幼少期 出発 1
初投稿になります。
先にプロローグの投稿があります。
まだの方はそちらから是非お読みください。
※カートの町 → カートの村 に変更
カン カンカン フォン カン カン
木剣の音があたりに響いている。
年のころは10歳ぐらいだろうか、二人の男の子が少し開けた草原で木剣を振り回し、模擬戦をしているようだ。
・・・と、年上のらしき男の子の木剣が、年下の男の子の木剣を捉え、くるりと回すと年下の男の子は木剣を握っていることができず、ポーンと手から抜けてしまった。
そして、年上の子は年下のこの首元に木剣を突きつけ
「勝ちね。」
「あー、負けたぁ。これでも同い年の中じゃ、負けなしなんだよ。」
「そりゃ、2歳も違うからねえ。俺が負けたら、『お兄ちゃんの威厳』ってもんがなくなるだろうし。」
「でも、シンは同い年の中じゃ、剣術はしょぼい方でしょ。」
「・・・まぁ、俺はどっちかっているとこっちのほうが性に合ってるからね。」
そういうとシンと呼ばれた男の子は右の人差し指を立てるとその先に魔力を集め、小さな光の玉を出した。
「・・・無詠唱で魔力の固定なんて、普通の10歳はできないって。」
「そうかなぁ、案外簡単なんだけど。コツさえ掴めば。」
訳が分からないというか、げんなりという感じの顔をして年下の男の子はシンに愚痴をいう。
「トールも、もうちょっと一生懸命魔術勉強したらできるようになるでしょ。」
「・・・勉強ねぇ。」
飛ばされた木剣を拾い上げ、肩に担ぐとシンと同じように人差し指を立てて、魔力を集中してみた。
少し明るい感じの玉ができたと思うと、パンと小さな音がして魔力は霧散していった。
その間、シンは先ほどの魔力の玉を人差し指から中指、薬指と手の周りをコロコロと転がすように動かしていた。
トールは自分の指とシンの指を見比べて、ため息をつき
「そんな芸当できるから、今度中央の学院に行けるんでしょ。他の人よりもすごいって事じゃん。」
「ん~、あんまりわかんないんだよね。できるのは無属性の玉だけだし、属性入れたのは制御が甘いからまだ、お母さんみたいにできないし、聖属性で言ったら、ユートの方が上手かったし・・・。」
「そのユートだって2年前に中央の学院に行ったじゃん。あと一年で卒業で、卒業したら中央の神殿で学んでくるって司祭が言ってたじゃん。それと同じぐらいにはすげーってことでしょ。」
「実感はないんだけどねぇ。」
そういうと、シンは手の周りを動かしていた魔力の玉を人差し指に戻すと
「お前も実感ないよなぁ、ゼル?」
といって、かがんで近くの草むらに魔力の玉を浮かせた。
カサッと音がして、白っぽい餅のようなものが伸びると、魔力の玉をつつみこみ、吸収してしまった。
「・・・まぁ、俺からしたらシンもゼルもわけかんないけどね。」
そういうとトールは木剣を握り型の練習のようなことを始めた。
バーノルド辺境伯領。
魔素の濃い森に近く、良質の樹木が取れるが、森は魔物が多く、また、森を挟んで他国と接しているため、戦場になる可能性も高い。東の森に対して南と西は海に囲まれ、水産業も盛ん。北は他の領地に接しており、皇都であるディールズに向かうには5つ以上の領地を経由しなければ行くことができない。
また、国のはずれに位置しており、街道も整備されているところが少ないため、村や町の交流が少なく、移動にも時間がかかる。領民は狩人や傭兵が多く、領都ケーグルの周りは発展しているが、それ以外の地域の発展は遅れている。
それぞれの町にはバーノルド伯爵の頼子である貴族が治めており、ここ、カートの村もカート男爵家が治めている。治めているといっても、周りの田畑を守るための自営団を持っており、木の伐採と田畑の取れ高を勘案し、税として伯爵に収めるという仕事以外は基本貴族らしい仕事はない。だが、魔の森に接している以上、魔物がオーバーフローしないように間引くことも必要で、貴族なのにもかかわらず、自営団とは別に傭兵団も持っており、自らも剣を持ち、森に入っていくような、言ってしまえば型破りな感じの領主である。
自らが先頭に立つために領民からの信頼は厚いが、経営には向いていないらしく、貴族としての税の取り立てなどは、主に家令の者たちが行っている。
カートの村には一つだけ学校があり、6歳から12歳までの子供が、それぞれ、仕事をするために必要なことや、読み書きの勉強の他に、身を守るための武技、魔力を扱うための基礎などを勉強している。
通常、この学校を卒業すれば、それぞれの仕事の職人などに弟子入りして、徒弟として働き、狩人や鍛冶師、服職人などの仕事をしていくことになる。
それはカートの村だけにとどまらず、バーノルド領の領都ケーグルに行くこともあれば、他の町の師匠のところに向かうこともある。
だが、学校で成績が良かったり、騎士や宮廷魔導士などの職を目指すものは、領都にある学院に通うことになる。学院に入学できるのは10歳から15歳になる子供。入学の年齢に幅があるのは、村などの出身だと、正確な年齢などがあやふやだったり、貴族の子供は早くに入学を、平民の子供たちは、弟や妹が仕事をできるようになってからでないと、家を出ることができないからである。領都の学院に3年ほど通った後に、今度は皇都にある、騎士学園か魔術学園で勉強をし、そして騎士や宮廷魔導士を目指すこととなる。学園を出たからと言って必ずしも騎士や宮廷魔導士になれるわけではないのだが、皇国にある町や村などからも成績優秀なものが集められ、優秀な人材を輩出する国の最高学府となっている。
シン、トール兄弟はカートの村に住んでいる農民の兄弟ではあるが、シンは学問について、トールは武術について優秀であり、学院の候補生となっていた。そして今年の二月にシンが学院への推薦をもらうことになり、四月には領都にある学院に通うことが決まったのだ。
「・・・まぁ、兄ちゃんもがんばってくれよな。おれも後から学院に行くんだし。」
「まだトールが行けるかまだ決まってないけどね。」
「絶対行くし!!」
「まぁ、魔術に関してはもう少し勉強が必要なのは間違いないねぇ。」
「うっ・・・勉強はおいおいしていくから。」
「俺がいなくなって寂しいって、泣くなよぉ」
「泣かねぇよ!!もう10歳だぞ!!兄ちゃんこそ泣くなよ!!」
そう言ってシンはトールをからかい、トールも反論した。
トールは普段シンの事を「兄ちゃん」とは言わないで名前で呼ぶ。
「兄ちゃん」と呼ぶときは必ず真面目な話をしている時なのだが、シンもそういわれるのはなんだか恥ずかしくて、ついつい茶化してしまうのだ。
「まぁ、俺にはゼルがいるし、領都だって、帰ってこようと思えば、馬車で3日ぐらいだからね・・・。」
「俺もゼルみたいなペットが欲しいなぁ。」
トールは素振りに飽きたのか、地面を這っているゼルの近くに座り込むと、指でゼルをつつき始めた。
なんだかんだいって少しはさみしいと思っているようだ。
お読みいただきありがとうございます。