焼きいもは和菓子に入りますか?
ここはとある小学校の家庭科室。集まった生徒たちはプロジェクターで写し出された動画を見ていました。
動画が終わり、担任の先生が生徒たちにむかって言います。
「みんなが見たように、私たちの町はずっと昔から和菓子を作ってきました。次の家庭科の時間では、みんなで、自由に和菓子を作ってもらおうと思います」
生徒たちに和菓子を作ってもらう授業。この風変りな授業も、何十年も昔からこの小学校で行われている伝統なのです。
「先生! 焼きいもは和菓子に入りますか?」
突然、クラスの人気者である高梨くんから質問が来たので、先生はおどろきました。
「え? 焼きいもは、どうかな……」
「先生、大学いもは和菓子の一種みたいですよ。焼きいもも入れていいのではないでしょうか」
クラス一の秀才である草野くんも、タブレットをいじりながら言います。
先生は少し困りましたが、どうしても料理が苦手な生徒もいるんだし、仕方ないかもと思いはじめました。
「わかりました。焼きいもも和菓子に入れましょう。でも火をつけるときは、ちゃんと先生か、大人の人につけてもらうようにね」
先生がそう言うと、何人かの男子生徒がよろこんでいました。
そして和菓子を作る授業の当日、先生は驚きました。
家庭科室に生徒がひとりもいなかったのです。
「こ、これはいったい……」
「先生」
声がしたので振り返ってみると、クラスで一番料理上手の光川ちゃんが、廊下の方に立っていました。
「光川ちゃん、みんなは……?」
「先生、火をつけてください」
先生は光川ちゃんに連れられて校庭まで行くと、そこには生徒たちと、うず高く積まれた大きな落ち葉の山が待っていました。
「あっ、来た! 先生だ!」
「先生、はやく火をつけて!」
もしかして、と思い、先生が光川ちゃんを見ると、ポケットから大きなサツマイモを取り出していました。
「あきれた。みんな焼きいもを持ってきたのね」
「ごめんなさい先生。みんな楽しそうだったから」
「いいのよ、光川ちゃん」
結局その日は、クラスのみんなでたくさんの焼きいもを作ることにしました。
煙のあがる落ち葉の山を囲んで、楽しそうにしている生徒たちを見ていると、先生も思わず笑顔になります。
「焼きいもねえ、確かにみんなが『和やか』になる『お菓子』といったら、焼きいも以外にないかもしれないわね」
「先生! ほら、焼けたよ!」
熱い焼きいもをほおばると、先生はまるで子どものころのような気持ちになったのでした。
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