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花占いなんていらない。私はこの人を、私の意志で選ぶ

 王宮の謁見の間。

 高官たちがずらりと並び、空気が張り詰めていた。


「第一王子殿下とティナ・ベルラルド氏を結んだ、今年の花占いの記録が――存在しない。

 その証拠が、祭事帳の改竄によって明らかになりました」


 声を上げたのは若き神官見習い。

 彼は脅しに屈することなく、証拠の転写記録を隠し持っていた。


 ざわめきが広がる中、ティナは静かに立っていた。


 この場に呼ばれた理由を、彼女は理解していた。

 「不正な結果だったかもしれないあなたに、王族との結びつきはふさわしくない」

 そういう空気を、誰もが醸していた。


「ティナ・ベルラルド」


 呼ばれた名前に、一歩前に出る。


「あなたは、自らの魔法によって注目を集め、多くの者に希望をもたらした。

 だが、それが“運命の結果ではなかった”としたら……

 王族に隣り立つ資格は、どこにあると思いますか?」


 静まり返る空間。


 誰もが「間違いでした」と彼女が言うのを待っていた。

 だが、ティナは言った。


「“運命”でなかったことに、ほっとしています」


 ざわ……と空気が揺れた。


「私は、王子を花占いで選んだわけではありません。

 花冠を咲かせたとき、この人が“私の魔法”を“私自身”として受け止めてくれたから……それが嬉しかった」


「……ティナ……」


 王子が息を呑む。


「私は花占いの結果なんて信じていない。

 でも、あなたが選んでくれた“理由”なら、信じられる。

 だから、運命ではなく、自分で“選びたかった”んです」


 ティナは王子の方を向く。

 彼はもう、形式も周囲も気にしていない顔をしていた。


「なら、僕も、選ばせてくれ」


 彼は壇上に上がり、堂々と彼女の前に立つ。


「君が花を咲かせるように。

 僕は、自分の意志で恋を咲かせる。

 だから、この花冠を――運命じゃなく、努力と信頼と好意の積み重ねとして――君に渡したい」


 ティナはその花冠を見つめ、長く深呼吸して――


「……はい、私も、それを受け取ります」


 会場は一瞬の静寂の後、ざわめきと、そして――拍手に包まれた。

 形式ではなく、記録でもなく、誤作動でもなく。

 ひとりとひとりが選び合った瞬間に、花は咲いた。



 後に、王子とティナの結婚は「花占いの奇跡」と称された。

 だが当人たちは、それを訂正し続けた。


「奇跡ではありません。これは、選択です」

「恋は、咲かせようと思えば、咲かせられるんです」


 それはティナが、生涯をかけて証明した、**ひとつの“植物魔法の応用例”**であり、

 ひとつの“愛の在り方”だった。

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