その2
「おはよう!」
教室。朝も夜も凶悪な双子に支配される俺に取って、唯一ホッとする場所である
「ういーす」
「よー」
「おはよ」
席周りの友人達が、俺に軽く返事をし、その後、席に座った俺に視線が集まる
「ねぇ、ふみ君。ふみ君は昨日、九時ドラ見た?」
隣の席の相田さんが、会話に混ざるきっかけを作ってくれた
「見てない。夜はずっと勉強してたよ」
させられてた。が、正確だが
「ふへ〜。流石クラストップの成績者だよ〜」
「負けられないな!」
「ああ、次の期末は勝つ!」
席の前と後ろの、ミツとコウが力強く言う。二人は、負けず嫌いで努力家だ。元々が怠け者の俺では、いずれ抜かれる時が来るだろう
俺は穏やかな表情で二人を見つめ
「ふみ!」
「はい!」
聞き慣れる事が無い怒りの声に、俺の身体は自然と直立不動の形を取っていた
直立不動のまま、恐る恐る声の方向、即ち廊下を見てみると、そこには人前だからか辛うじて笑顔を見せている、めぐみの姿がある
「ちょ~っと、こっちに来て下さいませんか?」
敬語!?
めぐみが敬語を使う時、その怒り度は高い
「な、なんだよ。もうすぐホームルームで……」
「き・て」
「あ、ああ」
俺は、ポカンとする友人達に一言かけ、不安を隠すように早足で廊下へと出た
「な、なんだよ」
「バッグ」
「え?」
「ふみのバッグ、持って来て」
「う、うん」
良く判らないけど、怖いから素直に聞いておこう
机に戻り、置いたバッグを手に、めぐみの元へ戻る
「持って来たぞ」
「貸して!」
「うわ!?」
めぐみは俺からバッグを奪い取り、覗き見た
「何するんだよ!」
「……やっぱり」
俺のバッグから、めぐみは見慣れない水色のノートを取り出す
「え? 何それ?」
あんなノート、持ってたかな?
「あたしのノートよ」
「は? なんでそんなのが……」
「何分で入れ替えに気付くか、実験してるんだってさ! 全くあの子は~」
どうやらめぐみの怒りは、つぐみに対してのものらしい
「相変わらず変な事してるな、つぐみは。めぐみも気をつけないと」
そこいくと俺はしっかりしているから、つぐみも悪戯を仕掛けて来ない
「はい、これ」
めぐみは俺に、持っていた何かを差し出す
「ん? あ!? 俺のノート!」
「しっかりしなさいよね」
「…………」
なんだろう、この敗北感
めぐみが自分の教室に戻った後も、俺のテンションは上がる事なく、苦い敗北の味を噛み締めながら、授業を受けた
そして、お昼。
今日の弁当は、つぐみ担当だ。何気にあいつは料理上手いし、楽しみ
俺はワクワクしながら机の上に弁当を置いて、包みを解いて……
※
「……世界って綺麗」
学校の屋上、青空の下。その場所でいつもの様にブルーシートを敷いて弁当を食べていたつぐみ。そのつぐみは、屋上に入った俺を確認した後、長い髪を風になびかせ、切なげに呟く
「……それと、お前の脇に置いてある空になった俺の弁当と、何が関係あるのか聞いても?」
怒っているぞと顔と声で演出しながら、つぐみに近付く
「世界と同じく、綺麗な心を持った方が良い」
「お前が言うな!」
学校とは弁当ぐらいしか楽しみが無い場所。だと言うのに、つぐみはそのひそかな楽しみを奪って下さりやがった!
「お弁当。お昼の時間まで、入れ替わってた事に気付かないなんて駄目過ぎ」
「あのなぁ!」
「駄目駄目」
「ぐぅう!」
「可哀相だから私のお弁当食べて良い」
「梅干すら入ってませんけど!?」
俺の手にあるのは、つぐみの弁当箱。ピンク色した小さな弁当箱には、米がぎゅうぎゅうに詰まっている
「美味しいよ?」
「お前が食えよ!」
「うん」
つぐみは立ち上がり、俺の方へ寄って来た
「いただきます」
「や、やらねぇよ!」
せめて米だけでも食う!
「……嘘つき」
「お前が言うな!」