いつもの如く
「先生、好きです、付き合ってください」
「却下だ。私はまだ教師を辞める気は無いのでな」
「じゃ、コーヒー貰えます?」
「ああ、ブラックで良いな?」
「ええ」
そう言って、先生は僕にコーヒーを入れてくれる。近所の雑貨店で買ってきたというコーヒーメーカーが、コポコポと音を立てて黒い液体を溜め始めた。最初の方の会話は、一種の挨拶みたいなものだ。三ヶ月ほど前から、僕と先生の間だけで使われる挨拶。僕としては本気で言ってるんだけど、先生はなかなか相手にしてくれない。ちょっと不満だ。
「ホラ、入ったぞ」
「あ、どうも」
目の前に出されたマグカップを受け取ると、独特の香りが流れてきた。ズズッと、音を立てて一口。うん、美味い。
「さて、私は仕事するが、君はどうする……って、いつもの如く、か」
「ええ、いつもの如くです」
そう言いながら、僕は鞄を開け、今日の宿題を取り出す。先生も、自分の机について、仕事を片付け始めた。そう、これが僕らのいつもの如く。先生が自分の仕事をする間、僕は宿題を終わらせる。
宿題に区切りが付いたところで、先生の顔を見上げた。整った輪郭に、均衡の取れたパーツが一部の隙も無く綺麗に並び、腰まで伸ばした艶のある黒髪が良く似合っている。
「何だ? 人の顔をジロジロ見て」
「いえ、綺麗だと思いまして」
「フ、えらく率直だな」
一応なけなしの勇気を振り絞って言ったんだけど、普通に返されてしまった。それにしても、綺麗だと言ったのを否定しないのが先生らしい。先生のそういうところが、僕は好きだ。
「さて、まだ仕事が残っているからな、話すのは後だ」
「はい」
ホントはもっと話したいんだけど、仕事の邪魔はしたくないし、終ってからでも良いか。溢れ出てくる欲求を抑えつつ、僕は再び、数学の参考書と格闘を始めた。冬の陽は短い。半分沈んだ太陽が、部屋を赤く染めた。
「さてと。で、まだ諦める気にはならんのか?」
陽が完全に落ち、部屋が人工的な光で満たされた頃、先生が話し掛けてきた。仕事は終ったようだ。
「当然です。諦めるくらいなら最初から告白なんてしません」
「そうか」
僕の言葉に、先生は薄く微笑って応える。その笑顔は反則です、先生。余計に、『好き』が止められなくなります。
「何度も言うが、私は今の職が気に入ってるんだ。だから生徒と付き合うことは出来ない。わかるだろ?」
「ええ、それはわかります。でも、僕は先生が好きなんです。他の娘なんて考えられない」
「その気持ちは嬉しいんだがな、私は君とは付き合えない」
その言葉に、僕の気持ちは深く沈む。わかってる、生徒と教師が付き合えないなんてことはわかってる。けど、それでも、
「僕は、やっぱり先生が好きです」
「ふぅ。全く、君にも困ったものだ」
そう言う先生の様子は、大して困っているように見えない。先生がそんな態度をとるから、僕は抜け出せなくなる。余計に、深みに嵌っていく。
「とにかくだ、私は君とは付き合えない。少なくとも今は……」
「今は? じゃあ、卒業したら良いんですか!」
「う、うん、まぁ、教師と生徒という問題は無くなるな」
よっし! 先生のその言葉に、心の中で大きくガッツポーズをとる。
「じゃあ、卒業したら、僕の言葉をちゃんと受け止めてください」
「卒業したらって、二年半もあるぞ? 私が誰かを好きになったらどうする?」
「僕が先生を好きにさせます。二年半、繋ぎ止めておけるほど」
「私を好きにさせる、か。まぁ、男を磨く事だ。私を夢中にさせるくらいに、な」
「はい!」
「フフ、頑張ってな」
そう言って笑った先生は、今までで一番綺麗に見えた。
次の日、
「先生、好きです、付き合ってください」
「今は却下だ。私はまだ教師を辞める気は無いのでな」
いつもの如く僕が挨拶すると、先生はそう言って、ニヤッと笑った。これは、脈アリと思って良いのかな? 自惚れかもしれないけど、そう思っちゃいますよ、先生?
こんにちは、菖蒲です。まずはじめに、ゴメンなさい。短い上に訳がわからないです。
殆ど突発的に書いてしまったこの小説。先生と生徒の話が書きたかっただけです。
ホントに、反省してます。小説はちゃんと見通しを立てて書くものだと実感しました。
これを教訓にして、次回、また頑張りたいと思います。