第1話
「君は世界を救う英雄だ!」
いきなり、俺の目の前に現れたローブを着て死神みたいな鎌を持ったちっこい生物は言った。
「・・・は?」
と、俺は言いつつ何でこうなったかを思い出してみた。
俺こと桐ヶ谷水孤は、近くの高校に通う、身長170センチで、少し長めの黒髪、黒目。趣味は読書とゲーム(ともにRPGやファンタジー物)。運動神経、勉強ともに中の中から中の下くらいのどこにでもいる普通の高校生である。学校が終わって帰る途中にあるゲームショップで今日発売のゲームソフトを買って、足取りも軽く家に帰ろうとしているときに、いきなりこのちっこい死神モドキに英雄だと言われたわけである。
「だから、君はこっちの世界では凡人の中の凡人で、消えても誰にもかえりみられない人だけど、ココとは違う世界では君が必要なの!」
などと、失礼なことを言いながら、ワケの分からないことを叫んでいる死神モドキに、
「ココとは違う世界なんて、ゲームの中以外存在するわけ無いだろ」
ともっともな答えを返しながら、この頭が少しいっちゃってるとしか言いようがない死神モドキを誰かに押し付けるべくきょろきょろと周りを見渡している所に、
「あるったらあるんだって!今から連れて行くから付いて来い!」
と、偉そうに言いながらテクテクと歩いていった、俺は付いていかないわけにもいかないのでとりあえず付いて行った。
数分歩くと死神モドキは裏路地に入っていき、また数分歩いてやっと死神モドキは歩みを止めた。
「誰もいないよな・・・」
と、きょろきょろしながら言い、俺のほうを向き、ものすごく軽い口調で、
「今から異世界に行くぞ」
なんてことをのたまった。
「え?どうやって?」
と俺が聞き返すと、
「とにかく行くから準備はいいか」
とあっさり俺の質問をスルーしながら、なにやら口の中でぶつぶつ呟きだした。
「おい、お前何やってるんだ?」
と俺が聞いたが聞こえていないのか死神モドキからの返事はない。仕方が無いので俺はじっとしていた。しばらくすると、死神モドキが杖のようなものを懐から取り出し、目の前の何もない空間に向けて杖を振った、すると、
「え・・・扉が出てきた・・・」
目の前に虚空から扉が出現した。俺は何度も何度も目を擦ってみたが扉は消えない。
「まるで、ゲームに出てくる魔法みたいじゃんか・・・」
と俺が呟いた声が聞こえたのか死神モドキは、
「そうだ、これは魔法だよ」
と、とんでもないことをサラッと口にした。
「は?」
と、俺は間抜けのような顔をして死神モドキを見つめた。
「だから、これはお前らの言う魔法であって、この世界には無いものだろ?これで僕の話は信じてもらえたかな?」
と、言うので俺は反射的にうなずいた。
「それじゃあ、行こうか」
と、死神モドキは扉に手を掛け、開いた。そして、扉の近くでまだ呆然と立っている俺の背後から蹴りを入れて扉に突き落とした。
「て、ええーーーーーー!?」
やっと茫然自失から立ち直ろうとしていた俺は叫びながら扉にすごいスピードで突っ込んでいった。
「ぎゃーーー!!」
扉に入った瞬間から、意識が薄れていき、俺は気絶した。
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俺は、水が流れる音で目が覚めた。俺は目を開けて起き上がってみた。すると、俺がいたのはさっきまでいた薄暗い路地裏ではなく、太陽がさんさんと照りつける、どこかの川辺にいた。
「な、ドコだよココ!?」
たしか、俺は路地裏で死神モドキに扉の中に蹴りいれられて・・・
「あ、そうだ。どこいったアノやろう!」
俺は周囲を見回してみた。すると後ろから、
「ここが、あんたが英雄になれる世界だよ」
と、俺が探していた死神モドキが言ってきた。
「は?てことはココが異世界なのか?」
「そうだよ。ココが異世界だよ」
と、答えた死神モドキは、次の瞬間俺にとんでもないことを言ってきた。
「ああ、そうそう。こっちの世界から向こうの世界には、帰れないから」
と、俺にとってものすごく大事なことをサラッと口にした。
「・・・は?」
と固まる俺に向かって、
「帰りたいんだったらこの世界を救わないといけないんだよ。」
と、更にとんでもないことをおっしゃった。
「は、はあああああああああーーーー!?」
当然俺は絶叫しつつ死神モドキに詰め寄った。
「お前そんなこと一言も言ってなかったじゃねーかよ!」
「え?言ってなかったっけ?でも、扉をくぐる前に準備はいいかって聞いたじゃん」
「あのときは明らかに反論できないタイミングだったし、お前が俺を蹴りいれたんじゃねーか!」
「あれー?そうだったっけ?まあいいじゃん」
「よくないよ!お前帰るためにこの世界救えなんて馬鹿なことをいってんじゃないよ!無理だろ普通」
「諦めるな!諦めたらそこで試合終了だぞ。っていう言葉がそっちの世界にはあるんだから頑張ってみてよ」
「頑張れるか!それにそもそも試合は始まってすらいないって!」
などと、ギャーギャー騒ぐ俺に、
「とにかく水の里に行こうよ。事情はそこで話すからさ」
と、暢気に言う、死神モドキに、俺は本気で殺意を覚えつつ、俺は心の中で、
『俺はこれからどうなるのーーー!?』
と、叫んでいた。
何やかんやで、俺の冒険は始まるのだった・・・。