第五幕:旅の道連れ欲しがるジジイ
やあ、君。もし君が一度出た故郷に舞い戻るとしたら、いつぐらいがいいと思う? 1年、2年、それとも10年だろうか?
早ければ、何も変わらない。
遅ければ、君は神さまのところだと思われるんだーー。
第四幕では、平原で馬と過ごすのに耐えられなくなったアロンソを見た。
彼は騎士の前に、ーー聞き分けのないジジイだった。
あまりにも早い村への帰還だった。
これは敗北かーーと彼は考えたが、すぐに思い直した。
もともと従者が必要だった。
あの平原には従者はいないから、
ーー仕方なかった。
村に戻ったら、昼になった。
家々は泥壁と藁葺きの小屋が並んでた。村で唯一の酒場は開かれて、労働のささやかな癒しとなっていた。
「人が多くいる所で、従者を求めようーー」
彼はお腹が空いてたまらないが、唾を飲んでガマンした。
「ここは、なんと素晴らしい場所だ。
極上の羊の肉があぶられ、しかも気持ちよく酔わせてくれる酒もあるーー」
酒場の中に入ると彼は叫んだ。
「各地を放浪してきた吾輩も、ここより素晴らしい場所は知らない」
ーー知らないのは当たり前だった。
ここに来たのは初めてだからだ。
「ははは!面白い騎士の旦那だな!
オラとは違ってホッソリしてらぁ」と酒場のカウンターに腰掛けていた太った男が話しかけた。
彼は目の前の男が、貴族のアロンソとは知らなかった。
鎧は彼にとって珍しいものだった。
これが普通と思った。
彼は小柄で太った中年男性で、短髪とヒゲは灰色だった。
人懐っこそうな目で、アロンソを見た。
「さぞ、名のある騎士さまなんだ」
アロンソは微笑んだ。
「吾輩の名は知る者が聞けば、誰もが敬意を払う、それほどまでに高貴であるーー輝ける武功か、従者に与える慈悲ゆえにーー」
そして、アロンソは男を眺めた。
「まずは、お前の名から聞かせてもらう、平民よ。お前は何者だ?」
男はキョトンとして、アロンソを見た。
「オラの名は、サンチョ・パンサだ。
妻や子らには頼られて、
友には気のいい男と言われてる」
これを聞いて、再びアロンソは笑った。
「サンチョ!いい!
えらぶった名前じゃない。
よし、吾輩の名を告げよう。」
彼はもったいぶって、かたてをあげたあ。
「吾輩は、遍歴の騎士ーードン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。
訳あって、旅をしているーー」
この言葉が、サンチョの胸をとらえたーー。
この出会いは、永遠だ。
もし、また誰かがファウストを受け継ぐ者を語るのなら、
その始まりは、いつだってーー
未知との出会いでなければならない。
(こうして、第五幕は遍歴の騎士で幕を閉じる。)




