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《 第三章 》綺麗ごと、隠しごと、本当のこと(1)

 「親友に隠しごとをされるの、嫌じゃない?」と尋ねた時に、「そんなことないよ」と言った美樹もきっとわたしに隠しごとをしている。それは好きな人のことだと思う。いつだか理想の恋愛について、こんなの素敵あんなの素敵と話していた時、美樹は自分から話を振ったのに、ほんの少し悲しそうな顔をしたのを覚えている。きっと美樹は気付かれていたとは知らないだろうし、無意識だったのかもしれない。手の届かない相手なのかもしれない。辛い恋なのかもしれない。そんな風に考えてしまった。だから、わたしは美樹の好きな人に関して尋ねられない。

 そんな美樹は最近ご機嫌だ。時也の話をしても、あまり嫌がらない。面白そうに聴いている時もある。

 辛い恋が、実ったのかもしれないと、全て憶測でしかないのにわたしは思っている。美樹のような素敵な女の子の恋人になるような人ってどんな人だろう。詮索をするつもりは全くないけれども、想像はしたくなる。前に、理想のタイプに紳士的な人と挙げていたことがあったなと思い出す。淑やかな美樹らしいと思う。ガキくさいと時也をひどく嫌うくらいだ。

 時也は美樹に嫌われていることを知っているらしい。そうして、時也も美樹のことがあまり好きじゃないらしい。時也曰く、水と油だそうだ。一方的に嫌われてる感は否めないけどなんて、時也は大きく笑った。相変わらずあっけらかんとすている時也に、いつもわたしはほっとする。

 美樹にわたしは尋ねてみた、「どうしてそんなに時也が嫌いなの?」と。そうしたら美樹は、こう言った。

「平凡でいつもへらへらして能天気で悩みなさそうで鼻に付くのよ」

 わたしはどうにか表情が凍るのを回避した。無性に美樹が冷たく感じたし、わたしの彼氏を美樹がそこまで蔑んでいたとは思わなかった。確かに、付き合い始めた頃、「さっさと別れたほうがいいよ」と何度か言われた覚えはある。言われたというより、言い聞かされたに近いから、その時はなにか理由があるのだろうと思った。けれども何度聞いても美樹は教えてくれなくて「別れた方がいい」の一点張りだから、わたしが正兄以外を好きなることを認められないというそれが理由だということに決めつけた。憧れの正兄を好きになることなんてあるわけないのに。だってわたしは正兄のようになりたくて、恋愛で言うならば、正兄みたいに素敵な恋愛がしたい。話に聞く正兄の恋愛話はどんな人と付き合っている時もとても素敵に感じる。互いを認め合い受け入れ合い、理想的な恋愛のように感じる。そんな正兄の恋愛が壊れる度に不思議だ。どうして別れてしまうのだろう。



 週に一回、わたしと時也は図書室で勉強会をする。いつも時也は説明がわかりやすいと褒めてくれるから、教えるわたしは気持ちがいい。図書室は校舎の外れにある。訪れる人も少なく、小さな声でなら怒られることもない。

 途中、使おうとした教科書をうっかりと教室に忘れてきていたわたしは、慌てて取りに出かけた。

 図書室から教室が並ぶところまではとても静かだ。そもそも放課後だから余計に静かだ。途中、各教科の準備室が並んでいるけれど、その並びもとても静か。

 静かだから、人の話し声がよく響く。美樹の声と正兄の声がした。他人と間違えることなど絶対にない、二人の声だ。

「やっぱりわたし、双葉とあいつは似合ってないと思うの」

 美樹は正兄にまでその話をしているのかと驚いた。辟易しそうになる。怒りは覚える必要はない。あくまで美樹からはそう見えるというだけだ。

「そうかな? 俺は時也くんと双葉はとてもいい感じだと思うけど」

 気になって、ふたりが話している準備室にそっと寄った。ドアが少しだけ空いたままで、ふたりの様子まで伺えてしまった。

 美樹の好きな人はわたしには秘密だった。

 聞かない方が美樹の為だろうと思っていた。 

 美樹が言いたくない理由をわたしは知ってしまった、今。

 正兄と美樹は、体をぴったりと寄せ合って、指を絡ませていた。そういうことなのだろう、そういうこと。じゃあ美樹はどうしてわたしが正兄に恋していると決めつけていたのだろう。そうあってほしいような言い方を続けていたのだろう。本当に正兄に恋をしていたのは美樹の方ではないか。

 俯いてそんなことを思っている間もふたりの会話は続いていたけれど、耳に入ってこない。なんだか気分が悪くなってきた気がする。

 去ろうと顔を上げた時、目に映ったものは、体を絡めて指を絡めてキスをしているところだった。濃厚な感じ、大人な感じ、でもここは学校だ。正兄は教師だし、美樹は生徒だ。そうして、ドアも開けっ放し。どうかしてるとわたしは思った。そういうわたしもどうかしている。少しの間、じっと観察してしまった。ぞくぞくと寒気が込み上がってきたのに目が離せてない。やらしく動く正兄の手もやらしく体をくねらせる美樹の様子も、全て気持ち悪い。

 これ以上は無理だというところまで観察して、わたしは踵を返した。そっと離れて、そうして走り出したのは教室と逆方向、図書館へだった。

 好き同士なら仕方ないし、美樹が正兄の彼女だということはこの際どうでもよかった。正兄が生徒に手を出しているという事実はに嫌悪を覚えた。学校であんなことをするふたりを軽蔑しそうになる。風紀を無視した行いに嫌気がさす。頭の中がごにゃごにゃしてきた。だんだんとわけがわからなくなってきた。

 図書室に着くと、息を吸って吐くを繰り返しながら、ドアを開けて閉めた。時也が変な顔でわたしを見た。

 時也の元へたどり着くと、さっきまで座っていた椅子に、わたしはすとんと腰を落とした。

「ねえ時也、わたし、自分が気持ち悪い」

 どういうわけか、手ぶらで戻ってきたわたしはそんなことを時也に訴えていた。

 俯いていた顔を時也が覗き込んだ。そうして、「今日は終わりじゃダメ?」と聞いてきた。聞かれたわたしも、もう勉強会を続ける気分ではない。こくりと頷いた。

「双葉が居ない間に、俺、結構頑張ったんだよー」

 おちゃらけたような口調のあと、時也は「美味しいお菓子探しに行こうよ」と優しく言った。少なくともわたしにはひどく優しく響いた。顔が歪みそうなくらいに。

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