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氷姫の契約婚 虐げられた令嬢は炎の腕に抱かれる  作者: ななみ沙和


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氷姫2

「しっかりして……!」

「みっともないわねぇ」

 

 高らかな笑い声に岸を見る。

 そこには銀子がいた。銀子の周囲には下男たちがいる。みな手に棍を握っており、煌貴や白燕に殴りかかる者もいた。


「なっ……」

「あなたたちが悪いのよ。玄安の地を訪れて、よけいな調査をしようとして……。譲歩して氷姫の結婚まで提案してあげたのに、よりによって澪を選ぶなんて」

「ようやく化けの皮を脱ぐ気になったんだな、奥方も!」


 煌貴は楽しそうに言って下男を蹴り飛ばした。


「もしかして、香を焚いているのか? 妖魔を集める」


 銀子が眉をひそめた。


「なぜ気づいたの?」


 煌貴は自分が香を使っていることをはぐらかすためか、質問で返した。


「なぜ香を焚く必要がある?」

「わたくしのためにですわ」


 階段を涼が下りてくる。しとやかに歩を進め、悪びれない顔をして銀子の隣に並ぶ。

 涼が手を持ち上げた。その手から氷雪の網が放たれる。

 網は藕糸ぐうしのように細い。金烏を捕まえたものの、すでに網は破りかけられている。それを涼は慎重に手元に引き寄せた。

 銀子が手にした鍼を金烏に突き刺す。金烏はさらさらと消え、銀子は鍼を涼の手の甲に突き刺した。


「……こんなふうにしないと力が補えないのです。しかも、ひっきりなしにやらないと」

 涼が銀子を睨む。銀子はひるんだ顔をした。


「でも、涼。だからこそ、あなたが氷姫になれたのよ」

「そうね。わたくしは氷姫。わたくしみたいに、美しくて艶やかな娘こそ氷姫にふさわしい」


 涼は口の端を上にあげた。可憐なかんばせに悪辣な笑みが浮かんでいる。  


「お姉さまも朱夏の当主も、ここでお別れは悲しいわ」

「……それがおまえの本性か?」


 煌貴が妖魔の首を叩き斬ってから涼をにらむ。


「本性だなんて、嫌な言い方をなさいますのね」

「俺たちをまとめて始末しようなどと、思いあがったことを考えているみたいだな」

「考えているのではなく、やっている最中ですのよ」


 涼は冷淡だ。とても結婚を持ちかけた相手にするとは思えない冷ややかな表情で言う。


「あなたがここに来なければ、お姉さまも今までどおりでいられたのに」


 涼は下男たちを見渡す。


「あの男を早く黙らせて。永遠にね」


 正気とは思えない命令に、澪は険しいまなざしを涼に向けた。


「涼、やめて!」

「お姉さまも愚かな方。その男に求婚されて、嬉々として結婚なさるなんて。よほど人肌が恋しかったのね」


 澪は絶句した。あからさまに軽蔑の目を向けられ、ようやく怒りを吐きだす。


「あなたのほうが愚かよ。そんなに氷姫になりたかったの?」


 涼が眉を跳ねあげた。


「……玄安の家に氷姫はふたりも要らないの。お姉さまも永遠に黙るべきね」


 まるでその言葉が合図であるかのように金烏が飛びかかかってきた。澪は桐人を抱えて岸へ辿りつこうとするが、金烏は顔の周りに飛びかかってきては邪魔をする。

 澪は手を振り回して金烏を追い払う。金烏はしつこく、澪の身体のあちこちを引っかいてくるから、傷があちらこちらにできた。

 煌貴は澪の苦境を見逃さず、妖魔を斬り捨て、下男たちを打ち倒しながら澪のほうに向かってくる。

――煌貴さまのお手をわずらわせたくない。

 澪はなんとか岸に到着し、桐人を横たわらせる。

 桐人は意識が朦朧としているようで、とても目を離せない。

 それなのに、澪は桐人だけに集中できなかった。金烏が襲ってくるからだ。

 澪は桐人の前に立ち、腕を振り回して妖魔を払おうとした。

 しかし、金烏にくちばしでつつかれ、水辺へと追いやられていく。

 丸い石を踏んづけたとたん、澪は水の中にころんだ。鼻から喉から水が浸入してくる。

 息をできない苦しさに、澪はあわてて水から立ち上がろうとした。

 しかし、金烏は澪の眼球を狙ってつつこうとしてくる。水から顔を出すこともできず、息苦しさに混乱した。

――誰か。

 澪はあの冬至の日を思い出していた。

 誰も助けてくれなかったあの日のことを。

 息が苦しい。みっともなくて、情けなくて――そんな澪を、力強く引き上げる腕があった。


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