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ファウスト〜騎士道卿の幻視〜ドンキホーテ再生譚  作者: ヨハン•G•ファウスト


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第二幕:武具を持ってこい

やあ、君。何かをやらなきゃと思っちゃいるのに、その何かがーー突拍子のないものだとしたら、君はそれでもやるかい?

例えば、今から騎士となり正義の為に戦うとかーーね。


第一幕では、ボクらのアロンソを支えてた常識が、ポキって壊れて、彼が天に向かって叫び出した様子を見た。


「私のための戦いを、見つけに行こう思いますーー」

ボロボロの安楽椅子から立ち上がって、彼は目を見開いた。

灰色のボサボサのヒゲは、飛び跳ねる小型犬のように動き、彼は何度も同じことを言った。棒のような腕を何度も高く上げ、子どもみたいにふりまわした。

「そうですとも、私、いやーー吾輩のための戦いだ!高潔なる旅となる。この吾輩も、先達らの仲間入りになるのだぁ!」

彼の興奮は止まらなかった。


ここは荒屋だった。


質素な部屋の中だ。よく軋む木板の床上に安楽椅子と寝台を乗せてた。

痩せたアロンソをずっと支えてきた家具たちは、彼が旅に出ると叫ぶたび震えた。ーーなんどもね。

木枠の窓から見えるのは、少しばかりの畑だ。

収穫物は取り尽くされていた。

荒屋には部屋が少ない。

寝室と呼べるのは二つ。物置部屋が一つ、その他にはーー大した事じゃないから説明は省くよ。

ここに住むのは、アロンソと姪と家政婦だ。彼女らはアロンソの生活が前よりもマシだった時からいた者たちだ。

姪の名はアントニア。彼女の両親は既になく、どこにも帰れないからここにいた。もう二十くらいだから、完全に嫁に行き遅れた。でも、わからない。誰も教えてくれないからだ。

家政婦は、ただの家政婦だ。

村の外で、よくサボる。

だってやる事が、物乞いのように食べ物を集めなきゃいけない。

一人いたら、事足りるから姪のアントニアをよくこき使った。

食べ物を集めまわるし、口も上手いから、この家に住む者と比べると太ってた。畑のわずかな収穫物も、彼女は味見した。

この二人は、今、ものすごく不機嫌になっていた。アロンソが叫んだからだ。

「アントニア。見てきなさい」と家政婦は吐き捨てた。

「ダンナさんが、また朗読相手を求めてるわ。あたしゃ、カンベン。

騎士なんて人殺しども、カンベンよ」

彼女は木椅子にお尻をのせて、唸ってた。

「叔父さまーー今日のお仕事、かなり長いわ。あの悪魔の本のせいよ。

忌々しい。焼き捨ててやりたいわ」とアントニアは言った。

村に本を楽しめるものがいたら、

売って生活の足しにしたかった。

でも村は貧しくて、

本は薪がわりに焼くしか用途がない。

役に立たない騎士物語なら尚更だった。ーー誰もーー誰も読まないんだ。

アロンソ以外は。


ボクらはアロンソのいる部屋に戻った。彼はまだ叫んでた。

「武具を!さあ、持ってこい!」

彼の叫びはうなりになった。

「麗しの淑女よ、武具を備えよ!!」

彼の頭の中では、彼の姪は口うるさい女ではなく、慎み深い思慮をもち、話しかけてくれる淑女になっていた。ただ可哀想に、家政婦は怠け者の女とされた。名前さえ彼もボクらも知らない。


もう少しアロンソが若かったら、彼は感情のまま、家の中にいる二人の女の下へ走ったかもしれない。

誰がなんと言おうとも、二人の怠慢を許さなかっただろうーー。

鞭でわからせたかもしれない。


でも、その必要はなくなった。

彼の扉のない部屋を、姪のアントニアが覗き込んだから。


それを見て、アロンソはニンマリと笑った。それは骸骨に人の皮を被せたような不気味な笑いだった。


死がアロンソの皮膚の下で、笑っていた。アントニアは怖くて震えたーー。


(こうして、第二幕は死の笑いで幕を閉じる。)

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