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第二章 第四節 卒業試験

「とうとう来たか」

 卒業試験当日、彼はいつもより少し早く起きて制服に着替えた。外は晴れているが、この世界の天気は今の自分達には無関係だった。

「おはよう、眠れた?」

 凛が丁度ドアから出てきてこちらにやってくる。

「まあな、そっちは?」

「同じく」

 二人は並んで歩きながら食堂への道を行く。この学校の食堂は一階の端っこに位置しており、そこでの朝食の時間に各グループに任務内容が言い渡される予定だった。

「おはよ」

「おう、そっちも今日は早いな」

「勝負の日だからな」

 食堂に行くとマルクが既に席に座っていた。読んでいた本には丁寧にブックカバーが掛けてあった。例の本だろうな、と彼は思うが口には出さない。

 その後、ぞろぞろと人が集まりだし、グループの数だけ隊員が前に立ち、ランスロットが中央に立って説明を始めた。

「今から、各グループに卒業試験の課題を通達する。それぞれ隊員が一人ずつ同行するため、各員指示を聞き、LIGHTSの一員である事を自覚して試験に臨む事、以上だ」

 しれから隊員が一人ずつ付くが、その中で一際歓声が挙がったのが、エリックの班だった。

「セイバー様が!?」

「どこからどこまでもVIP扱いだな」

凛とマルクは純粋に驚いているが、恭介は一人ほっとしていた。今の内から戦い方を知られるのは少々嫌だった。

 その後も隊員が一人一人付いていくが、何故か彼らには誰も来ない。

 いい加減不審に思ったのだろう、凛が手を挙げて質問した。

「すみません! 私達は?」

「お前達の担当は現地で待っている」

「現地で?」

 凛の質問に近くにいた隊員が答える。

「ああ、何だか知らんが期待されているみたいだぞ、頑張れ」

 そう肩を叩かれ彼は行ってしまう。

「あれ・・・」

「ああ、カイルさんだ」

 カイル・ロンダート、LIGHTSの若きエース。恭介の当面の目標でもある人物は、他の班に付いているエミルと一言二言交わし、担当の班に付く。

「現地だってさ」

「現地ってどこだよ!?」

「さあ」

 凛、恭介、マルクは顔を見合わせる。世界移動の呪文は力があればだれでも扱える易しいものだったが、行く場所が分かっていないとどうしようもない。

「ほら、ここだ」

「ランスロット様」

 彼からメモを手渡され、彼らはそれを覗き込む。当然ながら世界の詳しい情報は分からないが、彼らは胸を膨らませる。周りを見ると、もう既に、この世界から離れている班もある。

「それじゃ」

「さっさと」

「行くぜ!」

 凛、マルク、恭介はそれぞれ自分に気合をいれ、初めての異世界へと、その足を踏み入れた。


「ここ?」

「みたい」

 マルクと凛が興味深そうに周りを見渡す中、恭介はおかしいと思った。

「で、担当はどこだよ」

 彼らは砂漠のど真ん中にいた。吹き荒れる風が彼らの髪を揺らし、飛んでくる砂がたまに目に入り痛い。

「とりあえず歩こう、気配も無い」

 そのマルクの声を合図に三人は歩き始めた。砂舞う地を足跡を残しながらゆっくりと進む。そのまま歩いていくと、急に視界が開け砂で出来た四角い建造物が現れた。

「何、これ?」

「聞くな・・・」

 凛の質問に恭介は何も言えない。ただあるそれは、入り口を大きな口のように開け、ただそこに建っている。入って来い、と言われた気がした。

「行こう」

 恭介は足を踏み出す。後ろの二人も黙って歩き出し、彼らは建物の中に足を踏み入れた。

「RPGかな?」

「ロールプレイングゲーム?」

 凛が話しに乗ってきた事により、調子付いたマルクが嬉しそうに話しだす。

「そう、主人公が一人とパーティーが一緒に同じ目的のため、ダンジョンや色んな世界を廻って冒険する。今は丁度そんな状況じゃない? 主人公とヒロインが誰かは知らないけど」

「さあな」

恭介は向けられた視線を無視して前へと進む。入ってから一本道が続く上、何も出てこない。これではダンジョンでも何でも無く、ただの建物。つまらない、と思いながらも警戒は緩めずただ前を行く。

「ん?」

 恭介は前を見た。そこは出口だろうか、彼らの前には入り口と同じように大きな口が開いている。暗く、その先は見えない。

「出口?」

 それに合わせて足を止めたマルクが恭介に並ぶ。

「おかしいぞ」

「何が?」

「ああ」

 凛が聞くのと同時にマルクが気付いた。

「ドアも無いのに先が見えない」

「あ」

「ご名答」

 そこには先が見えなくなるような遮蔽物は存在しないにも関わらず、先は闇に包まれ何も見えなかった。

「誰か・・・いるってこと?」

「少なくとも、何かはここを見てる」

 恭介は唾を飲み込んだ。ここまでの世界と建造物をこのためだけに作ったのだとしたら、相手は相当の能力者だ。まともに戦って勝ち目があるのかすら疑わしかったが、

「まあ、試験だ。相手も殺そうとはしてこないだろう」

 そう言ってマルクは歩き出した。確かに、と彼は気を取り直し、マルクの後に続く。それを見て凛も続き、彼らはその向こう側を見た。


「あれ?」

「戻った?」

「・・・」

 彼らは入り口に立っていた。何故入り口か分かったのかというと、自分達の足跡が何故かまだ残っていたから。

「どういう事だ?」

 恭介は考え込む。今まで通ってきた道におかしな所は無かった。となると、

「誰かが何か―」

「僕だよ」

 後ろを振り向くとそこにはいつぞや教科書で見たままのエルフがいた。

「誰だ?」

 恭介は彼を睨みつける。彼は涼やかに答えた。

「エデフィ」

 マルクが首を傾げる。確かに、と彼も思う。そんな男の名前は聞いた事が無かった。

「知らなくてもしょうがないよ。無知じゃない。活動してたのは百年も前の話だし」

「そんな昔話にでてきそうな奴が何のようだ?」

 恭介の凄みにも彼は怯むことなく大仰に、

「知らされて無い? 聞いてないのかな? 君達の担当だよ。特別な」

「担当?」

「え、だってこの人」

「LIGHTSじゃない」

「おやおや、口々に言われても困るな。参っちゃうよ」

「で、どうすればいいんだ?」

 人を茶化す態度を取り続ける彼に恭介は鋭く問う。

「簡単だよ、難しくない。僕に一撃与えれば合格」

「は?」

 マルクが驚きの声を挙げた。

「随分と舐めてくれるじゃない」

 凛が直ぐに戦闘態勢に入る。

「言ったな、後悔するなよ」

 恭介が力の展開を開始する。

「上手くいくかな? いかないかな?」

 こうして、一見簡単そうな卒業試験は、幕を開けた。


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