祖父・4
「よし、行くぞ。ぼうずは適当なタイミングで詠ってくれ」
「はい」
ロックがバジルの後ろに立つ。
はじめの合図とともに、バジルが剣を構えて動き出す。練習の時とは違い、動きは若い剣士のように機敏だ。さすがだな、と思う一方で、そんな事を考えている場合じゃないとも気づく。
目の前のバジルに集中する。ディアナとよく似た気の強そうなまなざしに吸い込まれそうな気がした。
怯むな。 ブレイドはそう自分に言い聞かせて、剣先に集中する。右へ、左へ。バジルの動きに合わせて剣をふるっていく。
その時、ロックの歌声が聞こえてきた。
一瞬、体がびくついた。その隙を逃さず、バジルの剣が狙ってくる。すんでのところでそれをよけると、もう一度意識を集中した。
唄に囚われてはだめだ。前を向く。剣の動きを見る。荒くなる呼吸と共に、胸の奥から生き物のように熱を帯びた闘気が湧きあがる。
自分の呼吸とその闘気の呼吸を合わせて、この剣に乗せた。
右、上、……そこだ!
バジルの左脇に、一瞬の隙が見えた。剣を振ったその瞬間、自分の鼓動以外の音は聞こえなかった。
バジルは、素早い反応で守りに入ったが、彼の剣はブレイドの剣の力ではじかれて転がった。
「……よし! はぁ、そこまでじゃ!」
珍しく息を荒くして、バジルが言う。
「今、聞こえんかったじゃろう? 歌声が」
「……はい」
ブレイドは、自分でも驚いて胸を押さえて呟く。胸の奥の、激情にも似たあの闘気。あそこまでの気持ちが、自分にあったことに驚く。
「一度コツを覚えれば、後は慣れるだけじゃ。とはいえ、わしも少し疲れた。今日は終いじゃ」
バジルは自分の剣を一度振るうと、鞘におさめた。
「……手が」
「え?」
「しびれたぞ。……わしも、この年になって初めての経験じゃ」
「じいさん」
バジルはにこりと笑い、ロックの肩を叩いて背中を向けた。
「ありがとうございました!」
その背中に声をかけると、「明日も同じ時間じゃぞ」と声が返ってきた。
「……なんか。すごかったね」
ロックが、場の緊張をほぐすようにおどけて言う。
「ああ、俺もなんか、自分で驚いた」
「あのさ」
ロックが、栄養ドリンクに手をつけながら言う。
「僕、明日仕入れに出るから、ディアナの顔見てくるよ。なんか、伝えたいこととかあれば言っとくけど」
「そうだな。武道大会終わるまで、なかなか忙しくていけないって言っといてくれるか?」
「わかった。それと、今日の話、……していい?」
「……」
ブレイドは、一瞬考えて黙った。ロックには随分前から、心配をかけてきた。おそらく自分が感じた安心感をディアナに伝えて、ディアナを安心させてやりたいのだろう。
それはわかるが、ブレイドは結果で見せたかった。武道大会優勝という、結果で。
「いや、やっぱり自分で言う。今日の話は内緒にしててくれ」
「そう? わかったよ」
少し残念そうな顔で、ロックが笑った。




