7 研究室
「間に合いましたかね」
築山は不安げに計器を見下ろした。
「わからない。完全に油断していた。ノイズが入りすぎていないといいんだが。まさか生体脳の方が復活するとは思わなかったんだ」
鯨田は頭を抱えた。二人の目の前には液体で満たされたガラスケースがあり、その中には水色っぽい色をした人工的な電子脳が浮いていた。一億もの目に見えないほど細い電極が透明な束になって脳に電気刺激を送り続けている。その電極は束になって一本のケーブルとなり、ケースから出て、巨大な機械につながり、その機械から伸びるケーブルは、生命維持装置につながれた霧崎に装着されたヘッドギアにつながっていた。機械からヘッドギアにつながるケーブルは今は機能停止され、断線状態になっていた。
「霧崎の生体脳がいつまで生きていられるか微妙な状況だったから、過去の記憶のダウンロードと、イフの世界のシュミレーションを同時にしたのが良くなかった。生体脳は今や電気刺激が無くても自分の力で電気刺激を作り出して、自力で物を考えることができる活発な状態だ。とてもスキャンやコピーが正常にできる状態ではない。彼自身の脳がコピーを拒否する可能性もある。また、コピーされたことやシュミレートされたことを自覚し、電子脳と接触を図ったかもしれない。子供時代を見た感じ、幼い子供特融の無邪気な残酷さは少し見受けられるものの、おおむね健全に育っていたと思えた電子脳が、残虐性に目覚めた後の生体脳と接触を持ってしまったとしたら大変なことになる」
「どうしたらいいでしょうか。この状況で最後のテストを実行しますか?」
「そうするより仕方ないだろう」
鯨田は研究室の狭いスペースを歩き回り、顎をしきりに撫でながらぶつぶつと独り言を言った。
「鯨田さん、機械のケーブルに気を付けてくださいよ。その太いのが切れれば苦労して作り上げた電子脳が一瞬でパァです」
「ああ、すまない。考え事をするとついね」
「当初の計画通り最終テストは、たまたま凶器が手元にある状況で、あの川沿いの場所に立ち、無防備な老人が民家の窓から見えるというシチュエーションでいいですよね」
「ああ、そうしよう」