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妖の箱庭  作者: 幽咲 ユノ
3/6

第3話 最凶の妖怪

突然の出来事にただただ茫然とする私の目の前には、細く、背の高い男が楽しげな笑みを浮かべて立っていた。


その艶のある長い黒髪は赤色の紐で1つに束ねられ、明らかに身の丈に合っていない袖の長い藍色の着物に特徴的な流し目を更に細めていて、彼からは少し強めのお酒の匂いが漂っている。


綺麗な人。


それが私の彼に対する第一印象だった。


だが、よく見ると彼の頭頂部に2つ、角が生えてるのが見えた。

この人も人間じゃない…っ!鬼!?


『ん?』


見つめ過ぎたのか、私の視線に気が付いた彼と目が合った。


『ほぉ。嬢ちゃんは人間か』


「っ!!」


彼の口角が少し上がるのを見て、身体中の毛が一気に逆立つような、そんな恐怖感に襲われた。

私の本能が警告を鳴らす。

彼は危険だ。絶対に近づいちゃダメ。


『おい、お前!そいつはオイラ達の夕飯だぞっ!出て行けっ!』


『デテイケ!デテイケ!』


さっき壁に穴を開けた力で吹っ飛ばされた妖怪の一体が男に向かって小石を投げた。

小石は放物線を描き男に命中する。が、男はピクリとも動かなかった。


『このっ…!!』


反応を示さないのが気に食わなかったのか、二体は男に殴りかかろうとした。


『おやめっ!』


二体の攻撃が届く前に目のない女性の声が部屋に響く。女性は酷く顔を真っ青にして怯えたように男を見て声を震わせた。


『あんた、まさかあの"酒呑童子"なのかい…?』


「しゅてんどうじ…?」


それが彼の名前…?

酒呑童子と呼ばれた彼はうむ。と頷いた。


『いかにも、儂が酒呑童子じゃ』


『しゅ、酒呑童子だって!?』


『ナンダ ソレ』


酒呑童子という名出た瞬間、一つ目妖怪の顔色が変わった。鏡の妖怪の方は、名前を聞いてもよくわからないようでしきりに体を傾けている。


『ば、バカッ!酒呑童子といえばあの三大悪妖怪の一人だぞっ!!なんでも、あの京の都で大暴れして、腹が減れば人でも妖怪でも食っちまうらしい…』


『ソソソソソウナノカ!?』


こそこそと鏡に耳(?)打ちしているようだが、話の内容がこっちにまる聞こえだった。



『あぁ、腹が減ったのぅ…』


『((ビクッ!!』


わざと大げさに言って反応を見て楽しんでいるようだ。

三大妖怪…と言われるくらいなのだから、彼は相当強いのだろう。三体はガタガタと震えだしたかと思うと出口に向かって我先にと駆け出した。


『あ、アタシはこれで失礼するよぉ!!』


『あっ!待てのっぺらぼうっ!!』


わぁわぁと言いながら一目散に逃げていく妖怪を見つめながら「なんじゃ、つまらんのぅ。」と大きく欠伸をした酒呑童子。


もしかして、助けてくれたのかな。

なんだ、いい妖怪もいるんだ。

そう思って私は酒呑童子に向き直った。


「ありがとうございました」


『ん?』


「助けてくれて」


すると、酒呑童子は目を一瞬見開いく。が、すぐにまたあの不気味な笑みに戻った。

その笑みになんだか嫌な予感がして、暑くも無いのに汗が頬に伝う。



『いやいや、儂は助けてなどおらぬよ


_____儂が嬢ちゃんを食いたいだけだったからのぅ』



地面を強く蹴って灯りもない暗い外へ駆け出した。

やっぱりいい妖怪なんていなかったよこのヤロー!

ちらりと後ろを振り返ると酒呑童子は笑みを浮かべたまま、両袖に手を入れてこちらを見ているだけだ。

もともと運動神経は悪く無い方だ。

暗い夜の中を全速力で走れば、どんどんと酒呑童子の姿が小さくなっていく。

これだけ距離があれば、簡単には追い付かれないはずだ。



「___これ、何処に行く?」


『きゃっ!?』


嬉々とした声がした後、すぐに背後からの予期せぬ力によって私の進行は止めらてしまった。

嘘でしょ…あの距離をほんの一瞬でって…っ!!


『な、なんでっ!』


酒呑童子は何も答えない。

あの恐ろしい笑みのまま、必死の抵抗をする私をいとも簡単に近くにあった木に片手で押さえつけて、空いた方の片手で顎を掴んで顔を無理矢理上げさせた。


彼の琥珀色の目が私を捉えると、身体中の力が抜けて抵抗する気すら消えてしまった。

無理だ…こんな化け物に敵うはずない。

私に残るのは恐怖、ただ一色。


「やだ…死にたくない…」


『死ぬのが怖いか』


そんなの怖いに決まってる。

ポタリと涙が目から零れ落ち、地面にシミを残した。

私はここで死ぬんだ、こんな訳もわからないような場所で、こんな化け物に喰われて。

こんなことならもっとやりたい事やっておけば良かったな。


『悪いのぅ。

せっかくの餌を逃がしてやるほど、儂は優しくなくてな』



悪く思うな。と耳元で告げられる。

強い酒の香りが鼻を撫でた。



____ガブっ!


「うあぁぁっ!!!」


首に焼けるような痛みに我慢しきれずに悲鳴をあげた。

その刹那、体が淡い光に包まれる。


『なんじゃっ!?』


その光はすぐに収縮されて、また元の暗さがやって戻ってきた。


「な、なんだったの。今の光…」


『くっ…!なんじゃこの鎖はっ!』


煩わしそうな酒呑童子の声に顔を上げると、彼の首には先程は無かった筈の鎖が嵌められており、彼が外そうともがく度にジャラジャラと音を鳴らしていた。


そしてその鎖が繋がっている先は、私の首…??


「なにこれ…っ!?」


慌てて外そうと試みるがどんなに力を入れても外れそうにない。というか、私の力で外せるものなら酒呑童子の力でとっくに外れているはずだ。

外れないのはどうやらお互い様らしい。


『くっ…忌々しい鎖じゃ。

まぁよい。とにかく、先に娘を食らってから…』


酒呑童子が再び私の首に手を伸ばす。


「っ!来ないでっ!!」


____グイッ!!


『なっ!?』


その叫び声に呼応するように、酒呑童子の体は後ろへと大きく吹き飛び、近くにあった家の壁へと激突していた。


えっ…ええっ?

い、今の…なに?

もしかして、私の願いが届いた…?とか?


「え、えっと…」


『ゲホッ、なんじゃ今のは』


崩れた家の残骸から酒呑童子が出てきた。

ただ、何故体が吹き飛ばされたのか本人もよく分かっていないようで苦虫を噛み潰したような表情をしている。


『!!…なるほど。

この鎖、【言霊縛り】か…』


「言霊縛り…?」


『厄介な呪いじゃ。

確か、言霊縛りを断つには繋がれた人間を殺さなければならなかったか…』


瞬間、酒呑童子が目の前に現れた。

そして私の左胸を狙って鋭い突きを繰り出す。


「やめて」


彼の手は胸部に当たる寸手でピタリと止まった。

思った通りだ。

やっぱり、この言霊縛りというのは相手に自分の命令を聞かせるもの。つまりは。


「私に触らないで」


『っ!卑怯じゃぞ…』


これでコイツは私にも触れる事が出来ない。

この鎖はそういうものなんだ。

鎖を触ろうと首元に手を当てるが、鎖らしきものに手は当たらず、触れたのは自分の首筋。


「あれ、消えてる?」


酒呑童子を見ると、彼も首元の鎖は消えていた。しかし、その首元には鎖のような模様が残っている。

鎖が模様に変わったって事かな…?

ということは私の首にもあれと同じ模様が…。


「…まぁいいか」


命が助かるのなら、模様だろうがなんだろうが何処にでもつけばいい。この際女の子なのにとか言ってられないわ。

とにかく、なんとか酒呑童子の自由を抑える方法を手に入れた。


未来に一筋の光が差したような、そんな気がする。



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