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妖の箱庭  作者: 幽咲 ユノ
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第4話 力が全ての世界

「これがあれば貴方は私の言う事を聞くのね」


『ぐっ…』


さっきの不気味さとは打って変わって顔を俯かせて、尋常じゃない程の殺気を放っている。それだけ人に命令される、ましてや私の様な小娘になんて相当屈辱的なのだろう。


「心配しなくても別に貴方に何か命令しようなんて思ってないよ」


私はただ、自分の家に帰りたいだけなのだから。

まぁ…殺されるのは勘弁だけど…。


『それにしても…何故嬢ちゃんがこんな術を…。

この術を支えるのは一部の限られた人間だけのはずじゃが…』


「私にもわからない。本当、どうしてだろう」


別に小さい頃から霊感があったとか超能力的なものが使えたとかそんな事は一切なく、極々普通に今までの人生を送ってきたのだ。


こちらに来て変な力にでも目覚めたのだろうか…?


「まぁいいか。とにかく、あの鏡妖怪探してとっとと元の世界に返してもらわないと」


あの妖怪が私を引きずり込んだなら、話を聞く価値は充分ある。だが、問題は。


「話し合えるかな…」


出来れば、というか絶対に話し合いで解決したい。格闘技でもやってれば話は変わってくるのだろうが、生憎、私には武力行使という選択で結果が望めるとは到底思えないのだ。


酒呑童子に命令すれば、一瞬で事は終わるのだろうが、彼にはさっき命令しないと言ったばかりだ。頼るわけにはいかない。


『話し合いなどと生ぬるい…。

妖怪の世界は力がものを言う、力無き者はすぐに殺される』


俯いたままの酒呑童子が冷たく言い放った。

淡々とした口調だが、どこか寂しげに聞こえるのは気のせいだろうか。


「それでも行くよ。元の世界に帰りたいから」


『…勝手にせい』


言霊縛りがある限り私に触れられないと思ったのか、酒呑童子は一度もこちらを見る事なくその場に固まっていた。

私は一度だけその姿を見て、それから先程の三体が逃げ去った方向へと足を進めた。



======================================


酒呑童子と別れてからもうどれだけ時間が経っただろうか。


未だに、あの鏡妖怪は見つかりません。


「何処に行ったんだろう…」


幸い、この辺りは家の数が限りなく0に近い為、他の妖怪に姿を見られていない。

人間がいると知れたらきっと妖怪探しどころじゃなくなる。


『あっ!!さっきのっ!』


「ん?」


近くの雑木林から飛び出してきたのは、さっきの三体の中の一体。目玉が一つしかないから、きっと一つ目小僧だよね。


『お前、酒呑童子はどうしたっ!逃げたのかっ!』


「う、うん」


逃げたとは微妙に違うが、説明するのも面倒なので逃げ切った事にした。


『なら、今度こそオイラ達が食ってやるっ!』


「っ!」


やっぱり、話し合いで解決。とはいかないのか。

子供とは言え、相手は妖怪。武力じゃ完全にこっちの不利だ。


『やぁぁっ!』


一つ目小僧が拳を振り上げる。

出来るだけダメージを減らせる様に、身構えた。


ポコッ


「いたっ…くない?」


というか今かなりマヌケな音がしたような。

あ、そういえばコイツ確か酒呑童子に小石投げてたわね。


「もしかしてアンタ、滅茶苦茶弱い?」


『うっ!』


この世の終わりのような顔をして一つ目小僧は地面に倒れ伏した。

図星だったようだ。



しばらく様子を見てみるが、地面に倒れたままピクリとも動かない一つ目小僧に敵とはいえ可哀想に思たので彼の側まで歩いて体を起こしてやる。


「ねぇ、大丈夫?」


『大丈夫なもんかっ!』


人間に馬鹿にされるなんて妖怪の恥と言わんばかりに顔を歪める。それはなんだか親に注意されて拗ねる子供のように思えた。

こういう所は人間の子供とあまり変わらないらしい。


「あ、膝擦りむいてるじゃない」


『えっ?』


よく見たら左足の膝が赤い血で滲んでいた。

さっき勢い良く地面に倒れたから、その時にできたものだろう。

妖怪の血も赤いんだ…なんて不謹慎な事を思いながら何か出血を止められそうなものを探して自分の身体を探った。

完全に寝巻きなのでそんな便利なものがある訳なかった。


「仕方ないな」


パジャマの左手の袖を破って、それを一つ目小僧の膝に巻きつける。


『な、何してるっ!別にオイラはこのままで平気だ!』


「子供が強がらないの。いいから大人しくしてなさい」


怪我をして一番怖いのは傷口から細菌が入る事。

妖怪も病気になるのかは不明だが、そのままにしておくのは衛生的に良くないだろう。

包帯じゃないから完全には塞ぎきれないが、何も無いよりマシだ。


「はい。おしまい」


足に結ばれた布を見ながら関節を曲げたり伸ばしたり、何か思うところがあるのかその視線はずっと足に注がれたままだった。


『…あ、ありが…』



『_____おっ!人間と餓鬼妖怪みーっけっ!』



一つ目小僧が何かを言いかけた時、私達の背後から迫ってきた別の声にその声はかき消された。





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