#1 START
雪が舞う1月。
「戻ってきたか。」
泉シュウは、そう言って飛行機の窓から外を見た。
高層ビルがそびえ立つ街。
夜なのにところどころまだ明るい。
自分はイタリアから日本にサッカーをしに来た。
日本でプレーしたい。
その気持ちを果たそうと思ったのは、20歳。
つまり今だ。
イタリアのセリエAでもプレーしていた。
しかしながら、シュウは日本人選手。
外国人枠の関係もあり、試合に出場したり、
しなかったりの日々が続いていた。
ベンチを温める日々が長く続いていた。
俺はこんなことをするためにイタリアでプレーしているんじゃない。
そう思って日本に来た。
泉はイタリア生まれで、父がイタリア人、母が日本人のハーフ。
どちらの国籍を取るか?
イタリア代表のほうがレベルが高い。
しかし、日本代表も近年では急速な進化を遂げている。
セリエAという中では、イタリア国籍の方が有利だ。
何故なら、ルール上、EU加盟国、EU加盟申請中の国の国籍を持つ選手の制限は無い。
日本とイタリアという2つの選択肢のうち、泉は日本代表を取得した。
まず手始めにU-23代表になり、五輪への出場をすること。
そして、A代表になり日本代表でW杯を制覇する。
そして、子供のころからの夢だった世界一のサッカー選手になること。
それが泉の夢だ。
空港に着くと、報道陣のシャッター音が響いた。
数は少ないが、きっとサッカー関係の記者なのだろう。
日本に戻ってきたが、未だにどこのオファーをとるのかは決めていない状態だった。
報道陣からの質問が飛び交う。
「泉選手、セリアAから戻ってどこのチームに入るんですか?」
「まだ決めてません。」
「やはり、王者鹿島エンペラーズですか? それとも攻撃的な川崎フロンティア、
大阪ガンナーズですか??」
「決めてないんで、正確に決めたら発表するので、それまでは何も言えません。」
そういうと、泉は宿泊先のホテルに入った。
「しつけーな。どこに入ってもそんなに変わりないじゃん。
まぁ・・・優勝できるチームじゃないと俺は入らないけど・・・。」
そう言って、泉は携帯電話を開く。
ニュースの中に信じられない記事が飛び込んでいた。
「昨シーズン16位のジャベリン磐田、泉を獲得に乗り出す!!
監督もイタリア人監督、マルコ・フェデリーニ氏を推す。」
「マルコ・フェデリーニ・・・」
泉はびっくりしていた。
マルコ・フェデリーニ
欧州リーグの数々のチームを優勝に導いた名将である。
その実績は名高いが、契約が打ち切られ、どこのチームに入るのか、サッカーファンには
注目の的であった。
「ふ~ん・・・。」
ジャベリン磐田
過去にリーグ制覇、カップ制覇など様々な栄光を持つチーム。
しかし、近年は日本代表選手もいるというのに、成績は低調気味。
昨シーズンに至っては、リーグの2部との入れ替え戦にギリギリ勝ち、なんとか1部を保つという具合だ。
そんな状況にファンもフロントも指を銜えて黙ってみているわけにはいかなかった。
まず、監督の入れ替え、そして足りないタレントの補充。
スポーツチームが低調している時のよくあるテコ入れ。
そう思えてもしょうがない。
それをしても良くならなかったチームも腐るほどある。
しかし、ただ黙っているよりはいい。
すると泉の携帯に代理人から電話があった。
「シュウ、今ならまだ間に合うぞ、ヨーロッパの名門チームもいい条件でオファーをくれてる。
それに、日本のチームなんて・・・。」
「いいんだ。
母さんの故郷でサッカーがしてみたかったし、なによりこれからはオリンピックもあるし、メンバーに選ばれたい。」
「わかった。日本のチームで探す。
君に伝えておくが、今オファーが来てるのは、横浜、鹿島、川崎、磐田だ。」
「磐田か。マルコ・フェデリーニが来るって噂は本当か?」
「今、確認はできていないが、どうやら来るという噂は本当だ。」
「できるだけ、早く確認してくれ。それによって、俺が行きたいチームも変わる。」
「わかった。」
そう言うと、電話をきってシュウは眠りについた。
翌日、泉はスポーツ新聞を見ると、驚いた。
見出しはこうだ。
「マルコ・フェデリーニ! ジャベリン磐田に正式決定!」
このニュースは一面ではなかったが、日本のサッカー界にとっては驚きだろう。
何故なら、海外の超有名監督が日本のチームに来る。
しかも、それほどいい成績を残せていないチームに。
これはファンなら少しは期待してしまうものだ。
そう思って朝飯を食べていると、依頼人から電話があった。
「泉、ある人から約束だ。 今日の夜七時に。」
「誰だ?」
「マルコ・フェデリーニからだよ。 どうやら、食事をして話したいんだそうだ
極秘に。」
「それは契約の話?」
「たぶん、そうだろう。」
泉は信じられないと言った気持ちだった。
あの有名な監督からそんな話が来ている。
まさか、そうは思えなかった。
「ぜひともお願いしたい。何時だっけ?」
「七時だ。指定の場所にはここから車で向かってくれ。俺も行く。」
「分かった。」
そう言って、電話が切れた。
泉は言ってもたってもいられない気持ちになった。
約束のレストランに着くと、確かにその人は待っていた。
銀色に近い髪の色と、深いしわ。
そのしわの数と同様に、世界の名のあるタイトルを獲得してきた。
そして、トレードマークであるブルーのネクタイを締めて待っていた。
『やぁ、泉、待っていたよ。』
とイタリア語で声をかけてくるこの人。
世界が認めている名監督、マルコ・フェデリーニだ。
『お待たせしてすみません、監督。』と泉もイタリア語で返す。
今のところは、いい感じのようだ。少なくとも。
『今日は2人だけで話がしたくて、このような場を設けさせてもらった。
別に大した用事ではないと言う訳ではない。
率直に言うよ。
泉、君に私のチームに入ってほしい。』
泉は驚いた。
どのようなアプローチで来るにしろ、交渉ということは覚悟はしていた。
まさか、ストレートに言ってくるとは思わなかった。
泉は水を少し飲んで、気持ちを落ち着ける。
『今、ここで結論を出さないとダメですか?』と聞く泉。
マルコ・フェデリーニは少し考えると、『あぁ。』と静かに言い放った。
『君がもし入らないと言うのであれば、私はこの話を蹴るつもりだ。
イタリアで見たが、君のプレーは実にすばらしい。
日本人いやイタリア人にもない柔らかさ。
そして正確なボールコントロールにドリブル。
プレーに実に魅力を感じている。』
そう言うと、フェデリーニは水を一口飲む。
泉はそれを聞いて驚いたが、今度は即答した。
『分かりました。ジャベリンでお世話になります。』
『ありがとう。』
そう言うと、フェデリーニから握手を求められた。
泉は返す。
『今日はフランス料理が私の夕食だ。
泉は好きかね?』
『あ、はい。たいていのモノは好きです。』
そうか。と笑うと、フェデリーニはワインを飲んだ。
祝杯と言う感じなのだろうか。
それは実に美味という感じを出していた。
数日後、ジャベリン磐田の関係者が電話をくれた。
契約書が出来たので来てほしいということだった。
その後に入団会見と同時に監督の就任会見もするということなので、シュウは慣れないスーツを着て磐田のクラブハウスへと向かった。
「どうも。」と関係者と握手をするとすぐさま契約書が出てきて、それにサインをするというものだった。
「じゃ・・・契約書の方にサインをいただけたので、次は会見お願いします。」
言われるままに部屋に入ると、テレビ、ラジオ、雑誌などの様々なメディアの記者などが来ていて、入団の後は普通に記者会見と言う流れだった。
すると、スーツを着ている女性がシュウの前に来た。
「どうも、球団広報をしてる奈良 彩加と言います。
今日は、泉選手とフェデリーニ監督の会見の司会をするのでよろしくお願いします!」と挨拶をされたので、「よろしく。」とシュウも挨拶をしておいた。
「すいません、泉選手目線くださーい!」などとカメラマンがシュウに言う。
シュウは笑顔を作り、カメラの方を向く。
シャッター音がカシャカシャと切られ、まぶしいライトの中にシュウはいた。
「では・・・本日、入団が決まりました、泉 シュウ選手です。背番号は9番。
そして、そのお隣にいるのは今シーズンより監督を務めることになりました。
マルコ・フェデリーニ監督です。」
そう呼ばれると、フェデリーニ監督は礼をして座った。
「では、ご質問の時間とさせていただきます。
質問のある方は、挙手をお願いします。」
色々な記者から手が上がる。
司会がどうぞ。と言うと、質問が始まった。
「どうも、フットボールマガジンです。泉選手に質問です。
今まで、セリエAという舞台から、どうして日本のJリーグに来られたのでしょうか?」
「はい。母の祖国である日本でプレーしたいと思っていたのもありますし、日本国籍を取得したのもあって。それに、Jリーグでプレーするチャンスだと思って、ジャベリン磐田さんからオファーがあったのがきっかけで入ることにしました。」
「これからの目標などありますか?」
「とりあえず、レギュラーに定着して、チームを優勝に導けるような活躍が出来ればと思ってます。」
「自分のセールスポイントがあれば、教えてください。」
「ええと・・・そうですね。ボールコントロールやドリブルですね。
実際に見に来てもらえば分かると思いますので、サポーターの方は見に来てくれると嬉しいです。」
「あ、フェデリーニ監督にもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ。」と司会が言う。
「日本ではまだ監督経験がないということですが、日本のチームを監督する上で不安などはありますか?」
通訳がイタリア語で伝えるとフェデリーニは答える。
『私は今のところ不安と言うものはなく、むしろこのジャベリンと言うチームを率いることに興奮しています。』
「ジャベリンで注目する選手などがいれば教えてください。」
『そうですね、まだ練習を見ていないので何とも言えないが、試合を通してのビデオでは、
やはり日本代表のDF 中田といったとこかな。
それに他にも注目している選手はいますが、秘密にしておきます。』
とフェデリーニが言うと、場内が笑いに包まれた。
他にもさまざまな質問が出てきた。
泉のほかにもとりたい選手などはいるか。
日本のJリーグについてどう思うか。
などなどさまざまな質問が出て会見は終わった。
「お疲れ様でしたー!」と彩加が挨拶をする。
シュウも「お疲れです。」と挨拶をして、その日は終わった。
みなさん、評価や感想などじゃんじゃん承ってます。
宜しくお願いします。