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黒の英雄と風の龍  作者: 坂野真夢
第二章
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旅の真実・1

 それから、一ヶ月が経った。ディアナとブレイドは、並んで帰り道を歩いていた。今日はブレイドの家の方へ向かうのだ。そろそろ、ハーブの様子を見に行く頃だし、ディアナの家族は仕事で不在になる。それを受けてのセリカの提案だった。


「きゃあ、ディアナちゃん、待ってたのよー」


 まるで少女のような高らかな声をだすのは、ブレイドの母のセリカだ。彼女の顔を見て懐かしささえ覚えるのは、ディアナにとってこの家が第二の家のような存在になっているからだろう。


「サザリの葉、どうですか?」


 以前回復魔法を施したサザリは、今は葉をつける時期だ。サザリが本来生息するマドラスの森の気候に合わせるべく、今日は温室のビニールがあけ放たれていた。


「少し風にあてないとね。今時期ならこことそう変わらない気候だから。ディアナちゃんに定期的に魔法をかけてもらえるようになってからは、調子がいいのよ」


 確かにサザリの葉は、青々としていて水も空気も十分なほど吸いこんでいる感じだ。一応、いつものように回復魔法をかけてはみたけれど、特に変わることはないだろう。


「さあ、今日は何作ろうかしら。そうだ、これを家の中に持って行ってくれる?」


 セリカに渡された大量のイモ類を競うように抱えて、ブレイドとディアナは表の玄関の方に向かった。するとそこには旅姿の人物が立っている。


「あれ、……親父?」


 名前を呼ばれた男性は、ブレイドの声に帽子を取りにっこりと笑う。


「やぁ、ブレイド、ただいま」

「ずいぶん長旅だったんだな」

「ああ。お前もまたデカくなって」

「適当なこと言うなよ。身長なんて変わってねーって……うわ」


 ブレイドの軽口を軽く受け流して、アイクはブレイドを抱きしめた。


「ちょっ、何すんだよ、親父っ」

「なんだよ。いいだろう。何か月振りかで会う息子に抱擁したって」

「いくつの息子だと思ってんだよ」


 アイクとブレイドではもう息子の方が力が上だ。力ずくで引き剥がされたアイクは、寂しそうに唇を尖らせ、後ろで見ているディアナに気づくと笑いかけた。


「やあ、ディアナちゃん。来てたのかい?」

「こんにちは、お邪魔してます。……せっかく帰っこられたんなら、私、今日は遠慮しますよ」


 せっかくの家族水入らずを邪魔するのも忍びない。


「いやいや、そんなことさせたら、ブレイドとセリカに怒られるよ。君がいてくれた方がいいんだ。泊ってってくれるんだろう?」

「……いいんですか?」

「ばーか、似あわねぇ遠慮なんかすんな」


 横からブレイドが口をはさむ。似合わないの一言が余計だ。ディアナがブレイドの頬をつねると、「あにすんだこの」と、引っ張られたままの口が答える。


「はは、仲が良くていいな。……さて、母さんはどこにいる? サザリの苗をとってきたんだけど」


 その言葉に、ブレイドが驚いたように目を見張る。


「……マドラスの森に行ってたのか? 出張って、仕事じゃなくて母さんのハーブのためだったのか?」

「いや、ハーブはついでだよ。近くまで行ったものだからね」

「でも、あそこは危ないんじゃないのか? 人食い龍が住んでるっていうじゃん。親父一人でよく無事だったな」

「人食い龍は今は眠りの周期に入ってるからね。あと数年は大丈夫のはずだ」

「ふーん」

「おばさんなら、ちょうどハーブ園にいますよ」


 二人の会話が途切れたところでディアナが言った。


「そうか、ありがとう。ちょっと行ってくるよ」


 立ち去るアイクの後ろ姿を、ブレイドがホッとしたような顔で眺めるのを、ディアナは見ていた。やっぱり、心配していたんだろう。ブレイドの口の悪さは相変わらずだけれど、この家族の仲が本当に良いのはよく分かっている。


「……なんだよ。ほら、さっさと入れよ」


 見られているのに気づいたブレイドが、少しだけ頬を赤くしてディアナを招き入れた。



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