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黒の英雄と風の龍  作者: 坂野真夢
第三章
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事件・1

 薬草採取を終えたディアナたち一行は宿へと戻った。


「これは、私が管理しとく」


 急に薬草に対して興味を持ち始めたサラが、水やりなどの世話を一手に引き受けると言い出した。とはいえ、持ち帰る薬草の数は多い。結局、ディアナとロックが残る二株ずつを管理することにし、あまり興味の無いブレイドはサラの言葉に甘えることとした。


 その後、仕事を終えたことを祝って、四人で普段よりは豪勢な夕食をとり部屋に戻った。一晩ゆっくり休んだら、明日からは帰路につく。何のトラブルにも巻き込まれなければ10日程度で帰れる見通しだ。移動についてはまだ先が長いが、とりあえず目的が達成出来たことに安心し、ディアナはようやくひと心地ついたような気がした。その安心感から、昼間のレオのことは頭からすっかり抜けていた。


「私、もう寝るねー」


 ディアナの声に、「じゃあ私も」と倣うようにサラもベッドに入った。二人は充実感に包まれたまますぐに眠りについた。



 夜になって、風はその強さを増した。窓に叩きつけるように風が吹き荒れ、ガタガタという窓枠の揺れる音が建物全体に響く。その音に、深い眠りから覚醒へと誘われていたディアナは、全く逆方向からの扉をノックする音に反応して体を起こした。



「なに? 誰?」

「ディアナ、私だ。デルタだ」

「父さん?」


 デルタの声はいつもの低い落ち着いたものとは違い、上ずっていた。ただならぬその様子に嫌な予感がして、ディアナは扉を開ける。そこには、髪から滴を滴らせたデルタが顔を強ばらせて立っていた。



「レオを見ていないか?」

「レオ? 知らないわよ」

「寝ているからと思って、風呂に入っていた間に姿が見えなくなったんだ。すまんが、一緒に探してくれないか?」

「う、うん。待って、今着替えてくるから」



 ディアナが慌てて動きやすい服に着替えていると、サラも物音に気がついて起きだした。ディアナが簡潔に先ほどの内容を伝えると、サラも頷いて手早く着替える。



「だったら、人は多い方がいいでしょ」


 サラはそう言って、ブレイドたちを呼びに隣部屋に向かった。デルタは青い顔で、廊下で防具を装備している。



「父さん、レオは自分からいなくなったの?」

「……多分。連れ去られるような物音がすれば、気づくと思うんだが。わからない。……ディアナ、内緒の話なんだがレオは」

「王子様なんでしょ?」

「知ってたのか?」


 デルタの驚いた顔が、それが真実であることの証明になる。


「なんとなく、そうなんじゃないかと思ってた」


 今までの態度にこれで一応の納得がつく。だけどわからない点もあった。なぜ王子が、護衛一人だけをつけてこんな辺境の森にまでやってきたのか。それはデルタに尋ねれば分かることなのかも知れないが、今はそんな場合でもない。


 デルタとディアナが小声で話しあっているうちに、ブレイドとロックが着替えて部屋から出てくる。



「ガキが居なくなったって?」

「ブレイドくん、口を慎むんだ。とにかく、あの子を見つけないと。つい15分前まではベッドで寝息を立てていたはずなんだが。一応、この宿屋の中は個室以外は確認したんだが、見当たらない」

「……多分、自分から出てったのよ」


 ディアナは、確信を伴って言った。デルタを始め周囲の人間は意外そうな顔をしたが、ディアナには自信があった。


 レオの昼間のあの言葉。その意味がようやく分かる。デルタはレオにとって、守られたいときはちゃんと守ってくれて、それでいていつでも出しぬける、そんな人物だったんだ。


 ディアナは昼間の話を思い返してみた。


 あの時、レオはなんて言ってた? やたらに薬草に固執していたような気がする。そう、全部採られるのを嫌がってた。それまで敬遠気味だったのに、あの時ばかりは馴れ馴れしく近寄ってきていた。

 『少し残しておいて貰わないと困るんだよ』

 そう言ってた。その意味は。


「……あの子、戦える子なの?」


 嫌な予感が止まらない。ディアナはデルタに問いかける。デルタは眉を寄せて考えこむ仕草をした。


「いや、剣術は出来はするがそんなに上手ではない。ただ、なんだか植物に詳しい子でな。魔物が嫌う匂いを放つという香草を乾燥させたものを持ち歩いていた。だからあの子の周りには、あまり魔物が寄り付かないんだ」


 だからと言って、夜の森でまで通用するだろうか。それに、すべての魔物がその匂いを嫌うとも言いきれない。


「多分、宿にはいないわ。……もしかしたら、村からさえも抜け出してるかも知れない」

「しかし、そんな危険なこと自分からする訳が無いだろう」


 デルタは意外という表情を浮かべる。まさに、レオの狙いはこれだといえるだろう。一般的な常識を疑ったりしない、そんなデルタの性格を知っていて、護衛に指定したんだ。ディアナは苛立ってデルタの腕を掴んだ。


「するわよ。何か目的があれば! とにかくここにはいないんだから、宿の外を探してみないと」

「ああ、そうだな。すまんが、一人、……サラちゃんだったか、私たちの部屋に待機してもらえるか? もしかしたら、レオが自分で帰ってくるかも知れない」

「わかりました」


 サラに後を任せて、デルタとディアナ、ブレイドとロックの4人は宿屋から出た。吹き付ける風が強い。ゴウゴウという音に混じり、魔物たちの咆哮が聞こえてくる。


「……森が、騒いでる」


 ディアナはぽつりと呟いた。いつもよりその音は強いのだろう。徐々に、村の家々に消えていた明かりがつき始めた。


「皆、なにか感じてるんだ」

「とにかく、村の中を探してみよう」


 デルタは未だに村の外にレオが出た可能性は考えていない。ディアナは首を横に振った。


「父さん、多分レオは森に入ったんだよ。薬草を欲しがってたの。多分、……薬効があると言われる夜に採取したかったのよ」

「馬鹿な、そんな危険な」

「危険でも、それをやろうとするだけの何かが、あの子にあったんじゃないの? 父さん、何か知らないの?」

「それは……」


 デルタが口ごもったその時、村門の方から甲高い叫び声が聞こえた。


「とにかく、行ってみようぜ」


 ブレイドが、一番に走り出す。その後を、デルタ、ディアナ、ロックの順に後に続いた。


 そこで見たものにぞっとして、ディアナは一瞬身震いをした。




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