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改めて自己紹介をしようと思うのですが、私はブレイクヒーローズではグレースという名前のキャラでプレイしているしがないヒーラーで、本名は伊藤楓と言う16歳の……引きこもりでした。
それには色々と理由があるようなないような感じなのですが、ぶっちゃけますと原因はずばり容姿の事で、私のお母さんは日本人で何処からどう見ても純日本人といった顔立ちなのですが、お父さんは月面生まれの所謂ルナリアンという奴であり、そんな2人から生まれた私は日本人とルナリアンのハーフという事になります。
そのせいで少しだけ人と違う特殊な瞳を持っていて、それが原因で子供の頃に虐められたのが原因で軽い対人恐怖症になってしまったのですが、買い物から遠隔地への外出などの大抵の事が全てメタバース上で行えるなどの著しいネット社会のおかげで引きこもりが重度化した感じです。
そしてもう少し正確に言うと、父方の祖父母がルナリアンで、母方の祖父母が日本人、そこから更に辿ったのがお婆ちゃん達……間柄をちゃんと言うとお父さん側の曾祖母母が日本人とルナリアンのカップルで、私は血筋的にはやや日本人寄りのハーフと言う事になります。
そういう家系のため私も純和風な見た目をしているのですが、唯一瞳だけはルナリアンの特徴が色濃く出てしまっており、白い瞳孔と銀色の虹彩という奇妙な色合のキラキラとした星明りのように輝く星彩を持って生まれました。
これはルナリアンの中でもごく一部の人達にしか出ない珍しい虹彩で、暗い宇宙空間に適応するための進化だとも言われているのですが、実際のところは数々の宇宙線によって変異した特殊な視細胞の集まりであり、蓄光した光を自ら放つ事によって暗闇の中でも物が見えるという奇妙な瞳です。
一部では新人類だとか人類の進化だとか言われているのですが、この瞳に対して良い思い出が無い私からすると実生活にまで悪影響を及ぼす面倒な虹彩であり、私は人に指摘されるまで「暗闇」と言う概念がよくわかりませんでした。
何かちょっと薄暗くなったかな?と思っていると実は周りが真っ暗闇だったという事もあり、瞳を物理的に爛々と輝かせながらスタスタと歩く私の姿が怖かったと、周囲からは気味悪がられたものです。
因みに自前でこれだけの暗視能力があると太陽の下だと色々と苦労するのでは?とも言われた事があるのですが、むしろ光量の調整がきっちりとされているので太陽を直視しても目が焼かれる事はありませんし、集中すれば濃い赤外線や紫外線なども認識する事ができます。
だからどうしたという感じなのですが、遠近も結構自在で、この瞳が実は特別な物である事を知った時には実験動物になって何かしらの怪しげな研究機関に捕まえられるのでは!?という妄想をしたものですが、そういうのはお婆ちゃんの若い頃にとっくに調べ尽くされているので拉致される心配は無いという事でした。
そもそも正式に星彩と認定されている瞳を持つ人は結構居るようで、そんな人達の中には自分の瞳を研究している人もいて、わざわざ私を拉致する必要はないそうです。
とにかくそういう変な瞳を持って生まれた私なのですが、子供の頃は特に気にせず結構いい所のお嬢様みたいな生活をしていました。
というのも私の家系は結構有名な名家であり、お婆ちゃん達はテラフォーミングの基礎理論を固めて月面都市を作り上げた立役者で、生命工学の分野を数世紀進めて一般的な病気を根絶させたという偉人でした。
その子供達も皆さん優秀で、反重力制御を確立したり、現在のF D V Rの技術を広める一助をしていたりと、実は教科書に載るくらい優秀な技術者の家系ではあったんですが、残念ながらそんな家系の中でお父さんは地味な方で、専門は農業関係の技術者でした。
「食は世界を救う」
そう言って地球で農業関連の勉強をしようと移り住んだところ、海洋プラントやメガフロート関連の事業に参加していたお母さんに一目ぼれしてそのまま結婚、私が生まれたそうです。
結婚を機にお父さんが本格的に地球に住む事になるという事でその時は色々あったみたいなのですが、どうにも私の家系は一目ぼれしやすい体質らしく、いつもは寡黙でニコニコしているお父さんがその時ばかりは大立ち回りしたとかで、親戚一同で集まった時には笑い話にしていました。
そういう一目ぼれしやすい典型的な例というのが家で一番権力を握っているお婆ちゃん達で、最終的に2人の結婚は許可されるのですが……っと、正確に言うとお婆ちゃん達は曾祖母母なのですが、ここではもうお婆ちゃんで統一させてもらいます。
このお婆ちゃん呼びの癖についてはただの勘違いで……というのも私が生まれる頃に両親は海上プラント制作の大規模プロジェクトに関わっており、それにつきあわせて色々な拠点を移動するのも辛いだろうという事でお母さんは月面都市にある父方の実家で私を出産し、その時に一緒に住んでいたお婆ちゃんを「お婆ちゃん」と呼んでいたのが始まりです。
実はその2人が曽祖母だったという事を後で知って驚いたのですが、今更「ひいお婆ちゃん」と呼ぶのも何なのでそのまま「お婆ちゃん」と呼ばせてもらっています。
とまあ実はこの2人が人類初の星間結婚者だったり、それを題材にした映画があるくらいロマンティックな出会いをした2人だったりと色々とあるのですが、そんな100歳を超えても仲の良い2人は私の憧れで、白い方のお婆ちゃんはもうこれが素敵なくらい全身真っ白にキラキラ輝く髪に白い肌に銀色の星彩でと、何かもう色々可笑しなくらい人間離れした容姿を持ち主で、黒い方のお婆ちゃんが「最初会った時は天使かと思った」というくらい年をとってもとても綺麗な人で、時には軽口を挟みながらも深く愛し合っている2人の関係は私の理想となっています。
だからなのか、子供の頃は自分の容姿に変なコンプレックスは無く、むしろ白いお婆ちゃんと同じ瞳である事を誇りに思っていた時期もあり、お父さんとお母さんが参加していた大きなプロジェクトも一段落し、小学校の高学年あたりで家族一緒に地球に移り住む事になった時は子供らしい夢や希望が一杯で「これで私も天使様に会えるんだ」とワクワクしていました。
というのもこれは月面都市が基本的に技術都市である事が関係していて、そういう場所だからなのか一種の地球信仰みたいな物があり、純粋な月面生まれの人達の中には地球には精霊とか天使とか神様が本当に居るんだと信じている人がいるくらいです。
今から考えるとかなりおかしな話だと思うのですが、その時の私は本気で妖精とか天使に会えるんだと無邪気にはしゃいでいたのですが、そんな私を待ち受けていたのは容姿をもとにしたルナリアンへの人種差別でした。
「え、なにその目……化け物みてー」
ドキドキしながら転校生として紹介された時のクラスメイトの第一声が、その後の私を決定づけたと思います。
国際化の進んだ昨今、多少の肌の色や瞳の色の違いというのは「そういうものだ」と認識されつつあったのですが、淡く光る銀色の瞳というのは彼等の常識を軽く越えてしまっていたようで、私は最初っから「奇妙な見た目の変な奴」というレッテルが貼られてしまいました。
私がどれだけ科学的に星彩の事を説明しても理解してくれず、腫れもの扱いのような関係や根拠のないからかいは続き、一度「こいつは苛めても良い奴」とレッテルが貼られた後の学校生活は地獄のような場所へと変わりました。
そして丁度第二次性徴を迎えて人よりちょっと胸が大きくなり始めた時期と重なっていた事もあり、からかいや苛めは妬みや恨みを込めたものへとエスカレートし、人気のない廊下ですれ違った時の「鴨を見つけた」みたいなニヤニヤした嫌らしい顔は今でも夢に見るくらいです。
それでも地球で仕事を続け頑張っている両親の為に何とか学校に通っていたのですが、いつもちょっかいをかけてくる男子達に腕を掴まれ人気のない教室に引きずり込まれるという事件があって……私は中学に上がる頃には人の顔を見て話す事ができない、不登校児になっていました。
※次話は明日の8時投稿予定です。
※誤字報告ありがとうございます(1/2)。