9 築山
「で、どうするつもりだ?」
ヘッドギアを外した築山に鯨田が聞いた。
「いい人として育った電子脳を、霧崎の元の体に移植することはできない。物理的にだ。なぜなら、生体脳と電子脳の接続を切った直後に、生体脳もろとも霧崎の体は死亡した。復活したのは命の火が燃え尽きる前の最後の炎だったのかもな」
「……生体脳がなくなっても、このまま水槽の中で電子脳を生かし続けることはできるんですか?」
「可能だ。リセットしたり、条件を変えたりして、シュミレーションを続けることもできる。生体脳と違って電子脳には寿命が無いから、半永久的な研究が理論上は可能だ」
築山は計器を見下ろした。モニターには電子脳のリョウが見ている景色が映し出されている。リョウは一生夢の中から出られない絶望を嘆き、およそ廃人のようになって泣き崩れていた。
「もう、やめましょう。夢を見させるのは」
築山は嗚咽が出るのを我慢しながら、床に伸びているケーブルの一つを手に取って、渾身の力で引きちぎった。太いケーブルはなかなか切れず、少しずつモニターの映像にはノイズが走り、最後には砂嵐となった。
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