プロローグ
北と西に多くの魔獣が棲むタカマラカン山脈、南に人食い龍が棲むというマドラスの森。三方を危険地帯に囲まれたこのタリス国では、魔物を退治する冒険者を育てるのが国の重要な使命となっている。
国を統括するタリス王家は、長年冒険者育成のために様々な支援を行っていた。その一つが、学校の整備である。
『国立冒険者技術修練学園』略して『冒険者学園』と呼ばれるこの学園は、冒険者を目指す若者が各専門技術を学ぶ為の学校だ。学園は国内に5ヶ所点在しており、初等教育を修了した15歳の若者のうち冒険者になることを夢見ている者たちが、入学を希望する。授業料は申し訳程度の金額で無料に近い。家が遠いものは通学や下宿の費用などかかるが、テキスト等も学園からの支給となる。
この学園の課程は、修業年限3年。1年目は共通の科目を学習し、それぞれの希望と適性から職業を選択する。2年、3年目は、それぞれ各職業に合わせたカリキュラムが組まれる。実習などもあり、卒業後はすぐ実戦に赴けると評判は高い。
冒険者と一口に言っても、職業は多種多彩だ。おなじみの剣士や魔術師、治療師はもちろん、僧侶、盗賊、詩人、更には道具屋なんてものもある。学園ではその全てにおいてスペシャリストを養成すべく高名な教師陣を揃えている。
そして今、この学園の門を一人の少女がくぐりぬけた。
艶のある栗色の髪は顎のあたりで短く切り揃えられ、細身の体には適度な筋肉がついている。学園を見つめるその勝気そうな瞳には、強い自信が感じられる。
名前は、ディアナ=アレグレード。剣士を目指して、今日この学園に入学した。