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黒の英雄と風の龍  作者: 坂野真夢
第四章
122/130

手紙・2


*****


 親父、母さん。

なんか、改まって手紙を書くなんて照れくさいな。


まず最初に、ごめん。

母さんが止めたのに、勝手に出てきてしまって本当にごめん。


でも俺は知りたかったんだ。自分の出生の秘密を。

そしてそれは、ナナキ村からきたというあの男から教えてもらった。


まずそれを説明する前に、ナナキ村に伝わる伝説を知っておいてほしい。


――――

 もう二百年も前の話。

マドラスの森に住む緑龍のもとへ、黒龍がやってきた。


龍の世界では、種の存続が危ぶまれるほど子孫ができず、

各地に住むメス龍のもとへ、オス龍が通うというのが通例となっていたらしい。


黒龍もまた、その通例に習って緑龍のもとへやってきた。


緑龍は一目で黒龍に恋をしたが、黒龍の方は、どうしても緑龍とは気があわなかった。


黒龍には他の龍にはない能力、変化の力があった。

それで、黒龍は気の乗らないマドラスの森での生活の間、気晴らしに人間に化けては一番近くのナナキ村を訪れた。


そこで、黒龍は美しい人間の娘と恋をした。

二人はすぐに深い仲になり、娘の腹には龍の子ができた。


娘の子は早産の上、難産だった。

娘の体が回復する間、娘の両親が子供を預かり、黒龍は娘の体が回復するよう懸命に看病をした。


ところがその頃、緑龍に黒龍の不貞がばれたのだ。

怒り狂った緑龍は、ナナキ村に強い風を起こし、村を吹き飛ばす勢いで荒れ狂った。


黒龍は、人間の姿のまま緑龍を止めに向かった。

緑龍が、どんなに強い攻撃を仕掛けても、黒龍は龍の姿に戻ることはなかったのだという。


「何ゆえに」


緑龍は問うた。

黒龍は迷いのない瞳でこう答えた。


「あの娘にとらわれた。もう、龍には戻らない」


その時の、緑龍の嫉妬の炎は並大抵のものではなかった。


黒龍を殺し、娘を食らい、村を半壊させた。

緑龍が、人食い龍と呼ばれるようになったのは、この頃からだ。


こうして、人食い龍の緑龍は、ナナキ村に対して力を持った。

緑龍は人語を話し、この娘の血縁者を差し出せと、村人に命令をだした。


しかし、娘の両親はそれより先に、娘の子供とともに国を抜け出し、難を逃れた。

娘を失った両親にとって、唯一の形見である赤子を守り通したのだ。


赤子は、龍の噂もしないような異国の地で、成長し、子孫を生み育てた。

そしてある日、老年になって旅をしていた時、再びナナキ村を訪れた。


ナナキ村の村人たちは、驚いて龍に報告した。

「黒髪の男が、あらわれた」と。

そして龍は、男を食らった。


――――


これが、サンド村の伝説だ。

後はその繰り返しで、緑龍の怒りは200年たっても覚めることなく、

18年前、俺の親父が現れた時にも同じように親父を食らおうとしたそうだ。


後の厄介を防ごうと、ナナキ村の人たちは、赤ん坊だった俺をもさしだそうとしたけれど、

父親が命と引き換えに母親と俺を逃がしたらしい。


男はそれ以上のことは知らなかった。

けれども、俺が親父やおふくろに拾われたことから考えると、

逃げる途中、母親は命も絶え絶えの状態でサンド村へ辿りつきそこで力尽きたのだと思う。


母親の名前は、ダリアと言うらしい。

これが分かっただけでも、俺は満足だ。


今までありがとう。

親父と母さんの子供になれて良かった。

実の親のことも、知れて良かったと思ってる。


龍は、一年前のマドラスの森で俺の存在に気づいてしまったらしい。

だからナナキ村から来たあの男は、一年間龍の命令で俺を探し続けてきたそうなんだ。


期限は五年間。龍が次の眠りにつくまで。

その期限を超えれば、龍はその力でこの国を滅ぼすと言ったらしい。


四年先延ばしにしたところで、国ごと滅ぼされちゃ堪らないから、俺は今龍のところへ行く。


勝手にこんな大事なことを決めて悪かったけど、言ったら必ず止めてくれると思ったから言えなかった。

親父と母さんの愛情を、信じているから言えなかった。


虫のいい願いだとは思うけど、もし勝てたら、もし生き残れたら、もう一度俺を家族にしてほしい。



追伸:ディアナの事を、よろしく頼みます。

   あいつは強いけど、本当に助けが必要な時まで強がるから。



愛をこめて ブレイド=ウェルドック


*****



「……ブレイド」



 龍の子孫。そう言われれば納得できるだけの人間離れしたところが、ブレイドにはあった。戦いの時に妙に冴える五感。魔物相手の催眠にかかりやすい体。どれも人間の能力値を超えている。


「馬鹿……じゃないの?」


 震える声で、零れる涙を拭きもせずにディアナは口走った。


「勝手に、自分を犠牲にするなんて、……馬鹿だ」

「ディアナ」

「ここまで来て私の心配するなんて、……馬鹿だよ」


 ディアナは手紙を胸に抱きしめる。すり抜けてなんていない。ブレイドの気持ちは今もなお、この手の中にある。頬を伝った雫は手のひらの上にて落ちる。ディアナはそれを強く握りしめた。そこにあるブレイドの気持ちを、しっかりと掴むように。



「おばさん、おじさん。私、ブレイドを助けに行きます」

「そんな……危険よ。ブレイドはそんなこと望んでない。だから、あなたに何も言わずに行ったんじゃないの」

「ブレイドが望もうと望むまいと関係ない。私は、私の望みを叶えるだけです」

「ディアナちゃん」

「私、行きます」


 ディアナは、アイクとセリカに笑ってみせると、足早にブレイドの家を出た。ロックが当然のように後ろについてくる。


「ロック、とりあえず、ガルデアの家まで乗せて。後は、自分で何とかするから」

「どうして? 僕も行くよ」

「だめだよ。危ない。ロックまで巻き込む訳にはいかないよ」

「なんでさ、僕とブレイドは親友だよ」

「ロック」

「……一緒に、助けに行こう?」


 弱いくせに。ずっとロックに向かって言っていた言葉は、もうロックには似合わない。力が強かろうが弱かろうが、いざと言う時に逃げる言葉を言わないロックはとても頼もしく見えた。


「うん」


 駆けだして、二人は急いで馬に乗る。


「頼むよ。とりあえず、ガルデアまで行こう」


 馬は呼応するかのようにいなないた。



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