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祈り

作者: 歩智 亜柚

 夜風にたなびく、色とりどりの短冊。

 たくさんの願いや祈りは どれだけ天に届くのか。


 誰だったか、聞いたことがある。最近は、短冊を見ても、したいお願いが思い浮かばない人が多いのだと。

 確かに、大人になれば、ある程度の経済力もあるわけで、自分で叶えられるものが多くなる。だから、今更他力本願を思い浮かべるほうが難しい。

 だけど、そうではなくて、子供が「願いなんてない」というらしい。

 《希望がない》・・・子供がそう口にしてしまうのがショッキングなのは私だけだろうか。

 そんなこんなで、一枚の短冊に、いくつもいくつも願いをギッシリ書いて埋めることのできる子を見ると、つい安心してしまう。

 更には「3DSが欲しいです」などと、サンタクロースか何かと間違ってるんじゃないかと思うような願いもあり、それはそれでクスッと笑ってしまう。


****************************************



 「今夜は雨かあ・・・」

 なぜだろう、七夕の夜が晴れだったことのほうが記憶の中では少なく、亜矢は重い色をした雲が薄暗がりに浮かんでいるのを見て、顔をしかめた。昨夜、我が子らが、楽しみに短冊にお願いごとを書いて、玄関先に置いた笹を飾っていた。

 雨の匂いがする。さぞかし子供らはガッカリするだろうとため息をついた。

 職場を出ると、ポツリポツリと雫が頬を濡らし、次第に雨足が強くなってきた。雨具を鞄から取り出し、足早に家路を急ぐ。

 こういう日は、カレーだ。

 亜矢はそうひとりごちた。イベントが台無しで、ガッカリ。こういうときの子供たちのご機嫌直しは食べ物に限る。小走りすると、たまに水たまりの水がはね、ズボンの裾にとんだ。雨の日はこうして衣類もすぐ汚れるし、洗濯物も乾きにくく、本当に困ったものだ。

 ただ、植物にとっては恵みの雨なのだから文句ばかり言ってられない。


 自宅の玄関が視界に入る。さすがにこの雨の中、短冊をながめてはいないようだ。子供と言うのは何をしだすか分からないからこまる・・・

 ふと笹に目線をやり、亜矢は思わず目を丸くしてクスクスと笑った。

 「・・・・・・七夕飾りに、てるてる坊主、か・・・」

 短冊が目立たなくなるほどのたくさんのてるてる坊主が、クリスマスツリーのオーナメントのようにかかっている。

 もうなんでもありだ、子供の発想というのはすごい。


 「ただいま」

 亜矢が入っていくと、子供たちが一斉に駆け寄ってくる。

 「おかえり~」

 「ただいま。残念だったね、雨降っちゃって」

 子供たちの表情に陰りがないかをじっくり確認しながら亜矢は微笑む。

 そんな亜矢の心を知ってか知らずか、3人兄弟の末っ子がまだ舌足らずに言いながら答えた。



 「だいじょうぶだよ あめがふっても みんなのおねがい きいてねって おねがいしたから」

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