Chapter.0「黄昏の演奏会」
僕は、モノクロームの世界に住んでいる。そして、そこで色を売ることで生計を立てている。変わらない事実だ。これ以外で生を営むことは不可能と言っても良い。1ozの色はこの世界で非常な高価なものなのである。ダイヤモンドも、プラチナも、サファイアも、エメラルドも、これには敵わない。純粋な色、つまりまっすぐに輝く色を僕は探し続けている。そう、僕は色彩商人なんだ。
羽休めも兼ねて、今日は街のテアトリーノに音楽を聴きに来ている。2枚のソリドゥス金貨を払ったら、決められた席に案内された。音楽鑑賞のお供はライ麦のパンと伝統的なビーンズスープ。この街の劇場は非常に小さいため、限られた者しか鑑賞券は与えられない。今回はローマ帝国から招かれた音楽家が演奏すると告知されているために、劇場の外にも沢山の人が詰めかけた。今日の曲目は、隣街の若手音楽家「ヨヴァンカ・シルヴァンティエ」の楽曲が中心である。複雑なオーケストレーションはプロの演奏家が集まってもなかなか真似できない。シルヴァンティエの楽曲でしか使われない創作楽器も多く、僕の国で最近人気の電子蓄音盤の音楽家別の売上では常にトップクラスの売上を誇っている。人は彼女のことを天才と呼ぶが、僕も同感だ。最近はあまり新曲が出てこないが、人々は彼女の新曲を本当に心待ちにしているのだ。
ゆっくりと緞帳が開き、夢の時間が始まる。決して寝ているわけじゃない、だけど僕は断片的にしかこの時のことを思い出すことは出来ないんだ。今日も僕は「シルヴァンティエ・マジック」の被害者になってしまった。だけど、非常に心地よい。明日からモノクローム以外の色を求めて新境地への旅を始めるけど、この街との別れに最高の思い出が出来たと思える良い経験が出来たと思う。ようやく、ここにも電気が通り、近代化の波が刻一刻と迫っていることを感じさせられた。僕はこの街が愛おしい。緑溢れて、平和なこの街が。だけど、僕はここを離れなければならない。色彩商人はクライアントが欲しがる色を探し出すのが仕事だ。僕は生きていくために、その日の下着と数枚のソリドゥス金貨だけを持って街を出た。
次の街は何マイル先にあるかわからない。数年前のプラチナフレアの所為ですべてが無茶苦茶になってしまったこの世界。もっとも美しい青色が見つけられたとき、僕は死んでもいい。そう感じている。世界には愛よりも大切なものがある。その正体は僕も知らない。