王子の告白・1
村門からは魔物たちの姿は消えていた。けれど、戦闘によって倒れた魔物たちはただその場に打ち捨てられている。それを一箇所に集めようと、村人が未だ大勢残っていた。
「ほら、村を救った英雄のお帰りだ」
ディアナを抱えたブレイドが村門に着いたとき、誰からともなくそんな言葉を呟いた。途端に歓声が上がり、ウトウトしかかっていたディアナは驚いて目を開け、ブレイドの腕から下りた。
集まってくる人たちの中には、デルタの姿がない。宿屋に戻ろうかとブレイドを振り仰ぐと、彼は他の剣士たちとともに感謝の言葉を述べる村人たちに、あっという間に囲まれてしまっていた。
ディアナはためらいつつも宿屋に戻ることにした。レオの事が心配だったし、どうせこの場に二人でいても、聞かれることは一緒だ。この場はブレイドに任せて自分は自由に動こうと思ったのだ。
「おい、俺も行くよ」
背中を見せるディアナに、助けを求めるようにブレイドが言う。
「無理でしょ。今日はあんた、夜が明けるまで話させられるわよ。とにかく任せるから!」
「おい!」
取り残された形になったブレイドからは不満の声が上がったが、ディアナはレオの気持ちを確認することを優先した。
なぜこんなことをしたのか。聞くタイミングは今しかない。なんとしてでも問いたださないと。
「ブレイド、後でね」
ディアナは、軽く手を振って宿屋の方へ急いだ。
宿屋の階段をかけ上がってデルタ達の部屋の前に立つと、騒がしく言い争っているような声がした。扉を開けると、ベッドに座ったレオとその傍に立っている父親がにらみ合っている。
ロックとサラが、ディアナの姿に気づいて、気まずそうに視線を投げかけた。
「あなたはご自分がどういうことをしたか、分かっておられるのですか」
荒い口調でデルタが言う。対するレオは黙って俯いたままだ。
「あなたの軽率な行動が、この村に危険をもたらしたのですよ」
レオは尚も押し黙っている。デルタが苛立ちを募らせているのは、周囲の誰もが分かった。
「私との契約をした時に、あなたは薬草の勉強をしに各地を見回りたいとそう言った。あれは、……最初から嘘だったのですか!」
デルタの語気がどんどん荒くなる。ずっと黙って聞いていたレオが、睨むように顔をあげた。
「そうだよ! 最初から、こうするつもりだったんだ!」
叫んだと同時に、バシンという大きな音がした。デルタの平手がレオの頬をぶったのだ。大きな音の反動でか、その後一瞬、水を打ったように静かになる。
「薬草など、他の者たちがいくらでも取ってくるでしょう。しかもなぜあんな危険な時間に行かなくてないけなかったのですか!」
「と、父さん」
デルタが怒りで興奮しているのを見て、ディアナは二人の間に割って入った。レオの腫れた頬を呪文で治そうと手をかざすと、レオはすぐさまその手を払いのける。
「触るな! 治療師なんて大嫌いだ!」
「……レオ」
レオの目には、涙がたまっている。
「治療師なんて、偉そうなことばかり言っている癖に! 何の役にも立たないじゃないか。どうして母さまを治せないんだよ。……薬剤師だってそうだ! これが国で一番いい薬だなんて言いながら持ってくる癖に、母さまはずっとずっと良くならない」
涙が徐々に頬をつたっていく。
「クルセアが、……妹が泣くんだ。母さまの具合が悪くなったのは、自分を産んだせいだって。一体誰が、そんな事をクルセアに吹き込んだんだ。あいつはまだ7歳なのに。他の奴なんか、信用できるもんか!」
「レオ」
「だから、自分で手に入れようと思ったんだ。この国で、最高の薬草を。最高の薬草の産地マドラスの森の、薬効の高い最高の時間に、……なのに」
少年の声が歪む。サラの方に視線を向けると、困ったように窓際に置かれた鉢植えを指差した。
「気づいた時には遅くて、……レオが手に持っていた夜光草は枯れかけてしまったの。一応、植え直してはみたけれど、元気はもどらなくて」
鉢植えの中の夜光草は茎が折れ、弱々しく蕾をすぼめている。同じようにうなだれているレオも、まるで折れてしまったようだ。




