王子の告白・6
――――……そして、一時間後。
「僕はもう、疲れたよ」
ロックがガラガラ声で呟いた。
「ああ、眠ぃ」
ブレイドも、ベッドの上に横になる。
ロックが《眠りの唄》を詠い、やっぱりその唄で眠ってしまったブレイドをたたき起す。その繰り返しで一時間が過ぎてしまった。
「やばい。本当に何か考えないと、……ダメだ」
「でも、僕も他に思いつかないよ。やっぱり、学園に戻ってから先生に相談しようよ」
「そうだな」
今度は仕方なくブレイドも頷いた。焦るばかりで結果が出ないことに苛立ちはするが仕方無い。どっちみち、すぐにディアナと旅に出るようなこともなくなったんだし。
「そう言えば、……出発前に話した指輪の事だけどさ」
思い出して、ブレイドがロックに話しかけた。
「え? うん」
「あれ、しばらく保留になりそうだ。一年くらい」
「……なんでさ」
ロックが怪訝そうな声をあげる。
「あのガキが……レオがさ、ディアナに、卒業したら母親の治療団に入ってほしいって言ったらしい」
「へぇ。ディアナ、それを受けたの? あんなに旅に出るの楽しみにしてたのにね」
意外そうな声を出した後、「ああでも」と呟いた。
「あの時のレオ……王子は、ちょっとほっとけないかもね。似てたんだよ、ブレイドに会う前のディアナに」
「……ディアナに?」
「そう。なんて言えばいいかな。……がむしゃらに強くなろうとしてるんだけど、こっちからみてたら案外もろそうでさ。僕、ちょっと昔を思い出したよ」
「そうか」
旅に出るのを待ってほしいと言った、あの時のディアナの顔を思い出した。
不安そうだったのは、離れることだけじゃなくて、昔を思い出したこともあったのだろうか。だったらもう少し、優しい言葉をかけてやれば良かった。
「守れるのかな」
「え?」
不安を口に出してから、しまったと思う。ロックにこんな弱音を見せるのは失礼だろう。ブレイドの見立てでは、ロックはまだディアナのことを忘れては居ない。あれだけ身近にいられて忘れられるわけが無いことも理解できる。
「いや、なんでもない。……守るよ」
「ブレイド?」
「なんとかする」
強く握った握りこぶしを見られないように、ブレイドはベッドに仰向けになった。けれども気持ちは中々晴れない。まるで出口の見えないトンネルに入り込んでしまったようだった。
*
ディアナと村長は、村を囲っている塀の端から端まで、魔物よけの粉をまいて回った。
「ああ、助かったわい」
村長はディアナにお礼を言った後、もう一度腰を伸ばす。
「村の周囲にはほとんど撒けましたね」
ディアナは村全体を見渡すようにして言った。こじんまりとした村とはいえ、村を一周するのに30分かかってしまった。その間ずっと腰をかがめていて、ディアナの方も実は結構辛い。
だけど、これでもし昨日の魔物たちが仕返しをしようとやってきたとしても、防御の足しにはなるだろう。
「……昨日からな、風がおかしいんじゃ」
あごひげをさすりながら、村長がディアナを見た。
「もしかしたら、龍が目覚めたかもしれん」
「え?」
「この森に住む緑龍は風を操る。昨日から妙な吹き方をするんじゃ。活動期には数年早いが、まあ眠りについたのも早かったから仕方ないのかもしれん」
村長は淡々とした調子で話し続ける。
「龍の活動期の間は、マドラスの森に入ることは禁止される。昨日薬草採取に行けたのは、運がよかったのかもしれんな」
「そうですね」
「昨日摘んできなさった薬草は、半分は畑に植えて育てるといい。これから数年は薬草は希少価値が上がる。上手に育てればみんなの役立つじゃろうて」
「はい。ありがとうございます」
龍が目覚めた。その事実に胸騒ぎがした。不安を押しとどめることができず、集中できないまま村長との会話を終える。
「龍が……」
宿に向かう途中、ディアナは村門の前で前方にそびえたつマドラスの森を見た。陰鬱とした、暗い森。ブレイドと前に同じ位置から見たときにはそこまで思わなかったけれど、今森をみるとそんな印象を感じる。
「これから、何が起こるっていうの?」
森から吹き付ける強い風が、その呟きをさらって行った。




