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プロローグ4 『日常』と嘘の交錯

ねえ、お兄ちゃんって、どんな色が好き?」

「なんだよいきなり」

「答えてよー」

それはまだフェイトが小学生に入る前の頃、彼もライトもまだ何も知らされていなくて、戦争も無くて、ただ家族で普通に暮らしていただけの頃。こうしてたまに近くの公園にピクニックに来たりするのも、悪くは無かった。

「そうだなー」

「何々?」

彼はそっと金色の髪を取った。

「この色かな」

「な、あんたそりゃただのナンパ」

「うるさい、折角二人の世界を満喫してたのに」

いつもフェイトには何かしら聞かれていた気がする。それは大概が他愛ない話ばかりで、時には鋭い事を言うかと思ったら、やっぱり中身はまだまだ子供で、大きくなったらどんな風になるんだろうって、よく父さんと話してたような・・・。


「ルシファ!」

突然の声に目が覚めた。周りを見渡すと簡素な部屋のベッドに彼は横たわっていた。

「ここは?」

「まあ、私達の秘密基地かな?」

目覚めた事に安心したのか少し笑みを浮かべながら、彼女は今の状況をてきぱきと説明し始める。今ここはイリアとの国境付近であること、ここはとある施設の一部屋でもうすぐ責任者が来る事、自分はその下で活動していること。

「軍人じゃなかったのか?」

「軍人だよ、ただ仕える対象は国じゃないけどね」

「じゃあ、何に―」

言いかけた途端扉が開いた。現れたのは褐色の肌に銀色の髪を持つ男性に、全身を鎧で包んだ詳細不明の何か、そして真ん中に立っているのは―

「ご紹介します。こちら―」

エミルの声を遮るようにして凛とした声が響いた。

「セイバーだ」

「・・・」

金色の髪を後ろにまとめ、鎧を纏う女剣士。それが彼が抱いた彼女の第一印象だった。

「隊長さん、意気込んで話すのはいいが、それだけじゃこの坊やちんぷんかんぷん」

「同意」

「あの、セイバー様、説明は私がしますから」

と、横から三者三様の声が響く。外見と口調が簡単にリンクしてくれるのはありがたいが、確かに彼にとってこの状況はまさにちんぷんかんぷんだった。

「えーと、こちらの女性はセイバー様、独立治安維持部隊『LIGHTS』のリーダーを務めておられる方で、こちらの男性の名前はランスロット様、その隣の鎧の方はボルク様、お二方ともセイバー様の補佐をなさっています」

「独立、治安・・・維持部隊?」

「ま、勝手に周りが付けた名前だけどな」

不思議そうに名前を繰り返す彼にランスロットは笑みを浮かべる。

「名前から察するに、どこの国にも属さず、各地域の戦争や紛争を止めたりするのが主な活動?」

「そう、だけど少しスケールが違う」

「スケール?」

「我等は、どの世界にも属さず、各世界の調停を行っている」

「表に出ないように、あんまりその世界に干渉すると厄介な事になるし」

エミルの言葉を引き継ぐようにしてセイバーとランスロットが補足を加える。

「世界って・・・」

「今、ここにある世界も数多くある世界の一つ。君が何でこんな風な扱いをこの国の軍から受けているか分からないけど、ひとつ言えるのは―」

「お前は我等から見ても最重要人物の一人だ」

「・・・ということ」

「最重要人物?」

「お前の周りには何故か変なのがうじゃうじゃしててな、どうにも様子がおかしいって言うんで、エミル他数名をこの世界に派遣したんだよ」

「ランスロットさん・・・でしたよね?」

「おう」

色々聞きたい事はあったが、とりあえず一番聞きたいことはこれだった。

「ライトとフェイトのことなんですが」

「・・・長くなるぞ」

「構いません」

一つ、息を吸って彼は話し始めた。そもそも、彼等がこの世界の異変に気付いたのは18年前の事。始まりは、この国がイリア帝国に宣戦布告のための準備を始めた事に起因する。この世界には本来特殊能力を持つ生物は存在しないにも関わらず、何故かこの時点で僅かな力の反応が感じられていたのだ。

「最初は世界を渡れるどっかの誰かだと思ってほうっておいた。ただな・・・」

その力は世界を渡るには小さすぎた。かといってそれを放って置くにはその力は強すぎ

た。いつこの力が強大化して自らの世界を滅ぼすか分かったものではないからだ。そこでLIGHTSはこの国にエミル他数名を派遣し、その力がどういった類のものか見極めようとしたが、問題はそこで発生した。

「力の出所が分かんなかったんだよ」

力の反応があるにも関わらず、力を持つものは存在しない。長い間彼等を悩ませた矛盾は、ある日突然氷解する事になる。

「何で戦争が互角のまま推移してるのか?という疑問からスタートして、直ぐに答えに辿り着いた」

「互角じゃ駄目なんですか?」

ルシファがここで初めて口を開いた。現に戦争は互角で推移していると報道されているし、両国の力関係も拮抗していたはずだ。長期戦になる事は前々から予想されていた。

「駄目だな。俺たちはこの戦争は長くても半年で決着が付くと予想してた」

「半年!? いくら何でも短すぎる!」

「ところが、この国にとってそれは十分な時間だった」

「何故?」

「それは最初の疑問に答える事になるな」

「・・・フェイトと、ライト・・・」

「見たはずだ、あれは人間じゃない。現在調査中だが、ありゃアンドロイドかサイボーグかえーと・・・・まあ、そういう類のものだ」

「でも二人だけじゃいくらなんでも」

「現在確認できている同一固体は5体」

「なっ・・・」

「そりゃ出所が分からんのも当たり前だった。ただの機械じゃ俺たちはどうしようもない」

彼らが感知できるのは、あくまで力の反応であり、機械が何をしようと彼らではどうしようもなかった。

「機械って、だって二人ともちゃんと食べて寝て大きくなって、感情があって―」

「熱くなるな、そんな事は分かってるし、ちゃんと調べてる、エミル」

「はい、 彼女たちと同じ固体から、今まで分かった結果をまとめますと、どうやら一般生活を送るにあたっては特に普通の人間との違いはありません。ただ、あらかじめ脳は人工的に作られていたのをそのまま入れていたようですし、恐らく・・・機械そのものが成長してるんじゃないかと」

「そんな技術がこの国に・・・?」

「そこで注目されたのが最初の力の反応」

「誰かが入れ知恵でも? けれどさっき世界を渡るには力が弱すぎると―」

「俺たちに気にされないほどの気配しか見せずに他の世界へ移動することができる存在ってのは結構いる。ただ、そこまでのクラスとなるとこっちも容易には手が出せない」

「じゃあ、フェイトやライトを作ったのって・・・」

「そいつ、かもな」

かつて無いほどの怒りが満ちるのが分かる。ただ、これで全てが分かったわけではない。

「では、私の存在にはどんな価値があるんですか? 今聞いた話しが本当なら―」

「分からん、話を聞こうにもお前の両親は行方不明、製造してた工場は既に閉鎖、別件で忙しかった事もあって、俺たちがここに来れたのはほんの2日前だったからな。初動捜査が遅れた、というのは事実だ。厄介な事にならない様祈るばかりだな」

「それで、これからどうするんですか?」

ここで彼はいたずらっ子のような顔になってさらりと言った。

「軍のトップに乗り込む」

「はあ?」

「大丈夫、俺たち強いから」

「いや、理由になって―」

「いいから来い」

そしてそのまま引っ張られるようにして彼は、今、防衛省の目の前に立っていた。

結局事情はまだよく飲み込めていない。そもそも、こんな切羽詰った状況になるまで動かなかった彼等もそうだし、エミルの活動内容もよく分からない。18年前と言えばまだ生まれたてで、そんな状態で派遣されても何もできはしないだろう。イリア人と言う事にしておかずに、最初からこの国の国籍にしておけば変に隠れる事は無いし、その時工場なり両親なり調べておけば自分はこんな思いをせずにすんだし―。

つまるところ、彼は自分の置かれた立場をこの時何も理解していなかった。

「え?」

あっけなかった、それもこれも全部。軍のトップとして毎日ニュースで戦意高揚を訴えていたはずの指揮官はセイバーの顔を見るやいなや震え上がり、ある事無い事全て話しだした。どうだ、という顔をランスロットにされるがどう反応すればいいか、こちらは全然分からない。

30分ほどで彼の話は終わり、戦争はあっけなく終わりそうだった。その事情はあまりの下らなさにLIGHTSのトップ三名が溜息を付くほどの物で、フェイト達の事に関しては何も知らなかった。つまり、彼等が見つけた5体のそれは機能を果たしていなかったということだ。本当にただの人として暮らしていただけの様で、何でわざわざ彼女たちに限ってこんなことが起きたのか、そして母さんの行動の意味も、父さんの手紙の意味も、自分が何なのかも、何も分からなかった。

「なあ、エミル。質問がある」

帰りの車内、彼は隣で運転する彼女に今日の疑問を問い詰めてみようと口を開いた。

「いいよ、何?」

「お前、本当は年いくつだ?」

彼女は本当に感心したように声を弾ませる。

「よく気付いたね、いくつだと思う?」

「500歳」

「そこまでおばさんじゃないよ」

500年が彼女たちにとってどれくらいの長さとなるのか想像もつかなかったが、考えているうちにそれなりの推測はできていた。大体、彼女だけでなく今日来たセイバーもランスロットも、運転していたあの男も、見かけは若かった。なのに18年前という単語がさらっとでてくるのだ。どう考えても寿命がこの世界の住民とは違う。

「他には?」

「あんたらはまだ、俺に何か隠してる」

「何で?」

「LIGHSとやらがどれだけの組織か知らないが、本当に全世界を管轄に入れているのだとしたら、そう簡単にトップが来るわけが無い。幹部クラスはいっぱいいるんだろう?」

「でも、緊急に備えて来たと言う事も」

「無いな」

「どうして?」

「緊張感が無さ過ぎる。彼等が今日した事と言えば、無闇に俺を連れまわした、と言う事だけ。大体エミル、お前なんで最初から俺をその組織の施設に連れて行かなかった? あそこならフェイトもライトも暴走したところであの人たちが取り押さえてくれただろう?」

「いや、多分切り捨てたと思う。ああなったら彼等は容赦が無いから」

彼女は車を停め、こちらに向き直る。

「ルシファ、正直私はまだこの組織に入って長くない。中には彼等を神のように信奉しているものもいれば、疎んじているものもいる。それは組織内外を問わない。それに君以上の情報を私は持ってないんだ。何故あんな所に連れて行かなきゃならなかったのか、私には分からない。信じるべきは自分、だよ」

「自分・・・か。誰なんだろうな、俺は?」

「それも分からない。ただ、この国の住民でもなければ、イリア帝国の住民でもない。他の小国の住民の血統パターンも見てみたけど、該当するものは無かった。もしかしたら、ルシファも違う世界から来たのかもね」

「馬鹿いうな」

「全くだ、降りよう。折角君と二人でお泊まりできるんだから」

一瞬、時が止まった。

「はあああああああああああああああ?」

「大丈夫、優しくしてあげるよ」

「何をだよ!」

その時、そんな彼等を見つめる影が、ゆっくりと動き出していた。

「久しぶり、っていっても昨日会ったけど」

「エリック!?」

彼女に導かれるまま部屋に入ると、誰かの影が見えた。隠れて、と目で告げる彼女に従い、後ずさろうとした瞬間、後ろから誰かに押さえ込まれた。まずい、と思って必死で振りほどくと、見えた顔は馴染み深いものだった。

「もう、本当に驚いた」

「悪ふざけは学校だけにしてくれ、さすがにもう疲れた」

「はは、今日学校に来なかっただろ? お前にしちゃあ珍しいと思ってお前の家行ったら

誰もいないし、エミルも休みだったからついでと思って行ったんだが、あれ? お前家いなかったのか?」

「どいういうこと? 私風邪引いて、病院に今まで行って来たところなんでだけど・・・」

「そんなことより、こいつが勝手にお前の部屋に入ってた事の方が問題だろうけどな」

するとエリックは彼に弁明口調でまくしたてる。

「ち、違う。ちゃんとチャイムは鳴らした。それで中から入っていいよ、って許可が下りたから入ったんだ。無断で入るなんてそんな事俺はしない!」

「どうだかな」

「お前なあ!」

「でも、わざわざありがとう。うれしいよ」

「なあに、こっちも色々感謝してるからおあいこだ」

そう言って、何故かこちらに意味ありげな目線を送ってきたが何の事だかさっぱり分からない。

「お前、よくエミルの家知ってたな?」

ここがエミルの家だなんて知られたら、男共が殺到しそうなものではあるが、学校でそんな噂を聞いた事はなかった。

「知らないお前が寧ろ少数派なんだよ」

「は?」

「ルシファってほんと他人のプライベートに全く踏み込まないよね」

「そんなに有名なのか?」

「いつも誘ってるのにお前は来ねえじゃん。普通に外で遊ぶときはノリがいいのに」

「そうだったか?」

他人の家に行くなんてここ数年、というより出生に関して言われてからは確かに彼は他者との干渉を避けていた。それは、妹の事を思ってと言うよりは、他者と深い関係になる事を避け続けてきた結果だった。

「少なくとも、クラスの半分くらいはご招待してるよ」

「そして、今日初めてお前が来た、ということにしておいてやろう」

「ということにしておく? おいそれはどういう意味―」

「皆までいうな。邪魔者はここらで退散するから。二人とも元気そうで何より」

「うん、ありがとう」

「おいエミル! 何か俺たち誤解されて―」

「何言ってるんだ? 風邪で休んだ彼女に付き添って一緒に病院に行った挙句、看病してやろうと一緒に帰ってきた微笑ましい図だろ」

そう言って、さっさと立ち上がり、出て行こうとするエリック。エミルが下まで送ろうと言って立ち上がっていったのを見送り、彼は今日何度目とも知れない溜息をついた。

彼が部屋で一人いる頃、エミルはエリックと共に屋上にいた。

「エミル、何でわざわざ自分の部屋に彼を入れた?」

「そ、それは」

「規約違反だ。それも重度の」

そこには先ほどまでの友人としての雰囲気は吹き飛んでいた。

「彼は―」

「あいつが何であれ、その処遇は上が決めることだ。俺たちがどうこうしていい問題じゃない」

「だって、このままじゃ・・・」

既に、彼女は目の前の現実を直視できていなかった。最初は純粋に使命感から、この任務をこなすことだけを考えていた、が、その任務での出会いが、彼女の最大の誤算だった。

「あいつがこの先進める道は三つだ。俺たちに従うか、誰かの思惑通りになるか、俺たちに殺されるか」

「殺すって」

「平和は犠牲の上に虚構として成り立つものだ。お前があいつのこと本気で好きになろうがどうだろうと、命令が下れば」

彼女を見るその目は、何の温かさも宿してはいなかった。

「殺す」

「い・・・嫌だ! まだそうだと決まったわけじゃない!」

それはもう、単純な感情論だった。

「今日はこれで帰る。今日の件に関しては見逃してやるが、二度目はない」

「エリック!」

彼女が前を見た時、もう彼の姿はどこにも無かった。

「だって、もう・・・」

いつも好きで眺めていたはずの夕焼けも、今日ばかりは彼女には何の感動も与えてはくれなかった。


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