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第1話:めぐと、つぐみん

いきなりだが幼なじみについて語ろう


俺の幼なじみは、残念ながら可愛さのかけらもない。スタイルは良いが、肝心の胸は……


優しさ? そんなものはどっかに捨てて来たねって感じの性格。

 俺の理想とする幼なじみ像からは、千も万も掛け離れている


今頃、他の連中は可愛い幼なじみと楽しく登校している頃だろう。

 それを思うと、俺は悔しくて夜も眠れない


「たそがれてないで、もっと詰めなさいよ」


通学バスの中、三人掛けの席でいつものように一番奥に座り、いつものように潰される。窓に張り付く頬が切ない


「ふぅ。秋とは言え、まだ暑いわね。もっと冷房効かせれば良いのに」


「座れるだけマシだろ?」


バス内は、学校へ向かう生徒達でギュウギュウ詰めだ。

 駅前から乗る俺達は、多少並べば何とか座れる


「まーね。鞄、肘で潰さないでよ?」


俺の太ももには、めぐみのスポーツバックが乗っている。毎日やけに重いが、鉄アレイでも入っているんじゃないか? ……こいつなら、ありえる


蒸れるバスの中、俺は窓の外を見ながら過去の出来事を思い出す


あれはそう、俺が天使の子と呼ばれてちやほやされていた頃の話だ


とにかく可愛くて、利発で利口な少年。そんな少年を近所の子がほっとく訳は無かったのだ


〜幼き頃の回想〜


あれはスーパーへお使いに行った後の事だ。

 貰った駄賃を手に、俺は良く行く駄菓子屋で棒アイスを買った


季節は春。ポカポカ陽気に冷たいバニラアイス


そんな最強に近い組み合わせを、ニコニコ笑顔で食べている時、後ろから声を掛けられたのだ


「ぶーちゃん」


当時、ほんのちょっと太っていた俺に、学校で与えられたあだ名。なんて安直なのだろうか


そんな下らないあだ名を呼ばれた当時の俺は、当然、毅然として答える


「なぁに、めぐちゃん」


「ま〜たアイスなんて食べて。ますます太っちゃうよ〜」


めぐみは駆け足で俺の側に寄り、俺の正面に立って


「代わりに食べたげる」


俺のアイスにかぶりついたのだ! しかも根元から殆ど!!


「ん〜、おいし!」


「ひ、酷いよ、めぐちゃん……」


「酷くないよ〜。ぶーちゃんがこれ以上太らない為、心を鬼にしてやってるのよ」


「うう……」


「ほら、早くお使い済ませて遊ぼ? つぐみも公園に居るから」


「う、うん……」


買い物帰りの俺の、唯一である娯楽を奪われ、凹む心で家に帰る。

 その間、めぐみは上機嫌で童謡なんかを唄っていた


そして公園。公園ではめぐみの言う通り、つぐみが既に来て居て、砂場で小さな山を作ってはそれを壊していた。なんとも情緒不安定なお子さんである


「こら、そこの変な子!」


「……なに? 姉さん」


自分が変な子だと言う、自覚はあったらしい


「作戦会議をします! ぶーちゃんは此処で待機」


「…………」


俺をほっといて、会議を始める姉妹


狭い公園なので所々会話が聞こえるが、この当時の俺は、家畜ゴッコだの奴隷ゲームだのの単語の意味が分からず、ボケーっと聞いていた


「うん、それでいこう! ……ぶーちゃん、今日は食いしん坊なぶーちゃんの為に、予定を急遽変更してダイエットメニューを考えてました」


「え?」


「こっちに来て」


「う、うん」


「しゃがんで」


「え? う、うん」


「はい、つぐみ」


「らじゃ」


「うわ!」


背中に掛かる重み。汗ばんだシャツが肌にくっついて冷たい


「べとべと」


つぐみは俺の首に両腕を回して、強く密着する


「ほら立って、ぶーちゃん」


「う、う〜」


フラフラしながらも何とか立ち上がる俺に、めぐみは言い放つ


「公園を五周! 終わるまでぶーちゃんを離しちゃ駄目だよ、つぐみ!」


「らじゃ」


「ぐえ!?」


更にギュッと抱きしめられ、首は苦しくなる


「ほら走れ〜」


「ひ〜!」


めぐみには逆らえない。ものごころ付く前から刻まれた本能が、俺を走らせた


「ひ〜ひ〜」


「頑張れ〜」


「ひ〜ひ〜ひ〜」


フラフラ、げほげほしながら走った三十分。身体中は汗だくで、息も絶え絶えだけど何とか感想


「ひ〜ひ〜ふ〜、ひ〜ひ〜ふ〜」


「ご苦労様! ご褒美にポカリ的なすいっと買ったげる」


めぐみは笑顔でそう言って、公園の直ぐ側にある自動販売機へ駆けて行った


「ハァ、ハァ……フゥ、フゥ……つ、つぐみん? もう降りてくれないかな?」


暑いし、重いし、座れない


「うん」


つぐみはコクんと頷いた後、口元を俺の首に寄せて……


「うひゃ!?」


舐めた!


「しおあじ」


「うぅ……ゾワゾワする〜」


「暑い」


つぐみは俺から離れ、再び砂場へと行く。そしてまた山作り


「お〜い。お待たせぇ」


めぐみは両腕に三本のポカリ的なすいっとを抱えて、走り寄る。不本意であるが、この日のポカリは目茶苦茶うまかった


「…………」


「何、ぼーっとしてるのよ」


「あ、いや。別に……」


「……ふ〜ん。ま、良いけど」


めぐみは昔から俺を鍛える(イジメる?)為には手間を惜しまない。下手をすると、毎日持たされるこのバックには本当に鉄アレイが入っているかもしれない


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