サンド村・1
昼下がりの南下道路を、4人は重い足取りで歩いていた。
「ホントにお前は運が悪いな」
溜息とともに呟くのはブレイド。ロックは申し訳なさそうな顔で頷いた。
4人が学園を出発してから15日、前の町を出発してからは2日たっている。寄り道をしなければ10日で辿りつける筈のサンド村に行くために、これほどの日数がかかっているのには訳がある。
野宿をするために森に入れば魔物をうっかり踏みつけ、逃げた時に道に迷ったり、新しい町に入ればガラの悪い男に絡まれたりと、ロックが何かともめ事に巻き込まれるのだ。
「あそこで、眠りウサギを踏んだのは間抜けだった」
「うるさいな。ちゃんと眠らないように、眠り除けの唄を歌ったから大丈夫だったじゃないか! なのに、ブレイドがしつこく攻撃したから、あのウサギの親ウサギがでてきちゃったんじゃないか!」
「もう、二人ともいい加減にしてよ!」
「そうだよ。喧嘩やめてよ」
ディアナとサラが、二人の間に割って入る。つまりは、ロックが起こしたもめ事を更にややこしくしているのがブレイドで、ディアナとサラはその事態の収拾をつけるのに必死だったという訳だ。
「でも、もうすぐサンド村だよ。ほら、見えてきた」
サラが細い指で前方を指差した。後ろに大きくそびえる森の手前から、釜戸から立ち上ぼっているのであろう煙がちらほらと見える。4人は一気に元気を取り戻して、軽い足取りで村へ向かった。
「あー、久し振りのベッドだぁ」
早速宿を取り、ディアナとサラは、それぞれベッドに飛び乗った。
「ふかふかのベッドさいこー」
「旅で何が辛いって、野宿が辛いよね」
女子ならではの旅の愚痴だ。お風呂に入れない日があるのも辛い。2人で止まること無く言い合っていると、扉がノックされた。
「おい、いるんだろ、ディアナ」
ブレイドの声だ。
「はーい。何? どうしたの? 薬草採取は明日からでしょ?」
ドアを開けると、着替えてさっぱりとしたブレイドが立っていた。目の前にいるディアナの肩越しに、ベッドに寝転んでいるサラの方を向く。
「サラ、ちょっとこいつ夜まで借りるぞ」
「はいはい。いつまででもどうぞ」
笑って答えるサラに、「ちょっと、モノじゃないんだから」と言い返しては見つつ、ディアナの顔は締まりなくにやけている。
「ちょっとだけ、着替えてから行く」
「ん。表で待ってっから」
「分かった」
扉を閉めて、急いで荷物の中から新しい服を取り出した。一転ウキウキしているディアナに、サラは誂うような口調で話す。
「いいなぁ、デート」
「そんなんじゃないよ」
「またまた」
それでも、手持ちの服の中で一番色の綺麗なものを着込んで身支度を整えた。
デートな訳ではない。ブレイドの目的地に検討は付いている。ここはサンド村。ブレイドの今の両親が育った村であり、本当の母親が亡くなった場所だ。出発前に言っていた通り、お墓参りに行くつもりなのだろう。
サラの止まらない冷やかしを背中にうけつつ宿屋の外まで行くと、緊張した面持ちのブレイドが待っていた。
「悪かったな。着いたばっかなのに」
「ううん。お墓参りでしょ?」
「ああ」
並んで歩きながら、ブレイドがディアナの手を取った。その手が思ったよりも汗ばんでいた。柄にも無く緊張しているブレイドに、なぜだかディアナまで緊張してきた。




