犬の散歩と聞いて来たのに、どう見ても魔獣なんですけど
【犬の散歩、日給十万円】
ネットで見つけた明らかに怪しいバイト、だが大金が手に入るのなら、透には他のことなどどうでもよかった。
「ごめんくださーい、アルバイトの電話をした者です!」
高校一年生の照島透は、父親が作った多額の借金により家計は火の車だった。何とか高校に進学できたが、早く返済しなければ将来すら危ういため、怪しげな高額バイトに応募した。
雇い主の家まで来てみるとそこは異国情緒漂う立派な洋館。
たかが犬の散歩に大金を出すのも納得だ。
「ごきげんよう、お待ちしておりましたわ!」
「よろし……あ、やっぱり!」
雇い主との対面し、透は腑に落ちた。
彼女は早乙女育美。透が通う高校の同級生にして理事長の孫娘、北欧貴族の血を引くお嬢様だとか。珍しい苗字だし、もしや……と、思っていた。
「さっ……早乙女さん。俺の名前、覚えてたんすね」
「もちろん、理事長の孫として生徒のことは把握していますもの。ですが、話すのははじめてでしたわね」
雑談しつつ、郁美に館の奥へと誘導される透。
「うぁおおぉぉぉん!」
「なんだ今の!?」
中庭の方から、大きな叫びが聞こえる。これは、動物の雄叫び?
「紹介しますわ。我が家の愛犬・プチです」
「……………………」
プチの姿を見て透はたじろいだ。全長二メートル、銀色に輝く毛並み、額には角が一本、犬というより狼に近い外見だが、瞳はつぶらだ。
「えっと……早乙女さん。この子、犬種は?」
「フェンリルです」
「フェンリルって、神話の――?」
「ええ、プチは神話の狼、フェンリルの血統を継いだ犬ですわ」
ゲームで聞いたことがある。【フェンリル】北欧神話に登場する神を食らったとされる狼だ。
それ以降、透は放課後に一時間、プチの散歩をするようになった。しかし、これが予想をはるかに上回る重労働。
相手ははしゃぎ回る好奇心旺盛なデカい犬だ。リードを握れば逆に引きずり回される。近所の住人に粗相をしないようにするので必死。
数キロのフンを回収するのも透。重いわ臭いわ汚いわ、肉体的にも精神的にもハードだ。
しかし、それでも透が投げやりにならずに仕事を全うするのは、家庭を守るという使命感ゆえだった。
「人生かかってんだ、負けてたまるか……!」
こうして、崖っぷち男子高校生とセレブJK、そして伝説の獣によるドタバタな日々が始まる。
文化放送の「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」の
「タイトルは面白そう」のコーナーで読まれたネタを
リメイクした作品です
第6回「小説家になろうラジオ大賞」に向けた作品の一つ
今年はあまり書けなかったのでなろラジ大賞へは
2作のみとなりました
作品についての話は活動報告にて!!