鏡の兄貴は兄貴の鏡
鏡の兄貴です。
白銀鏡は兄がいる。
兄は怖い人だ。それは家族みんなが言っていた。
その理由は、この男ありえないぐらい短気ですぐ怒るのだ。
気に食わない事があるとぶつけずにはいられない。
遠慮0。怒りという感情の抜刀速度がSSランクの人間。
かと言っていわゆる不良と呼ばれる人間では決してない。
兄の行動にはいつも、正義だとか筋だとか真っ直ぐな何かがあった。
兄はうちの頑固親父とよく喧嘩をしていた。
いつも食事を終えたテーブルが戦場になっていた。
また始まったかと、俺と弟は足早に部屋に戻る。
扉向こうまで聞こえる、まるで空襲警報だ。
いつも近場で過ごしていた母は本当に大変だと思う。
いつも喧嘩する兄と親父だったけど仲が悪くなる事はなかった。
嵐の後には必ず静かさが戻っていた。
しかし、一度だけ静かさが戻らなかった日があった。
ある日、
いつも夜遊び歩いていた俺に、親父が痺れを切らしこっぴどく説教を始める。
あの時の俺はバカで、
何を言われても一言も声を発さなかった。
結構な人が通るであろう悩み、
自分の事は誰にも理解されない。
それなら何を言っても無駄だ。
だからひたすら黙秘する。
と、世界にまるで自分一人しかいないような孤独の錯覚。
ただの勘違いなんだけどね。
遊び歩く俺の事がわからなくなり親父はよからぬ事をしているのではないかと、とうとう有る事無い事を俺に言う。
——その言葉に、近くにいた兄が鬼と化す。
それは弟にあらぬ疑いをかけられたのを見ての事。
今までにない大戦争。
かつて見た迫力あるケンカの数々がまるでマススパーリング。
まさに限界突破。
いつもの怒りにはまだ余力があったのかと俺は驚愕した。
ガチスパーリングを終えた後、兄はついに家を出て行った。
家を飛び出す兄なんて初めて見た。
どうしても怒りが収まらなかったんだろうな。
兄が家を出て行く際に吐いた言葉は
「俺の方が鏡をわかっている」
傷つく弟の為に限界突破を遂げた兄。
兄貴の鏡です。
今はもう仲良いですよ〜