第六幕:君が望むもの
やあ、君。語り部とは何か考えた事はある?物語を正確に話すのが、本当に語りとして上手いの?それとも、ウソツキに徹するべきなのかーー
聴いてくれる天使たちに、少しでも伝わったらいいんだけどーー。
第五幕では、アロンソが言葉巧みに自分が太っ腹の騎士であることを、太っ腹のサンチョに伝えた。
サンチョは、この新しい謎の騎士にワクワクした。彼は字を読むのが苦手だった。長く見てたら疲れる。
だから、話を聴くのが好きだった。
なんでと思ったら、話している相手に聞けたからだ。
そのせいで、妻や子どもたちに迷惑がられた事もたびたびあった。
「遍歴の騎士さまが、この村に来たのは、何のため?」と彼は疑問を先にぶつけた。
アロンソは、質問されて喜んだ。
「よく聞いてくれた、サンチョ。吾輩は平原を馬に跨って越えようとした。
だがーーこの平原は意外にも広く、吾輩だけでは心許ないーー心強い従者が不可欠だーー」
「心強いーー従者ーー!」
サンチョの目が光った。
「この村にーーいるかーーわからない」
サンチョは酒場を見回した。
「心強いとは、オラのような男なんだーー」と彼は夢を見るように呟いた。
「たしかに!」とアロンソは立ったまま、うなづいた。
「吾輩を恐れずに、話しかけたのは、お前だけだーー!」
さあ、これに気を良くしたサンチョは、注文した羊肉や酒を譲った。
この騎士さまは、何か自分を特別にしてくれる立場にあると思ったからだ。
アロンソは席につき、用意された食事を手づかみで食べて、飲んだ。
肉を力強く噛み、汁を滴らせた。
テーブルに乗った皿の上に落ちていく。ピチャリピチャリと音がした。
ハフハフッとアロンソの口から吐息が漏れた。サンチョは考えた。
この人はホンモノだ。
ものすごい旅の中で、自分を見つけにきた、と。
この時間は、二人にとって落ち着いたものだった。
「サンチョ、ありがとう。ーー良い時間だーーありがとうーー」
アロンソは食べ終わると、そう言った。
「騎士の旦那。ドンキホーテさま。よろしければ、もしも、ーーもしも、従者になれば、オラは何を得られるんですか?現実な話です。連れまわされるだけ、連れまわされて、用がすんだら、その場でポイなんて、そんなーーそんなのあんまりですからーー」
彼は探るようにして、アロンソを見つめた。
「サンチョ。お前は何を求めてる?
それさえ分かれば、
きっと、お前はーーその何かを得られる。どんな形であれねーー」
「オラが求めているーー何か?」
サンチョは顔を下に向けた。
今の人生を思い返していた。
彼の家族は、彼の全てだ。
だけど彼はーー彼自身は、どこか特別と認められたかった。
「オラは、領主さまになりたい。特別な、慈悲深い領主にーー何もしてくれないここのヤツらよりーー」
サンチョは目をつぶった。
この狭い世界は彼にとっても残酷だったのかもしれない。
アロンソは、うなづいた。
「サンチョ。お前は吾輩の従者だーー」
アロンソはサンチョの逞しい肩に手を置いた。土と汗の匂いがした。
(こうして、第六幕は慈悲深い領主で幕を閉じる。)




