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空き巣に入り易い家

 空き巣に入り易い家を見つけた。普段は誰もいないのはもちろん、仮に“盗み”がバレたとしても通報される心配がない。何故なら、その家は投資詐欺グループの根城だからだ。警察に通報したりすれば、自分達がまずい立場に追い込まれる事になる。

 その家を見つけられたのは幸運だった。俺はある爺の家に空き巣に入ったのだが、ほぼ何もない家で、良さげだったのは指輪くらいだった。デザインが気に入ったので有難く嵌めさせてもらったが安物だ。大した成果ではない。が、俺はその時に有用な情報も手に入れられたのだった。

 不用心にも爺はパソコンの前にパスワードを貼っていたので、好奇心から試しにログインしてメーラーを開いてみたら、爺が投資詐欺グループに騙されているだろうやり取りを見つけたのだ。

 その爺はどうも既にその詐欺グループにやられてすっからかんになっていたようだ。だから家に金目の物がほとんどなかったのだ。普段は金がかかるから利用しないのだが、俺はその情報をクラッキングのプロに渡して、その投資グループについて色々と調べてもらった。もちろん、連中が騙し取った金をかすめ取るつもりで。

 連中は相当に悪どい事をやっているらしく、俺が空き巣に入った爺はどうやら悲観のあまり自殺してしまっているらしい。クラッカーに調べてもらったデータの中には、被害者達の恨みの声も含まれていた。

 『絶対に、呪ってやる。電子の海を彷徨って、絶対にお前らを見つけ出してやる』

 そのような生々しいメッセージまであった。

 つまり、金を盗まれて当然のクズどもである訳だ。俺が連中の金を盗んでやるのはむしろ天誅だろう。

 その奴らの根城の一つは意外に近くにあって、しかもそれほど頻繁に利用している訳ではないようだった。

 『ここにいると、なんか色々とおかしいんだよ。あまりいたくない』

 『変な物音が聞こえて来たりよ』

 『寝ていたら、首を絞められたよ』

 クラッキングで調べて盗んでもらったデータの中には、連中のそんなやり取りが残っていた。

 ――つまり、連中は“お化け”を怖がってあまり利用しないでいるらしい。馬鹿馬鹿しい。

 狙い目だ。

 それで俺はそう判断した。

 一応、近所で聞き込みをしてみると、その家はお化け屋敷として有名のようだった。恐らく連中はそれを信じてしまっているのだろう。それでちょっとの事が怪現象に思える。

 

 お化け屋敷と噂されているだけあって、その家の周りには人気が少なかった。俺は庭から回り込んでガラス窓をたたき割ると、そこから家の中に侵入した。

 金目の物があればもちろん盗むが、ノートパソコンか何かが本命だった。連中の取引情報が入っているだろうから、金に換える手段はいくらでもあるだろう。

 滅多に使わない家だからか、殺風景な部屋ばかりだった。ただ、リビングに入ると、パソコンが置いてあるのを見つけた。残念ながらデスクトップだった。運び出すのは大変そうだ。一応起動させてみたが、やはりパスワードが必要だった。これでは何もできない。

 俺は諦めきれずにその部屋を物色し始めた。何か、きっと何かあるはずなんだ。

 どうせ連中は警察に通報はできない。俺は引き出しを引きずり出したり、戸の中身を全部出したりして探した。が何も見つからなかった。

 「ちくしょう!」

 思わずそう漏らしてしまった。

 クラッキングを依頼したのに金がかかっている。このまま何も得られなかったら大赤字だ。

 が、そこで異変が起きた。何故か、ドアが急に閉まったのだ。誰か帰って来たのかと思って身構えたが誰もいない。

 “なんだ?”

 首を傾げる。

 声が聞こえた。

 

 『何故、その指輪を持っておるのだ?』

 

 俺は驚いて、辺りを見回してみた。誰もいない。おかしい。

 俺は首を傾げた。

 気の所為にしては、声は妙にはっきりと聞こえた。

 が、そこで気が付いた。

 さっき起動させたパソコンの画面が、何故か光っているのだ。

 

 『その指輪は、私が加奈子に贈ったものだ』

 

 俺はそこで自分が爺の家に空き巣に入った時に盗んだ指輪を嵌めている事を思い出した。

 パソコン画面。

 電子で描かれたイラストで、爺の顔が浮かび上がっている。その爺の顔が言った。

 

 『お前が犯人か!』

 

 俺は顔を青くした。

 そして悟った。

 こいつはあの家の爺だ。自殺したという。犯人に復讐する為に、電子の海を彷徨っていたんだ。

 「違う! 俺じゃない!」

 俺はそう叫んだが、憤怒の表情の爺の顔は止まらなかった。俺に向かって迫って来る。そして、大きく大きく俺の視界を埋め尽くしていった。

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