第二章 第六節 意外な結果
「それで、どうなったの?」
「そのまま二人とも消えちゃって、私は途方に暮れたんだけど、すぐにLIGHTSから迎えが来て」
「予定通りだったわけか」
ここはLIGHSの本部の敷地内にある病室。マルクと恭介は二人、大事を取って入院していた。白で統一された室内に彼らのベッドが二つ。そして今はお見舞いに凛が訪れている。
特に異常も無いため明日には退院できるとの事で、ひとまず安堵した彼女はすっかり調子を取り戻し、彼らに事の顛末を語っていた。
「あれで合格なんてな。他の奴らはどんだけ甘い試験受けてんだか」
恭介はベッドで横になり、天井を見上げる。あれだけの戦闘の後にも関わらず体に特に怪我は無く、注意して闘われていた事を実感する。
「俺なんか直ぐに気絶だぞ・・・情け無いやら悔しいやら」
「あの人が来なかったら私もやられてた。マルクだけじゃないよ」
凛はあの時の事を思い出して、背中がゾクッとするような感じを覚え、一人身震いする。
「あいつか」
「あいつだなんて」
「感謝はしてる、けど」
圧倒的な強さを見せ付けられた彼は、自分がいかに井の中の蛙であるか思い知らされていた。
「強い、あんなのが世界にはごろごろしてるんだろうな」
マルクの感想に恭介は頷いた。
「ああ、だから俺達も強くならなきゃいけない。もっと」
「強くなれるよ、私達」
「とりあえず、スタートだ」
彼らは決意新たに前を見た。先に広がる、どこまでも続く未来を。
「合格したのは十五人!?」
「意外だよね。こんなの前代未聞、だってさ」
恭介はフラグラスと今日室内で話していた。朝、今日室内に入ってから妙に空気が重かったのは感じていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
「誰が合格したんだ?」
「僕の班と、エリックの班と、ルーカスのとこ、そして恭介」
「後一つは?」
ここまでは実力どおりと言っても差し支えない面々だった。
「・・・キューエル」
「あいつ?」
キューエルの顔を思い浮かべながら彼は驚きの声を挙げた。周りから何事かと視線を向けられたが、そんな事を気にしていられるほど彼に余裕は無かった。
「驚くよなあ、あいつそんなに強かったっけ? 他の二人も別に、だし」
「うーん」
彼らは考え込むが答えは出ない。一応任務という扱いではあるので、クラスメイトにさえ課題の内容は話せなかった。
「どの道、卒業式までこの重たい雰囲気は続くみたい」
彼は教室を見渡して彼にやれやれ、と視線で告げてくる。
「仕方ない、今年はいつもより厳しかったんだろ」
とは言いつつも、彼はそれを当然だとも感じていた。あの実力者達を相手にしていける程の強さを持ったものなどこの学校にはいない。
「合格した奴もどこまでいけるだろうな。相当きついぜ、これから」
「どうしたの? 何か弱気だね」
「違う、現実を知っただけだ」
「現実?」
「そ、つい前までは想像することも出来なかったような」
彼はそう言って自分の席に着く。マルクも何だか上の空で窓の外を見ていた。エリックは相変わらず取り巻きを連れてへらへらしていたが、あれで実力者なのだろう、と彼は密かにエリックを見直した。
「ルーカスはまあ分かるが、キューエル、ねえ」
落ちこぼれのキューエル。それが学校全体で見た時の彼の評価だった。学業が優秀なわけでも、能力が優れているというわけでもない。寧ろ同じような落ちこぼれが三人揃っていたあの班はまず落ちるだろうと目されていたのだ。何が合格に作用したのか全く分からなかった。
卒業まで一ヵ月、最後に合格者に対して行われるのは実際にLIGHTSの隊員との模擬戦闘をすることだった。その実力と力を見せどんな任務が合っているか、どんなパートナーとなら効果的にその力を発揮できるか等の適正を見るためのもので、既に相手は決まっていた。
「ランスロット」
相手は事実上のNo.2、セイバーの右腕と言われ、その力と功績は充分彼も知っていた。
セイバーもボルクもいないため、出てくる隊員の中では最強レベルの能力者。
「やってやる」
勝てないまでもそれなりの対策は立っていた。彼の能力は有名だったし、何も知らない状態で戦うよりは遥かにましだった。そしてそこでの戦いで、まず彼らの評価が決まる。
「日程が決まった。明後日の午後一時から、同時に3試合ずつ行い、一番評価が高かったものは主席として卒業式に出席してもらう」
当然ながらクラスの盛り上がりは無く、流れるのは微妙な雰囲気。
「あー、そういうことだからな。合格者はきっちり体調を整えておくように」
そう言って教師は教室から出て行く。残り少ない学校生活。落ちた者もここのネームバリューさえあれば、違う世界で就職する事は容易であるため特に生活には困らないが、それでもやはり空気は沈んでいた。
「なーんか、ね」
恭介の部屋で三人は集まっていた。ベッドにもたれかかっている凛の言葉に恭介は考えを止める。
「何か気になるの?」
例のごとくマルクが素早く反応したが、凛は浮かない顔で押し黙る。
「合格者数が異様に少なかったこと?」
「え、いや」
「ああ、キューエル」
凛の反応で恭介は今朝の事を思い出した。
「知ってたの?」
凛の質問に彼は頷きで返す。
「今日少しな」
「おかしいよな、この状況。課題もそうだったけど」
「ああ・・・」
マルクの言葉に、恭介は再び考え込む。
「まあ、考えてもしょうがないし、明後日頑張ろう」
「あ、そうだ。恭介相手誰?」
気を取り直すようにマルクが声を挙げ、凛が話題を切り替えた。
「ランスロット」
「はあ!?」
帰ってきた言葉に二人は驚いて彼を見た。
「強敵だろ」
「何か凄いね、恭介」
「偶然だろ? それより凛は相手誰なんだよ?」
「エミル先生、マルクは?」
「俺はノグマさん。ま、妥当かな。恭介よりは大分マシ」
「ふん、何とかするさ」
彼はマルクの言葉に闘志を燃やし、拳を握り締めた。




