表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

植物魔法なんて地味すぎて、王子の役に立つわけがない

翌日、王宮の裏庭では、春の祭りに向けた花壇の準備が進んでいた。


「うっ……くしゅっ!」


 第一王子レオニスは、くしゃみに顔をしかめながら、立ち尽くしていた。

 豪華な花々が咲き誇る庭園。だが、それは彼にとっては悪夢のような空間だ。


(花粉が……花粉が……全部俺を狙ってる……!)


 レオニスには軽度の花粉過敏症がある。

 王家の体面上、表立っては言えないが、彼は花が苦手だ。

 香りの強い花に囲まれると、目はかゆくなり、くしゃみが止まらず、ひどいときには発熱する。


「殿下、大丈夫ですか!? あの、せっかくですし花冠の儀式のリハーサルだけでも――」


「……無理だ、距離を取らせてもらう」


 侍女の申し出を断り、レオニスは花壇から距離をとる。

 そこへ、妙に気配を消して歩いてくる女が一人。


「……観察完了。やはりこの土壌では、リラの根が不安定」


 ティナ・ベルラルドだった。


 作業着のまま、王宮の花壇に平然と入り込み、植物の根元をしゃがんで見ている。

 誰も彼女を止めなかったのは、「第一王子の花冠の相手」という肩書と、「なんか逆らっちゃいけなそうな雰囲気」のせいだろう。


 レオニスが咳込むのを見て、ティナは言った。


「殿下、花粉ですね」


「……わかるのか?」


「この時期の花の種類と開花周期、それに風向きと湿度から、花粉の濃度は推定できます。あと、くしゃみのリズムが一定ですから、典型的な軽度アレルギー反応ですね」


「…………(この人、なんでそんなに即答なんだ)」


「私の魔法で、数分だけなら花粉を抑えられますよ。試します?」


「君の……魔法って?」


「植物生育調整。対象の成長速度を±で調整できます。細胞活動を弱めると、開花も止まります。副作用は、ほぼなし」


 言い終わると同時に、ティナは王子の周囲にある花に手をかざした。

 呪文は短く、目立った光もない。だが――


「……空気が、楽になった?」


 花が微かにしぼみ、香りが薄くなる。花粉の飛散が収まり、レオニスは呼吸を深くできるようになった。


「一時的な処置ですが、これで“花冠の儀式”も可能です」


「……これ、ずっとできるのか?」


「はい、祭り当日に照準合わせれば。

 むしろ、何百本の花を一夜で開花させる方が得意です」


 王子は驚いた。

 これまでどの宮廷魔法師にも無理だった“花粉対策”を、彼女はなんでもない顔でやってのけた。


「君の魔法、もっと注目されるべきじゃないか?」


「地味ですからね。あと、“花は勝手に咲くもの”だと思ってる人が多いんです。

 でも……花は、咲かせようと思えば、咲かせられます」


 ティナの目が静かに光っていた。

 恋には興味がないと言っていた彼女が、“咲く”という言葉にだけ、少しだけ力を込める。


 その姿に、レオニスはまた、不可解な感情を覚えた。


(もしかして……花占いが選んだのは、運命じゃなくて“選択肢”なのかもしれない)


 そしてそのとき、王宮の片隅では――

 花占いの魔法装置を管理していた神官が、帳簿を見て青ざめていた。


「……こ、これは……! 占いの記録が……ない……?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ