♯2 GAME①
2月に入り、シュウはやっとチームと合流した。
今日はフェデリーニ監督もチーム合流初日となるので、気合が入る。
シュウは自主トレをしていたがいってもたってもいられない、早くサッカーがしたい。
という気持ちになっていた。
チームが集まるより早く、練習用グラウンドでサーキットトレーニングをすることにした。
スタミナはフィジカルの中でも一番重要な要素だ。
シュウは90分間フルで動けるように鍛えている。
サーキットトレーニングで体をほぐすと、プレースキックの練習に入る。
FK用の壁を立てて、1人でゴールにボールを何度も蹴る。
曲がるボールを蹴るためのキック。
無回転を蹴るためのキック。
鋭いドライブがかかるキックなどをしていると、誰か来た。
「あ・・・ども、おはようございます!」と声をかけてくる。
「あぁ、ども。確か、佐藤 波斗君でいいんだっけ?
俺は泉シュウだ。よろしく。」
「あ、僕のことは波斗でいいから!」と波斗が言うと、シュウは「俺はシュウでいいよ。」と言うとボールを波斗に渡す。
佐藤 波斗
現役大学生Jリーガーという結構、異色の経歴のプレーヤーなのでシュウは覚えていた。
選手名鑑の中にも期待のルーキーで、ジャベリンの正GKで元日本代表の戸川2世とも言われるプレーヤー。
確かU-20日本代表に入ってる。と書いてあったのを覚えている。
「じゃ、波斗、来たばっかで悪いんだけど、FKの練習手伝ってもらえるか?」
「あ、OK!」
と言って、二人は練習を開始した。
シュウが無回転のボールを蹴ると、波斗はその急激な変化に反応できずゴールを許し、驚いていた。
「あんなに不規則に変化するボール初めて見た。」と驚きを隠せない波斗。
二人が練習して30分くらいすると、他の選手もぞろぞろと姿を現した。
そして監督が姿を現すと、コーチが「集まれ!」と声をかける。
「みんな、おはようさん! 今日からフェデリーニ監督と新しいスタートを切るわけだが、
また新しい選手が入った。泉!」
そう言われて、手招きされてシュウは前に出る。
「えっと、報道の通り入った新入団選手、泉シュウだ。
みんな、仲良くしてやれ。
じゃあ、あとは監督いいですかね?」とコーチが言うと、フェデリーニが出てきた。
いつものスーツと違って今日はジャベリンのジャージに身を包んでいる。
『ええと、初めまして。
今日から君たちのボスとなるマルコ・フェデリーニだ。
昨シーズンこのチームは16位だ。どういうことかわかるか?
今シーズンのJリーグの制度なら、君たちは2部リーグの選手だ。
つまり君たちは薄氷の上に立っているにすぎない。
それを忘れないで、今シーズンは戦ってほしい。
今日は、個々のテストを兼ねて体力テストと練習試合を予定してる。
では、初めてくれ!』
通訳が訳し伝えると、チーム全員の顔に緊張感が走る。
新監督になればチームのレギュラーは白紙となる。
誰がスターティングメンバーになるか分からないし、当然今までの経験のある選手だって、ふるいにかけられて、落ちる可能性があるわけだ。
『あ、そうそう。言い忘れていたが、もう2人新しい選手が合流する予定だ。
今いる外国人選手の諸君も、自分たちは外国人だから枠があるなんて思わないでくれ。』
初めての監督からの挨拶はチーム全員に緊張をかけた。
コーチも聞いてないよ!という顔で監督を見ている。
「よ、よし!体力テストといこう! 色々メニューがあるがへばるなよ!
まず、サーキットを5kmだ!」
そう言うと、選手全員は走らされる。
全員の5kmのタイムを計るのだろう。
シュウはアップをしていたが、アップをせずに入ってきていきなり走れ!などと言われたら外国人選手はきつい。
それに、日本人選手達も少し息が上がっている。
息が上がっていないのは、シュウ、それに波斗。
あとは日本代表のDFでありチームのキャプテンでもある中田 誠二
それに若手のサイドバック 駒川 健太と、昨シーズン日本人得点王の
森田 諒などだ。
とりあえず、シュウはトップでゴール。
入ってきた選手に水が与えられる。
その次は、50mシャトルランをしたり、反復横とびなどなどバラエティーに富んだテストだった。
みんなが少し疲れが出てきた中、フェデリーニが言う。
『みんな、お疲れ。
では最後にAチームとBチームに分かれて練習試合をしよう。
メンバーは私が決めた。
呼ばれた者から来てくれ。
では、Aチームから。
ゴールキーパー 戸川。
センターバック 中田、森谷。
サイドバック 駒川、加賀。
ボランチ ファブリシオ、波川
オフェンシングハーフ 宮田、菅山。
フォワード 森田、東
以上だ。』
シュウは驚いた。
なんで、俺の名前がないんだ!?と。
『では、次にBチーム。
ゴールキーパー 佐藤。
センターバック 岡田、古河。
サイドバック 藤川、本田。
ボランチ キム、船谷
オフェンシングハーフ 泉、成本。
フォワード 荒川、山崎
前半はこのチームだ。
頑張ってくれ。」
チームがざわつく。
それもそうだ。
このAチームとBチームの区分けはどう見ても昨シーズンの先発メンバーと控えメンバーの組み合わせとほぼ同じなのだから。
Aチームは昨シーズン16位ながら、なんとかJ1に残ったレギュラー。
Bチームは昨シーズン控えのメンバーのが中心と言っても過言ではない。
シュウはいきなりフェデリーニの考えが分からなくなっていた。
この人は本当に俺を使ってくれるのか?
試合が始まった。
前半5分。
やはり先手を奪ったのはAチームだ。
パスワークを駆使して、Bチームのディフェンスを混乱させる。
そして昨シーズンのチーム得点王、森田につなぐ。
「やばい!」と思わずシュウは声を上げた。
森田がフリーになっているからだ。
森田は完全フリーでペナルティエリアからシュートを打った!
ゴール左上に向かってボールが勢いよく向かう。
誰もが入った。
と思ったその時。
波斗が防いだ。
しかも、完璧なキャッチングだ。
「みんなー!ゴールは任せろ!」と波斗が声を出す。
チームの雰囲気がその声で明るくなる。
森田は完全フリーと言うFWとしては決めなくてはいけないところで決められなかったので、少し悔しそうだ。
その後もやはりボールをキープしているのはAチーム。
ルーズボールやこぼれ球を徹底的に追う。
そしてスムーズに行く連携。
Jリーグ16位とは言え、やはり1部のチーム
総合力が違う。
またも1軍のシュートチャンス。
ファブリシオから中央の森田へ待っていたと言わんばかりのスルーパス。
それが美しい線を描き通る。
「1対1だ!」
森田は確実に決める!という気持ちでボールを蹴った。
しかし、今日当たっている佐藤が読んでいた。
信じられない反応を見せてまた防ぐ。
「波斗!」と泉が叫ぶとそこで前半が終わった。