プロローグ
「……きろ」
「ぐーぐ」
「おきろ~」
「ふが? ……ふご~」
「起きろ!」
すぱこーん!
「ギャ!?」
突然、後頭部を襲った衝撃! 何事!?
「起きた?」
オキタ? なんだその単語は。新撰組か?
「あれ? 動かない……ちょっと強く叩き過ぎたかな?」
この声は……めぐみ
こいつ、また人の頭を叩いたのか!
「おかしいな……もう一度叩いてみようかな?」
冗談じゃない! そうなんども叩かれてたま
「私が起こしてみる」
るか……ん? 今日は、づくみまでいるのか
「起こすって、どうするのよ? ぶっ叩く?」
そんな奴は、お前だけだ馬鹿者
「こうする」
どうする?
「え? ってちょっと! なんでパンツ脱ぐのよ!?」
パンツ!?
「被せる」
「はぁ?」
はあぁ?
「起きるでしょ?」
「何を馬鹿言ってるのよあなたは……。我が妹ながら呆れるわ」
俺も幼なじみながら呆れるぜ
「じゃ、やってみる」
「え? ち、ちょっと!」
マ、マジで? マジでやる気か!?
「……で、君はいつまで寝ている振りをするつもりなのかな?」
「…………」
トゲがある、めぐみの声を聞き、俺はからかわれていたのに気付く
「……分かってたのか」
渋々ベットから上半身を起こすと、ベット横で睨みならが俺を見下ろす、めぐみ。その一歩後ろにつぐみが居た
「当たり前でしょ。時間の無駄になるから、さっさと起きてよね」
「はいはい……たく、人をからかって意地が悪いぞ」
「…………だったら良いんだけどね」
呆れた表情で、後ろのつぐみを指差す
「え? ……ぶ!?」
「つまらないの」
つぐみは残念そうに呟き、パンツを履き直していた
「我が妹ながら……はぁ」
「…………」
「こら、ジっと見てないでとっとと顔を洗って来なさい」
「あ、ああ!」
慌ててベットから飛び出し、俺は階段を駆け降りた
※
優しい幼なじみが欲しかった。昔も今も、そう思う
朝は優しく起こしてくれて、たまにお弁当なんか作ってくれて、放課後なんかは帰りを待ってくれて……
歯磨きをしながら、理想の幼なじみを想像してみる
可愛くて、スタイルが良くて、優しい幼なじみ。そして俺の事が好きだったりすると、最高
「……良いなぁ、そんな幼なじみ」
マンガとかでは結構見るし、きっと現実にも沢山居るだろう。羨ましいぞ
何で俺にはあんなのしか居ないのだろうか……
「いつまで顔洗ってるのよ! もうすぐ、ご飯なんだからね!」
「ご、ごめん!」
俺は急いで顔を洗って洗面所を出る
洗面所を出た先は、玄関まで一直線に続く廊下。廊下奥は洗面所と台所に続くドアがあり、玄関近くに部屋へと続く襖が二つ
二階建て一軒家の我が家は、駅に近いと言う利点の為に広さを大分削ってしまっていて、台所も部屋2つもそれぞれ6畳しかなく、廊下も人が一人歩くのがやっと。なんともせせこましい家である
さて、そのせせこましい廊下を歩き、居間へと入ると、畳の上で正座するつぐみが居た。
六人用テーブルの上にポツンとあるバナナの皮は、きっとつぐみが俺のおやつを黙って食べた後だろう
「うまかった? バナナ」
イヤミっぽく尋ねてみる
「あんまり。ぱさぱさしてた」
暗に、もっと良いバナナを買えと言われてる気がするのは俺の被害妄想だろうか?
「……よっこいしょ」
窓側に座るつぐみの向かいに腰を下ろし、42型ブラウン管テレビを付ける。当然、地デジには対応していない。このデカイテレビ、どうしてくれるんだチクショウ
「1チャン」
「はいはい」
1チャンを付けると、いつもの堅苦しいニュース番組。朝の俺には、チャンネルの権利は無いである
「…………」
つぐみは、ぼーっとテレビを見ている。特に面白そうでもないのだが、いつもこんな感じなので、気にしない
「はい、お待たせ」
何となくテレビを見ていると、めぐみがトレイに味噌汁とご飯を乗せて居間に入って来た。
めぐみは素早く並べ、再び台所へと戻ってゆく
「何か手伝おうか?」
廊下に顔を出し聞いてみると、台所からは
「要らないわよ。早く食べなさい、今、卵焼きとおしんこを持って行くから」
と、言う声が返って来る。いつもながら、台所には男子入るべからずらしい
俺は座り直し、つぐみと共に、いただきますをする
「いただきます」
「いただきます」
先ず、味噌汁をズズズと飲んでみる。ほど好い塩辛さだ
「赤味噌」
「うん、そうだな」
つぐみは赤味噌が好きらしいのだが、好きとは言わないから良く分からん
「はい、卵焼き。おしんこはキュウリの浅漬けよ」
ぱっぱと皿を置いて、エプロンを脱ぎ、畳んでつぐみの横に座るめぐみ。相変わらず無駄の無い動きだ
「いただきま~す」
めぐみが食卓につき、三人が揃った時点で、ようやく俺達の朝が始まる
窓から見える空は、今日も快晴だ