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第三章 第四節 一つの真実

「流石に揃えてるなあ」

 彼は兵器庫に通され、驚嘆の声を挙げた。幾千物武器が所狭しと並べられていた。剣、斧、大剣、槍、盾に鎧。何でも揃っていた。

「ここにある武器だけで戦争できそうだ」

 内戦中という事もあるのだろう、武器はきちんと手入れされ、整然と並べられていた。

「相手とこっちとの戦力差はどれくらいなんだ?」

 ルシファはさっきから入り口に立ちつくしているクリスの方を見る。

「王の兵は約2千、相手は恐らく千五百程度かと聞いております」

「やや優勢か・・・」

 いざとなれば自分が戦う事も辞さない覚悟だったが、それならばしゃしゃり出て相手を蹴散らす必要は無さそうだった。

「あまり世界の摂理は壊したくないし」

「はい?」

「いや、こっちの話し」

 彼はそのまま兵器庫から出て書庫へと向かう。王子の授業は日が沈むまでと聞いている為、それまでにこの世界の情報を掴んでおかなくてはならなかった。

「クリスは、ここに来てどの位?」

 道すがら、彼は例によって前を歩く彼女に声をかける。

「八年になります」

「へえ、長いんだ。子供のころから?」

「いえ・・・」

「あ、ごめん。立ちいった事を聞いた」

 そんな事を言っているうちに書庫に辿り着く。

「ここでいいよ。適当に読んで終わったら自分で部屋に戻るから」

「かしこまりました」

 去っていく彼女を見送ってから、彼は自分に気合を入れ、

「さあて読むぞ」

 本の山に戦いを挑んだ。


「なるほど」

 数時間後、彼はこの世界の大概の情報を仕入れていた。どうやらこの国の歴史はまだ新しく、先々先代の王が建国を宣言したのは約百年前。武力と政治力を駆使してのし上った印象を強く感じるが、何故短期間にここまで勢力を拡大できたのかは謎だった。

 主な産業は工業で、資源が豊富らしい。とはいってもルシファの世界より文明水準は遅れている為、彼から見れば大した事は無い。人口もこの世界では多い方だが、全体的に人口密度が高い世界でも無いらしい。戦争は小規模な物が日常茶飯事に起こっているが、この内戦はその中でも大規模戦の部類に入る。

 政治制度は確認していた通り王政だが、皇后、そして貴族院も一定の発言力を持っているようで、絶対王政というわけでも無いらしい。

「こんなもんかな。後は何故弟さんがこんな強硬手段に出たのかだけが気になるところだが」

「知りたいか?」

「ああ、もち―」

 ルシファが慌てて振り向くと、そこにはすらりとした顔に、自信に満ち溢れた表情をしている剣士が一人。

「どなたでしょうか?」

「俺の名前はクゼル。この国の戦闘隊長をやってる」

「戦闘隊長?」

「ああ、例の護衛さんか? わざわざ国の歴史を調べなおすなんて、あんた相当な世間知らずか?」

「ああ、まあ」

 適当に言葉を濁しつつ、ルシファはクゼルと名乗った男を観察する。能力は持っているようには見えない。自分の事はただの傭兵としか伝えられていないはずで、何故自分にそんなエリートが話しかけてきたのかが問題だった。

「あの女」

「は?」

 思わぬ話題に彼は一瞬返答が遅れた。

「何だ、あの扉の影で静かに待ってる奴の事だよ」

「影で?」

 誰だろう、と覗いてみるとクリスがそこに立っていた。

「・・・どうした?」

 急に後ろから話しかけられた彼女は身をびくっと振るわせた後、弁解するかのような口調で、

「すみません、ですが」

「何々? 内緒話か?」

 ルシファの後ろからクゼル現れ、そのままクリスの頬に手を当て、そっと口付けをする。

「いつ見ても綺麗だ。この戦争が終わったら褒美として貰い受けようかねえ」

 そういって彼は軽くルシファに手を振ってどこかへと歩いていった。

「奴隷制はどの国にもあるなあ」

 彼はやれやれと嘆息を漏らした。クゼルのキスにも何ら反応する事も無かった彼女は暫く黙った後、意を決したかのように彼に口を開いた。

「あの」

「どうした?」

「お話があります」

「話し?」

「はい」

 ルシファの問いに彼女は真剣な声で彼の名前を呼んだ。

「ルシファ・L・イエルズ。貴方にしか話せない事です」


「どういう事か、聞かせてもらおうか」

 ルシファは自室へと戻り、ソファに腰掛けている女性に話を促した。口調は先ほどとは一変しており、凛とした声が室内に響く。

「私は、この世界の住人ではありません」

「それで?」

 大して珍しい話でもなかった。自分が気付けなかったのもまだまだ未熟だからで、そこのわずかな悔しさはあれども、彼の顔にそれが現れる事は無い。

「ケルベロスの事は知っていますか?」

「ああ、とはいっても詳しいわけじゃない」

 いきなり出てきたケルベロスという名前にもルシファは驚かなかった。異世界からわざわざこの世界に来たのは彼の味方だからか、敵だからか。そこははっきりさせておく必要があった。

「結論から言いますと、ケルベロスとは実在しません」

「実在しない? しかし―」

「概念はありますが、人が創り出した神と同じように、その存在は概念だけです」

「誰がそんな概念を作った?」

 ルシファの問いに彼女は真っ直ぐ彼を見つめて言い放った。

「私です」

「君が?」

 意外な回答に彼は新たな疑問で頭が溢れかえる。

「はい、それが私の役目ですから」

「詳しく聞こう」

「私が創り出されたのは、十五年前。『ハムルス』傘下の企業で極秘裏に製造されました」

「ライトと一緒か」

 ルシファの呟きに彼女は一瞬驚きの表情を作った。

「知っていましたか?」

「ああ、それで?」

「私はこの世界に送り込まれ、何も分からぬまま、言われた通りこの家に仕えています」

「俺にそれを話しているのも指令か?」

「はい、LIGHTS隊長から、直々に。こんな事は初めてなのですが」

 LIGHTS隊長、セイバーがわざわざ自分に伝えてきたという事は、それは『ハムルス』と何らかの繋がりがある事を示していた。

「それで君はどんな能力を持っているんだ?」

 ルシファは早速本題に入る、彼女はともかく彼女の話し自体は信用できるとの判断が既に彼にはあった。

「私に与えられた能力は、人々にそういった概念を信じ込ませる事」

「信じ込ませる?」

「はい、目的は真犯人の隠蔽です。仮に私が何かの犯罪を犯し、それを誰かに見られても、犯人はあいつだと私が言えば、相手は私の言葉を信じます」

 半信半疑で聞いていた彼だったが、彼女の言葉を聞いた瞬間、脳に強烈な負荷がかかった。まるで、何かで頭の中をこねくり回されているかのような感覚に、彼は一瞬意識を失う。

「・・・なるほど。強烈な能力だな」

「信じてもらえましたよね」

「たった今身をもって知ったよ。常時発動するのか?」

「いえ、私が望んだときにだけ」

「だったら、誰が王子を狙ってるんだ? ケルベロスじゃないんだろ?」

「はい、恐らく私は近いうちに彼を殺すよう指令が下りるはずです。この国の資源は彼らにとって非常に有益ですから」

「だから弟を操ったのか、君が」

 ルシファの推測に彼女はこくりと頷いた。

「ですから私を殺すようにと、セイバー様が」

「そう、なるよな」

「私は自分では死ねませんから」

「いいのか? それで」

 ルシファの問いにも彼女は冷静な表情のまま、ただ頷いた。

「嘘だな」

「何故? 嘘では―」

 言いかけた彼女の言葉を制し、ルシファはクリスに告げた。

「なら何故俺に殺させないんだ? 言えばいい、死んでも構わないなら。貴方は私を殺すべきだ、と」

「なっ」

 動揺する彼女に彼は冷徹な声で決断を迫る。

「死にたいんだろ? 言えよ。殺してやる」

「わ・・た・・・しは・・・」

「死にたくないよな」

 ルシファはそっと彼女を抱き締めた。言われるがままここにたった一人いた彼女。やっと見つけた『ハムレス』への鍵が、ここにある。

「大丈夫、君は死なない」

 もう、ライトのような例を見るのは御免だった。ルシファは体を離し、クリスの目を近くで見つめて、微笑み、彼女もそれにつられて、笑顔になった。

「『ハムレス』の指令は絶対なのか?」

 まだ微笑んだままの彼女はそれでも冷静に事実を述べていく。

「はい、定期的に連絡が来て、王子の様子や、国の内政について詳しく尋ねられますから」

「分かった」

 自信ありげな笑みを見せるルシファにクリスは顔を傾けて疑問の意を表す。そんな彼女にルシファは一つの頼みを告げた。

「セイバーをこの世界に呼んでくれ」


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