第三幕:おいぼれ追放
やあ、君。時は残酷に進む。布団の中にいても、ベンチに座っても、本を読んでいる間も止まる事なく進んでいく。厄介だよ、非常にねーー。
第二幕では、ボクらのアロンソは二人の女たちに武具を用意するように命令した。そして姪のアントニアがやってきたーー。
アロンソは、彼女に気づいた。
部屋の外で不安げに見つめてくる姪に、優しく、しかし大胆に声かけた。
「おお、麗しの淑女アントニア・キハーノ。君が来てくれたか?さあ、武具をここに。我らが祖先が残せし、伝えられし武具をここにーー」
アントニアは悩んだ。
そんなモノ、ほとんど売り払ったから。アロンソも納得してたじゃないか。肉の殆ど入ってないスープをすすって、腹の足しにした。美味しいの一言もなかったーー。彼女の頬はピクッと引きつる。
「かしこき叔父様。武具は壊れて使い物にならなくなって、今、残っているモノは、叔父様が想像しているモノとは違うかもーー」
「かまわん、武具ならーーどんなカタチでも!戦いが、吾輩を必要としてるーー遅れて恥をかくのはーー非常にマズイ」
「戦い?どこへーー?」
姪のアントニアは、更に不安になった。他の領地に突っ込んで、掠奪を試みたりなんかされたら困るから。
成功しても、しなくてもーー。
ここに残された彼女の居場所を、マヌケな叔父のせいで奪われるわけにはいかなかった。
彼女の頭によぎったのは、家政婦と共に叔父の可哀想な人生に終止符を打ってやることだった。
これは、冷酷よりも慈悲深いことに思えた。彼女は、そっと自分の木箱の中におさめた。まだ、叔父が元気だからだ。
彼女は物置小屋にあるガラクタを引っ張ってきた。売れるモノはもうない。
鎧も完璧にそろっているわけじゃない。槍も、剣も、盾もサビだらけだ。戦はーーないんだ。
「最悪!」と姪のアントニアは吐き捨てた。こんなバカな格好をさせて、外に出す? ありえなかった。人さまになんて言えばいい?あいつは頭がおかしいし、言う事は聞かないなんて、世間に言えない。
家政婦が様子を見に来た。
好奇心だ。彼女は誰よりも早く食べ、面倒ごとは押し付け、面白いことには顔を突っ込む。
ーー迷惑なヤツだ。
「叔父様が、旅にでるの。でも、こんな格好させて、外に放り出す?
それって、どうかと思うのーー」
「かまいやしないわ、あのクソジジイ。盗賊にでもやられたらいいんだわ」と家政婦は吐き捨てた。
「いてもいなくても、迷惑をかけるのなら、いない方がせいせいするわ」
この一言で、彼女らはアロンソを外に出すことにした。
しばらくして、アロンソは彼女たちの用意した武具を、確認しだした。
足や腕のサイズも左右で違ってた。
周りで女たちは唾を飲む。
「サビを落とせば、なんとかーーいやいや、これは特徴なのだ。伝えられた武具は、今もなお戦いを求めていたーー吟遊詩人がいたら、そう歌うーー詩人がいたらいいんだがーー」
彼は虚空に向かって、天井に向かって、歌を求めた。だけど彼には歌が届かない。歌うだけムダだ。
だけど、ボクは彼に詩を贈ることにした。
老いたる貴族よ、聴くがいい
暗い部屋での汝の悪夢
終わりを告げる鐘の音を
天使は鳴らす鐘の音に
汝が旅の祝福を
夢の中は変わらぬが
風が汝を優しく撫でよう
土が汝を受けとめよう
その先にーー何もなくともーー
歌は彼には届かないーー。
だけど、彼はボクらを見た。
ちょっと会釈をしてみせたんだ。
(こうして、第三幕は旅立ちの詩で幕を閉じる。)




