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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

天使虫

掲載日:2026/03/22

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふ~、助かった~、爆発寸前だったよ。

 いやはや、ギリギリで間に合うトイレほど解放感に満ちたものはなかなかない。我慢に我慢を重ねてから、ようやくそれが許されるときのスカッとさわやかぶりときたらね。

 でも、我慢はよくないものとされている。いかに一時の気持ちよさのためとはいえ、耐えているところには、通常時以上の負担がかかり続けるわけだ。

 そうなれば、こらえているところにダメージが残る。時間をかけて回復させたつもりであっても、臓器の健康は日常生活の中の素人目線じゃ正しく理解できない。自分のことは自分がよく分かるといっても、そいつは個々に感じている「調子」がせいぜいじゃないかと、僕は思う。

 自分の調子を知るうえで、排泄物もまた重要なのはよく知られているだろう。専門的な知識を持っていなくても、水のようなのか凝り固まっているのかだけでも、身体に良からぬことがおこっていることを報せてくれている。

 僕の昔の話なのだけど、聞いてみないかい?


 検便、といったら君も分かるよね?

 大人になってから健康診断を定期的に受けるとなれば、検査内容によってはこいつを行う必要が出てくる。

 僕の通っていた学校では、児童相手でもこれを行っていてね。ひと昔前よりは実施する学校は少なくなっているような話を聞くけれど、二か月に一回は行っていたなあ、うち。

 僕はこの手の検査があると知ると、とたんに緊張しちゃうタチなんだ。期限を区切られることで余計に力が入って身構えちゃうというか。

 どうも排泄物もそのこわばり具合を反映しちゃうのか、下痢か便秘のどちらかへ両極端に振れちゃって、毎度毎度ひと苦労だった。

 そのときも、期日直前まで調子のいい排便があるよう粘ったけれど、思うようにいかず。水便のかろうじて形を保っているところをせっせとこそぎ取って、検便用の容器へ入れた。

 ことが済むと、お腹が平常通りになるのは困ったものだけど、先生に容器を預けてから一週間ほど経って呼び出されちゃったんだよ。


 このときは、まさか検便についての呼び出しとは思わなくって。まさか自覚していないところでミスをやらかして、先生にお目玉をもらうんじゃないかと、ひやひやしていた。

 しかし、保健室へ通されてみると、そこの先生と一緒になって今すぐ調べたいことがあるから協力してほしいといわれた。例の検便の結果を受けてだ。

 僕の身体の中に、「天使虫てんしむし」がいると告げられてね。聞いて、なんだそのファンタジーチックな名称は、と思ったけれど「だったら死を告げる虫と、伝えたほうがよかったか?」と先生に返されて黙ってしまう。


 詳しいことはまだ研究中らしいが、この天使虫はいつの間にか、どこからか身体の中へ入り込んでくる。

 犠牲者たちから得られた情報によれば、虫は最低でも3か月間は宿主の体内で潜伏しているが、そこからいつ破裂するか分からないバクダンと化す。

 動き出せば、一両日中に宿主は命を落とす。この際、身体を食い破ったり、特徴的な斑点などを示したりするなど、病を思わせる兆候を見せない。

 ただ臓器の機能をいっぺんに奪う。自分を処理させることすべてに、意識を集中させるのだと。結果、他の生理現象さえ行うことを臓器はやめ、そのまま肉体を死に至らしめる。

 注目させ、堕落させる、外世界よりの死のエンジェル。それが天使虫だった。


「だが、対処法もまたシンプルだ。舞台にあがり喝さいを浴びる役者も、舞台を下りればただの命。身体という舞台から退場願うのさ」


 そこからはおそらく、下剤のようなものを呑みまくらされたねえ。午後の授業の時間いっぱいを使ってさ。

 一種類じゃなくて、多数を混ぜ合わせたものを何杯も何杯も。給食のあとで膨らんでいる胃に、じゃんじゃか詰め込まれてさ。あげくトイレに10回以上はいったなあ。

 で、トイレに流されたものは大小を問わない真っ白いものだったんだ。しかも、明らかに水面が勝手に波打つ。あたかもそこに何かいるかのごとくさ。

 それがすっかり見られなくなるようになって、ようやく帰るのを許された。まあ、いまもこうして生きているから先生たちのやったことは、結果的にありがたいことだったんだろう。

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