのって、魔力の玉、食べたの?」

「たぶん・・・」

「たぶんって・・・シン、手の上で見てたんでしょ?」

「うん、でもよくわかんなくて・・・」

そう言ってシンは両手ですくうように持ったスライムをしたから見てみたり横から見てみたりしている。半透明の中に薄く核のようなものが見えるだけで、いたって普通のスライムなのだが・・・。


「よし、こいつ、飼おう!!」

「え、飼うって、どうやって?」

「うーん、ツボで?」

「いやいやいやいや、お母さんに怒られるでしょ。変なもの持って帰ったら。」

「変なものじゃないよ、ゼルだよ。」

「!!もう名前も付けてるし。」

「いいじゃん、触ると冷たくて気持ちいいし。」

「触り心地関係ないよね!!、この前もそこら辺のトカゲを箱の中で飼ってて、ゴミかと思って箱を開けたお母さんが悲鳴を上げて、ひと騒動あったばっかりじゃん!!」

「あれは、ヨーデルを飼うってお母さんに言ってなかったからびっくりさせただけでしょ。」

「あのトカゲ、ヨーデルって名前だったの?って!!違う!!あの後、お母さん激怒して3日間ぐらいおかずなかったじゃん!!なんでか僕の分まで。」

「そうだったねぇ。でもお父さんは大笑いしてたよ。」

「それで、お父さんもおかずなかったじゃん!!!」

「そうだっけ?」


トールは以前のようにおかず抜きになるのではないかと思い、ミニスライムを飼うのを断念させたいようだったが、シンはすでに心に決めたようで、「どこで飼おうかな・・・エサはフォレストウルフの肉とか、食べられない魔獣の肉をもらってくればいいし・・・」などとブツブツ言い始めている。


トールはため息をつくと、

「とりあえずお母さんに言ってからね。僕は関係ないからね、シンが言ってよ。」

と半ばあきらめモードに入っていた。


その後、母親にミニスライムを見せて、「汚いから捨ててきなさい。」と言われ、「飼う」とシンが言うと、速攻で「外でね。家に入れたらたたき潰すわよ。」と言われて、しぶしぶ庭の片隅のツボのところで飼うことになったのだ。

父親だけは、「面白そうだからやってみろ。ただし、観察日記を書けよ。研究する時ってのは必ず変化だったり違うことを確認して記録を残すもんだ。」といって笑いながら、シンにアドバイスをして、母親に「あんたは、また余計なことを言って!!」と怒られていた。


トールはそのうち逃げていなくなるだろうと思っていたが、シンはエサに魔獣の肉や食べられない骨をあげたり、毎日魔力の玉を上げたりかいがいしく世話をし、初めはコップに半分ぐらいの大きさしかなかったのが、1年たち、2年たつにつれ大きくなり、今では子供の頭ぐらいの大きさになっているのだ。


飼い始めた時は小さく、問題なかったが、大きくなるにつれ、子供が触ると危ないとか家畜が食われるんじゃないかなどの苦情が近隣からも寄せられたが、1年ほどたち、色が白っぽくなってきたぐらいから、どうやら、人の言葉も多少理解しているんではないかと思われるぐらい、シンの言葉を聞き、止まれや跳べ、延びろなどの事ができるようになってきた。


また、その頃になると、シンはゼルを肩に乗せて遊びに行ったり、ゼルの体の中に指を突っ込んでみたりとどこに行くにも一緒に行動するようになっていた。


そうなってくると、子供というのは好奇心の塊のようなものなので、「シンが変なのをもっている」という噂が広がり、みんなでゼルを触ったり、つついたりして遊ぶようになったのだ。

ゼルはおとなしく、食事の時は体液で様々なものを溶かしているようだが、決してシンといるときには体液を出さないし、物も溶かさない。逆に触り心地が気持ちいいと子供たちのおもちゃのようになっていった。ゼルもまんざらではないようで、ほめられるとプルプルと震えていた。


そんな時、たまたま村に来ていた行商人が「テイムされたスライムなんて珍しい。」という話をしたことがきっかけで、『ゼルはシンがテイムしたスライム』ということになり、テイムされていてしつけもきちんとされているならということでご近所さんたちもゼルを怖がることがなくなっていった。飼い始めて3年ぐらいたったころには、シン以外の村の人の言葉も理解できるようになったようで、倉庫に入り込むネズミを取ったり、畑の雑草を溶かしたりと、案外役に立つ魔物という地位を確立しているのだ。

実際、シンがテイムしているのかなどは、都会の教会などでステータスを見てもらわない限りわからないのであるが、ここは村。そんなお金もないし、無害ならばいいじゃないかという感じで暮らしに馴染んでいるのだ。



お読みいただき、ありがとうございます。

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