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雑文ラノベ「聖女っ!結婚してくれっ!~いいけど私は聖女だからえっちは無しよ?~」

作者: ぽっち先生/監修俺

ここは異世界。そして時は春。全ての生き物がつがいを求めてそわそわしだす季節。うんっ、オス猫とかが夜な夜なうるさいよね。まっ、あいつらも必至なんだろうから許してやろう。

しかし、春という季節は猫だけでなく人間も内から湧き上がる感情にもんもんとする季節だ。因みにここは異世界だから花粉症というアレルギーは存在しない。

くーっ、いいなぁ。どうりでみんなが憧れるわけだ。えっ、でもコロナンウイルスは存在するの?マジですかっ!

でも仮に罹患しても魔法で解決?おーっ、さすがは異世界っ!魔法は最強だっ!


そして今、そんな春の陽気に当てられたのかひとりの少年が花束を手にそわそわした様子で神殿の裏口近くにて誰かを待っていた。

くーっ、こいつもしかしてここで女の子に告白をする気か?そしてもしもokを貰ったらそのまま神殿に駆け込んで結婚の儀を挙げるつもりだな?


はははっ、思いつめているねぇ。まっ、少年くらいの年頃にはありがちな感情だ。うんっ、きっとこいつは相手の女の子の事が好き過ぎてその子以外の事が何も考えられなくなっているのだろう。

いや、逆に考え過ぎているのかも知れない。多分こいつの脳内では既に女の子との詳細な将来設計が立てられているはずだ。


まずokを貰ったら教会にて速攻で結婚式を挙げ既成事実をつくり、その日のうちに夕日が観れる海岸へハネムーンだっ!そしていい雰囲気になったら宿屋で初夜を迎える。

うんっ、少年はこの場面に関して今まで何百回と脳内シミュレートしているはずだ。そして毎夜我慢できずに果ててしまい満足して眠りについていたのだろう。いや~、男の子だねぇ。

でもそうなると相手の女の子の事が気になるな。一体誰なんだろう?まぁ、少年の身なりから多分相手も平民だろう。

ありがちな設定としては冒険者ギルドの受付譲か飲み屋の看板娘辺りが鉄板かな。いや、もしかしたら冒険者パーティの仲間かも知れない。むーっ、パーティ内の色恋沙汰は面倒が起こるから大抵禁止されているはずなんだけどなぁ。


だがそんな予想を裏切るかのように神殿の裏口から表に出てきたのはこの国で一番大切にされている女の子だった。そう、その娘は『聖女様』だったのであるっ!

まっ、聖女様に関してここで説明はいらないだろう。なんせ読んで字のとおり『聖なる女の子』だからね。なので邪な目でその肢体を見たりしたら神罰が下ります。

一般的なところでは目がつぶれると言われています。もしくは試験の成績がだだ下がります。えっ、君は聖女様の裸体を想像しちゃったの?だから勉強が手に付かなくて全教科赤点だった?

おいおい、ゲームのし過ぎで馬鹿になったのを聖女様のせいにするのはどうかと思うぞ。そもそも君は元々馬鹿だったじゃんっ!だからこんな漢字だらけの文章は読めないだろう?

えっ、ルビをふれって?嫌だよ、面倒だもの。というか中学生ならこのくらいの漢字は普通に読めっ!


さて、話が脱線したので元に戻そう。そう、少年が待っていたのはなんと聖女様だったらしい。そしてその思いは本物だったのだろう。なので神罰も跳ね返してしまったらしい。むーっ、すごいね。まるで勇者みたいだ。

そんな少年は聖女様の姿を見つけるとたたたっと駆け出して聖女様の前に立った。しかし手にした花束は後に隠している。


でも少年よ、走っている間は前にかざしていたぞ?今更隠してもバレバレなんだが?

しかし聖女様はそんな少年の思いを知ってか知らずか花束に関してはスルーしてくれました。うんっ、お優しいんだね。さすがは聖女様である。


だが少年は聖女様の元に駆け寄ったはいいがその後が続かなかった。なんかもじもじして声も掛けられないくらい舞い上がっている。はははっ、純情だね。うんっ、がんばれ少年っ!そして玉砕しろっ!

しかしそれでも少年は漸く決心がついたのだろう、聖女様に向かって話しかけたよ。


「聖女、実は俺、今日付けで漸く勇者になれたんだ。」

ほうっ、それはおめでとう。でもそれって今言わなくちゃならない事なのか?あっ、勇者の肩書きを使ってポイントを稼ぐつもりなのか?それってちょっとこすくない?

なので聖女様も少年が手にした花束の意味を取り違えたようだ。つまり花束は自分へではなく、少年がここに来る前に勇者となったお祝いとして誰かから貰ったのだろうと考え直したようである。

なので当初抱いた感情を少ししかめっ面になりながら押し隠して少年に対して祝福の言葉を贈った。


「まぁ、それはおめでとう。いえ、勇者様になられたのなら敬語で接しなくちゃね。おめでとうございます。」

「いやー、やめてくれよ。勇者と言ったって俺なんかまだ何の実績も上げていない駆け出しなんだからさ。」


「ふふふっ、そう?ならそうしましょうかね。でも本当におめでとう。6回も不合格になった時はもう駄目かなと思ったけど、諦めなければ願いは叶うのね。」

「くっ、それを今言うのかよ・・。」


「ふふふっ、伊達に幼馴染じゃないもの。あなたの事はすべてお見通しよ。でも本当におめでとう。」

「うんっ、ありがとう。これも聖女が神様に祈ってくれたからさ。」

成る程、少年と聖女様は幼馴染だったのか。だとすると小さい頃はお医者さんごっこをして遊んだんだな。むーっ、羨ましいようなそうでもないような・・。だって幼女の頃じゃなぁ。あっ、今だったら絶賛大歓迎だよっ!まっ、あなたが現実世界でやったら変態として通報されるけどねっ!


さて、聖女様は勘違いしたようだが少年はここへ愛の告白をする為に来たのである。当然相手は聖女様だ。だが世間話から入ったものだから中々本題を切り出せないでいた。


うんっ、付き合いが長いとこうゆう事はままあるよね。でも少年よっ!がんばらんかいっ!お前はその為に過酷な勇者試験を耐え抜いたんだろうがっ!お前が勇者になりたかった理由は好きな女の子と同等の肩書きを得て告白する為だったんだろうっ!


うんっ、勇者を夢見る世界中の少年たちの中でも駄目な方から数えた方が早いような動機だな・・。

因みに一番駄目な動機は絶大なチカラを持って夢想し、且つハーレムで女の子に囲まれて暮らしたいってやつだ。

あっ、漢字を間違えちゃったよ。『夢想』じゃなくて『無双』だったね。でも微妙に合っている気がするのは気のせいだろうか?


だが少年はハーレムには関心がないようだった。そう、少年はもう聖女様しか目に入っていないらしいのだ。おーっ、ピュアだ・・。今時こんな少年がいるとは驚きだね。既に絶滅したと思っていたぜっ!

しかし逆に少年はうぶ過ぎた・・。なんと少年の告白は恋愛における過程を全てすっ飛ばしていきなり最終話に突入してしまったのだっ!


「そ・・、それでお願いがあるんだけど・・、聖女っ!結婚してくれっ!」

うんっ、いきなり何を言いだすんだこのガキは?いくら幼馴染とは言え普通はお付き合いから始めるもんだろうがっ!

うんっ、こいつ実はアホなのかもしれない。守衛僧さぁーんっ!不審者でーすっ!とっ捕まえて世の中の常識ってやつを叩き込んで下さーいっ!そして奴隷船にでも放り込んどいてっ!


だが、そんなテンパった少年の告白に対して聖女様は動じる事も無く次のように答えた。


「いいけど私は聖女だからえっちは無しよ?」

いいんかいっ!いきなりのプロポーズを受けるんかいっ!でもえっちは無しなのかよっ!それってどんな拷問だよっ!

そもそもそれだと少年の願いの99.9%は叶わない事になるんだぞっ!それって人々の願いを叶える聖女としてどうなんだっ!


いや、当然か・・。だって聖女様だもんな・・。そもそも聖女様って基本処女でないと駄目なはずだし・・。つまりこの場合、聖女様に結婚を申し込んだ少年の方が常識はずれなんだ。

しかしテンパっている少年には聖女様がおっしゃった言葉の内、自分が望む部分しか耳に入らなかったようである。つまり「いいわよ」のところだけだ。なので次の瞬間、聖女様からの承諾の返事に飛び上がったよ。

おーっ、すげーっ!7回目でやっと勇者試験に合格したとはいえ、腐っても勇者だな。8メートルは飛び上がったんじゃないのか?まっ、真の勇者なら100メートルは軽いけどなっ!


どすんっ!

無事8メートルの高さから着地した少年は喜びのあまり今度は聖女様を抱き上げてくるくると回り始める。

「やったっ!やったぞっ!聖女が俺のお嫁さんになってくれるって言ったよっ!」

「ちょ、ちょっと勇者っ!あんまり振り回さないでっ!目が回っちゃうわっ!」

うんっ、もう一度言うが腐っても少年は勇者である。なのでその身体機能は尋常ではない。そんな人並みはずれたパワーで回転されては聖女様もたまらない。


しかし浮かれている少年は内から湧き上がる喜びを押さえきれないようだった。なので今度は聖女様をやおらお姫様抱っこするとぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


「やったっ!やったぞっ!今日から聖女は僕のお嫁さんだっ!」

「ちょ、ちょっと勇者っ!落っこちちゃうっ!乱暴にしないでっ!」

うんっ、再度言うが腐っても少年は勇者である。なのでぴょんぴょんの度合いもスケールが違う。はい、12メートルは飛び上がっているんじゃないのか?

成る程、さっきと違って膝の屈伸反動をちゃんと使うと更に4メートルも高く飛び上がれるのか。まっ、真の勇者なら300メートルは軽いけどなっ!


でも勇者としてはちょっと物足りない高さだが、普通の人に12メートルの連続ジャンプは高過ぎる。だから聖女様は少年にぎゅっとしがみ付いてしまったよ。なので実り豊かな聖女様のお胸が少年の胸に密着し、且つぷるんぷるんと揺れていた。

成る程、少年よ、お前これが目的だったんだな?ちっ、結構策士じゃないかっ!


だがそんな少年に対して聖女様が再度クギをさして来た。


「勇者、聞き漏らしたみたいだからもう一度言うけど、結婚してもえっちは駄目よ?」

「えっ?」

繰り返された聖女様の言葉に少年は漸くそこに含まれる残酷な意味を理解したようだった。おかげで漸くぴょんぴょんが止まった。

それでも聖女様を離そうとはしない。しないのだが少し青ざめた顔で聖女に次のような質問をした。


「ち・・因みにえっちってどこからが駄目なの?」

「そうねぇ、裸のおっぱいを見るくらいならいいかな。でも直接触るのは駄目。」

「がーんっ!マジかよっ!」

聖女様の言葉に少年はまるで地獄に突き落とされたかのような絶望を感じたのだろう。なので先ほどまでの笑顔から一転、泣き出しそうな顔へと変貌した。いや実際少し涙目になっているな。

しかし、そんな少年に対して聖女様は少年の耳元に唇を近づけてそっと囁いた。


「でもあなたが魔王を倒してくれたら平和になるから私も聖女のお役目を降りられるわ。そしたら私も普通の女の子だからその時は・・、ふふふっ。」

うおーっ!その時はどうなんですかっ!その含み笑いにはどんな意味があるんですかっ!うわっ、想像したいけど目が潰れるからできねぇっ!


しかし天罰さえものともしない少年は、聖女様から告げられた明るい家族計画を一瞬で理解したらしくぱーっと笑顔になった。そして抱っこしていた聖女様を大地に下ろすとすぐさま行動に出た。


「判ったっ!ちょっと待っててっ!直ぐに魔王のやつをぶっ殺してくるからっ!」

そう言うが早いか、少年は魔王城のある方角へ走っていってしまった。しかも後に残された聖女様はそんな少年の背中に向かって「がんばってねぇ。パンツを洗って待っているから~。」と言いながら手を振っているよ。

うんっ、この場合は天に向かって勇者である少年の無事を祈るのが聖女としてのスタンダードだと思うんだけど、随分軽い聖女様だな。

と言うか、パンツは常に洗いなさい。まぁ、ある種の変態には履き続けた女性のパンツはご褒美らしいけどなっ!



さて、場面は変わってここは魔王城である。魔王の城と言うくらいだからそこには当然魔王がいた。そしてその魔王の前には勇者の剣 (但しパチモン)を手にした少年がいた。

はい、本来ならば魔王城に潜入するには城兵とか魔王軍四天王とか相手の前座アクションがあるはずなんですが、今回は時間の関係で省きました。なのでその部分こそがアクションRPGにおけるレベル上げの醍醐味だろうがっ!という方はご自分で想像して楽しんで下さい。

ほら、レバーの早押しで右右次は左だっ!あーっ、ボタンを押すのが遅いよ。コンボが成立しなかったじゃんっ!宿題なんかしていないでもっと練習しなきゃねっ!


と言う事でいきなり勇者と魔王の対決です。


「魔王よっ!訳あってお前を倒すっ!覚悟しろっ!」

「ふんっ、いきなりカチ込んできてその言いぐさか。お主、騎士道とかを知らんのか?」


「知らんっ!と言うか俺は勇者だっ!騎士じゃねぇっ!」

「勇者?あーっ、あのダンジョンとかで格下の魔物相手にやんちゃして小遣い稼ぎをするアウトローたちのヘッドか。」


「えっ?お前の中では勇者ってそんな扱いなの?普通勇者って言ったら魔王を倒す正義の味方なんだけど?」

「昔はな。だが最近の勇者と名乗る輩はチンピラの親分と大差ない。大抵は神から身の程知らずなチカラを授けられて舞い上がってしまい、そのチカラで弱い者相手に無双するいじめっ子だ。」


「馬鹿な・・、そんな話は聞いた事がないぞっ!」

「それはお主が世間知らずなだけだ。もっともそれ故に躊躇いもなくわしの所に来たとも言える。成る程、実力的にはまだひよっこのようだが資質はあるのだな。良かろう、相手をしてやるっ!」

そう言うと魔王はマントを翻して玉座から立ち上がった。


どどーんっ!

立ち上がった魔王からは何やら目に見えないチカラが放たれた。それをまともに浴びた勇者は少しだけ後ずさる。だがこれは魔王が勇者に対して攻撃を仕掛けた訳ではない。ただその凄まじい威圧に若干勇者がたじろいでしまっただけだ。


いえ、嘘です。種を明かすと玉座の両脇に備え付けられていた大型スピーカーから重低音の音波が勇者に向けて放たれただけです。つまり演出です。なので先ほどの「どどーんっ!」も効果音です。

しかし、経験の浅い勇者にはそれが魔王の威厳故の圧力なのだと感じてしまったのでしょう。

う~んっ、やるな魔王よっ!だけど初手で張ったりを噛ますのは喧嘩では常套手段だからな。そうゆう意味ではこの魔王って戦い慣れているのかも知れない。

そもそも戦いってスポーツじゃないんだから卑怯もへったくれもない。昔から勝てば官軍、負ければ賊軍だっ!


さて勇者に対して気持ちの上でも優勢となった魔王は更に上からの物言いで勇者にプレッシャーをかけてきた。


「くくくっ、全うな勇者と刃を交えるのは久しぶりだ。どれ、少しはわしを楽しませてくれるのだろうな?」

そう言うと魔王は玉座の脇に立てておいた剣を抜き放ち、その重さを確かめるかのように片手でぶんっと一振りした。そして次の瞬間には目にも止まらぬ速さで勇者に斬りつけた。


カキーンっ!


おーっ、すごいっ!なんと勇者のやつ、魔王の斬撃を勇者の剣 (但しパチモン)で受けきったよっ!おいおい、あの速さに対応したのか?うわーっ、こいつ実は本物だったのかも知れない。

その事は魔王も感じ取ったらしい。なので嬉しそうにニタリと笑うと鍔迫り合う剣へ更に圧力をかけ勇者の動きを制しながら問いかけた。


「これは驚いた。まさか防がれるとは思っていなかったぞ?そうか、やはりお主は本物なのだな。ならば問おう、お主の大義とはなんだ?」

「ぐぬぬぬっ、大義だと?えーと、大義ってなに?」


「はははっ、まさか大義の意味も知らずにわしを倒すとほざいたのか。となると動機は金か?はたまた名誉か?」

「あっ、大義って動機の事なのか。もうっ、なら初めからそう言えよっ!お前ら上流階級のやつらってもったいぶった言い回しをするから嫌いだぜっ!」


「いや、それ程難しい言葉を使ったつもりはないのだが・・。もしかしてお主って馬鹿なのか?」

「あーっ、今馬鹿って言ったなっ!それって馬鹿って言った方が本当は馬鹿なんだからなっ!聖女が言っていたっ!」


「いや、それは単なる言葉のあやなのではないか?もしくは問題のすり替えか?」

「うるせーっ!難しい事言うんじゃねぇーっ!俺には大義とかそんなのは関係ないんだよっ!お前を倒さないと聖女がえっちさせてくれないんだっ!だから死ねっ!魔王っ!」

そう言うと勇者は互いに押し合っている剣刃にこれでもかという程のエネルギーを注ぎ込んだ。


ぴかっ!どか~んっ!


凄まじい光と圧力波、それに伴う爆発音が勇者と魔王の間で炸裂した。その為ふたりともそれぞれの後に10メートル程押し返された。しかしこれ程の爆発を直近で受けたにも関わらずふたりとも大したダメージは受けていないようだった。ただ着ていた服などはお互いボロボロである。

いや、ちょっとふたりとも止めてくれよっ!なんであんな爆発をまともに喰らったのにそんなもんで済むんだよっ!

少し周りを見てみろよっ!あんだけ頑丈そうだった魔王城の謁見の間が跡形もなく瓦礫化しているんだぞ?と言うか次に何かしたら多分床が抜けるぞっ!


しかし次の瞬間魔王は立ち昇る埃を魔法でかき消すとげんなりした顔で玉座に座ってしまった。うんっ、玉座は吹き飛ばなかったんだ・・。もしかして床に固定されているのか?

その後魔王は手にしていた剣を鞘に戻すと大きくため息をつき勇者に向かって問いかけた。


「お主よ、今言った事はまことか?」

「まことかって何がさっ!」


「だから聖女とえっちがしたいが為にわしを倒しに来たという事だ。」

「おうっ、ここに来る前にプロポーズしたら結婚してくれるって言ったんだっ!でもお前を倒さないと聖女を辞められないからえっちはなしって言われちゃったんだよっ!それじゃせっかく結婚したとしても嬉しさ一割減だろうがっ!だから俺はお前を倒すっ!」

いや、勇者よ、嘘つくんじゃない。お前の言動から察するに9割9分9厘減だろう?もう、聖女様とえっちがしたいが為にプロポーズしたんだろう?

でも恥じるな。お前くらいの年頃ならそれって至って普通だからっ!


しかし魔王vs勇者という世界の命運を賭けたシリアスな展開に突入だと思っていたら、その実、エロが動機だったと聞かされた魔王は結構なショックを受けたようだった。


「マジか・・、わしって何時からそんな役どころに落ちたんだ?もしかして時代はシリアスからラブコメに移り変わってしまったのか?」

「なにひとりで休憩しているんだっ!俺は急いでいるんだから早く決着をつけようぜっ!」

勇者の言葉に魔王は更に意気消沈したらしい。つまりあまりの馬鹿らしさにやる気をなくしたようだ。

まっ、これは魔王でなくてもそうなるわな。でも聖女様とのえっちが賭かっている勇者はやる気満々だ。そんな勇者に魔王はやってられんとばかりに打開策を申し出た。


「あーっ、お主の事情は判った。なので今回の勝負はお前の勝ちとするがいい。なのでさっさと戻って聖女とえっちでもなんでもしまくれ。」

「えっ、いいの?なら倒した証としてお前の首が欲しいんだけど?」


「アホぬかせ。なんでお主が聖女とえっちする為にわしが首を差し出さねばならぬのだ。いいから話を聞け。聖女がお主にわしを倒せと言ったのはわしがおると聖女の立場を辞退できないからであろう?そして聖女は無垢、つまり処女で無ければならないというシバリがあるので聖女のままではお前の望みは叶えられないという意味のはずだ。」

「そうだっ!お前がいるから聖女は俺とえっちしてくれないんだっ!」

うんっ、本当に勇者は聖女様とえっちがしたいんだね。もうそれ以外はどうでもいいんだろう。なのでそんな勇者に対して魔王は諭すように話を続けた。


「結論を急ぐな。我慢ができないやつは女の子に嫌われるぞ?さて、今お主と聖女が抱えている問題点はこの世界を覆っている社会の不安定さだ。

つまり聖女の願いはこの世界が平和になる事のはずだ。その為にわしを倒せとお主に言った。だがな、仮にわしを倒したとしても直ぐに次の魔王が現われるぞ?そうなったら聖女が望んだ平和は永遠に訪れない。なのでお主は永遠に聖女とえっちはできん。」

「なっ、なんだとっ!なんでだよっ!それってずるいだろうっ!だって聖女はお前を倒せばえっちしてくれるって言ったんだぞっ!」

はい、もう一度言うけど勇者の行動基準が聖女様とえっちできるかどうかに偏り過ぎだっ!ある意味、真っ直ぐ過ぎて清々しいぞっ!

だがその判断基準は大人である魔王には些か青臭く思われたのだろう。なので魔王は『理』を持って勇者を諭した。


「まぁ、そこら辺は聖女も魔王の継承システムをよく知らなかったのだろうな。なのでわしを倒せば人間世界から魔族の脅威が無くなって自分は聖女の立場を返上できると思ったのだろう。だが実際にはそう簡単に事は運ばんのだよ。」

「がーっ、なんなんだそのよく判らんシステムはっ!ずるいぞ魔王っ!いや、もういいやっ!次に魔王になるやつもぶっ殺すっ!」


「だからそやつを倒しても更に次の魔王候補が現われるのだ。なので聖女が提示した方法では平和は訪れないのだよ。」

「マジか?それってなんていう無理ゲーだよっ!そんな糞みたいなシステムを作ったのはどこのどいつだっ!」


「あーっ、多分どこにでもいそうな中学二年生なんじゃないかのぉ。だが中学生だからと言って馬鹿には出来ぬのだぞ?なんせあやつら自分がやりたい事には猫まっしぐらじゃからな。その熱量足るや原子力発電所10基分だ。」

「原子力発電?それって凄いのか?」

「うむ、モノにもよるが大体一基100万馬力だ。一般家庭の消費電力で換算すると大体20万軒くらいかのぉ。」

いや、魔王よ・・、ここって欧州中世風な世界設定だからその説明はまずいんじゃないのか?えっ、異世界にも色々あるの?この異世界では普通に電気が使われているの?あらら、そうなんだ。でもなんだかイメージが崩れるなぁ。


「まっ、創造神の事はおいておこう。今お主が抱えている問題とは直接関係ないからな。なので話を戻すが先に説明したとおりわしを倒しても聖女の願いが叶う事は無い。なのでお主も一生聖女とイチャコラできぬ。かと言ってわしを倒さぬ限り聖女とお主は結ばれぬ。

そうなるとお主はわしに八つ当たりをするであろう?それがまだ全うな理由ならばわしも相手にするのもやぶさかではないがお主たちが乳繰り合いたいが為などという理由ではやる気など出ぬ。そうなるとお主はますますわしに纏わり付くはずじゃ。これは最早負のスパイラルである。わしとしてもそれは避けたい。なので打開策を提示してやる。」

「打開策?なんだ?そんなのがあるのか?」


「先にも言ったが今回の件を面倒にしているのは魔界と人間界のいざこざだ。その象徴としてわしとお主が存在する。しかもこのふたつの存在には幾重にもバックアップがある。それ故どちらかが相手を倒しても争いは終わらず聖女の願いが叶う事は無い。だがな、別に聖女の願いを叶えるのにわしが死ぬ必要は無いのじゃ。」

「えっ、なんで?だってお前がいるから世界は平和にならないんだろう?」


「ふんっ、そんな戯言は人間界の権力者が己の地位を担保したいが為の欺瞞よ。まぁ、過去においては魔界側から人間界へ侵攻した時もあったが、わしの代にこちらから戦いを仕掛けた事は無い。」

「えっ、そうなの?でも15年前のイラクサ領争奪戦はお前たちの方から仕掛けてきたって聞いているぞ?」


「それはわしの前の代の魔王がした事だ。どちらかというとわしはあの泥沼の戦いを調停し終わらせた立役者だぞ?」

「そうなのか?でも10年前のウクレレラ侵攻はお前の方から仕掛けてきたんだろう?」

「あそこは元々魔王領だ。それをお前たち人間がウクレレラの領主をそそのかして寝返らせた。となるとわしとしても他の魔族領主たちへの手前見過ごす訳にはいかぬ。つまり先に仕掛けてきたのはお前たち人間の方だ。」


「ふ~ん、そうだったんだ。でもそれくらいなら話し合いで解決できたんじゃないのか?」

「お主、自分の家族を言葉巧みにたぶらかしたやつと話し合いなどするのか?」


「あーっ、しないな。」

「であろう。そうなると問題を解決する方法はチカラにて相手を屈服させるしかない。まっ、わしとしては出来ればそうはしたくはなかったのだがな。しかし魔王という立場上、売られた喧嘩は受けねばならぬ。」


「むーっ、そうゆうものなんだ・・。でもそれと俺が聖女とえっち出来ないのは関係あるのか?」

「おおありだ。種の違いによる争いと、それぞれの先兵たる魔王と勇者のバックアップシステム。これらの問題をクリアするには妥協できる事には妥協する賢い為政者が必要だ。そしてわしは敢えて妥協してやろうと言っているのだ。」


「妥協する?それってお前の首を俺に差し出してくれるって事か?」

「だからなんで直ぐにそっちに考えがいくのだ?もういい、お主は考えるなっ!今からその方法を教えてやるからお主はわしが教えたように行動すればよいっ!そうすれば晴れてお主は聖女とイチャコラ三昧だっ!」


「うほっ、なに?そんな方法があるのかっ!早く教えてくれっ!」

「うむっ、教えはするが自分で考えるなよ?下手にお主が考えると失敗しそうだからな。」


「判ったっ!そもそも俺はあんまり考えるのは得意じゃないんだっ!ついでに言うと覚えるのも苦手だから簡単なやつで頼むぜっ!」


「自覚はあるのか・・、まぁ簡単に言うとわしが生きていれば懸案のひとつである魔王継承システムは稼動しない。だが魔族と人間界の相互不信は払拭できない。なのでわしは魔王の地位についたまま隠居する。

方法としてはお前と戦って『封印』されたとする。こうする事によって人間側は魔族からの脅威を感じなくなるはずだ。そうなれば聖女という立場も必要なくなる。なので聖女も役目を返上しお前と好きなだけイチャコラできるようになると言う訳だ。」

「・・???」

魔王の説明に勇者はきょとんとした顔で首を傾げている。あらら、あんなに簡単に説明して貰ったのに勇者ったら理解できてないよ・・。マジでこいつアホなんだな。

でも根は素直なのだろう。直ぐに聞き直してきたよ。


「判らんっ!もっと判りやすく言えっ!」

「お主、想像以上にアホだな?まぁよい。全ての段取りはわしがしてやる。なのでお主は聖女の元に返ってわしを20年間封印したと報告するだけでよい。そうすればお主は聖女とイチャイチャできるのだ。」


「なんで20年なんだ?」

「それは魔族の脅威を忘れさせない為だ。人間共は自身に降りかかる脅威がないと忽ち付け上がるからな。下手すると次は人間同士で争い出しかねん。20年というシバリはその予防のようなものだ。つまりサボるなよ、という事だな。」


「つまり俺は聖女にお前を20年間封印したと言えばいいんだな?」

「そうだ、そうすれば全て丸く収まる。どうじゃ簡単であろう?」


「よし、判ったっ!それじゃ善は全力だっ!邪魔したな魔王っ!達者で暮らせよっ!」

そう言うが早いか勇者はあっという間に魔王の元を去ってしまった。

おいおい、お前少し人を信じ過ぎなんじゃないのか?ましてや相手は魔王だぞ?それって勇者としてどうなんだ?


だが、この魔王は本当に約束を守るつもりらしい。なので勇者が大喜びで魔王城を後にした後、魔王は己の魔力が外に漏れないよう魔王城に幾重にも魔力隠蔽障壁を張り巡らせ、尚且つ魔界と人間社会が接するラインにも互いが接触しないように障壁を施した。

もっとも接触防止ラインの方はかなり緩い障壁だったのでそれなりの能力を持っている者には効果がない。そして魔王が何故そのようにしたのかと言えば完全に関係を絶ってしまうと相手に対する情報が得られなくなり間違った認識が芽生えてしまうのを防ぐ為だった。

そう、平和とは相手と距離を置くだけでは駄目なのだ。相手の事を理解し譲歩できるところは譲り合いゆっくりと時間を掛けて交じり合ってこそ長続きするのである。


その後魔王は部下たちに事情を説明し隠遁生活へと入った。因みに隠遁生活とは世間の煩わしさから逃れて静かに暮らす事である。つまり引きこもりだ。

また似たような言葉に『淫蕩生活』というものがあるが、それとは全然違うので間違わないように。



さて、方法がどうであれ結果として人間社会に対する魔王の脅威はなくなった。なのでそれを成した少年はそのご褒美を貰うべく聖女様の下へと走って帰って来た。そして聖女様を見つけるなり開口一番、次のように報告した。


「聖女っ!魔王を倒したよっ!だから結婚してっ!」

「あら、勇者。早かったわね。えーっ、本当ぅ?嘘を言ってもバレるんだからね。」

そう言うと聖女様は何やら胸の前で印を切った。そして小さな声で呪文を唱える。すると目の前にスクリーンが現れ何やらミミズがのたくったような文字が現れた。

ほうっ、これがかの有名な古代ルーン文字ってやつですか。いや~、学がない私には何が何やらさっぱりです。

えっ、ルーン文字じゃなくて漢字の草書体?それってなんかいきなり世界観が揺らぐんですけど?

だが中世欧州風の世界に住んでいるくせに聖女様は草書体の漢字が読めるらしいです。そしてそこに書かれている情報を読んで驚いたようだ。


「あら、凄い。本当に魔王の魔力が消滅しているわ。へぇ~、勇者ったら本当に魔王を倒しちゃったのねっ!」

えっ、なに?聖女様って魔王の存在を探知できるの?うぉーっ、危ねぇっ!どうりで魔王があれだけ念入りに魔力隠蔽障壁を構築していた訳だよ。さすがは聖女様、高性能だねっ!


だがそのまま有耶無耶にしておけばいいのに少年は馬鹿正直に魔王と打ち合わせした内容を聖女様に告げてしまった。


「いや、実際には倒したんじゃなくて20年間封印しただけなんだけど結果としては同じだよね?」

「あら、そうなの?でも勇者って封印なんて出来たの?」

聖女様から魔王との打ち合わせにはなかった質問をされて少年はかなり慌てた。なのであろう事があっさりと白状してしまった。


「えっ、あのー、なんてゆうか・・、魔王が手伝ってくれました・・。」

「魔王が手伝う?なにを?」

「だから封印を・・。」

「魔王が自らを封印する手助けをした?・・、ちょっと勇者、ここに座りなさいっ!」

怒気を含んだ聖女様の言葉に少年は恐れおののいてすぐさま正座した。そんな少年に対して聖女様は強い口調で詰め寄る。


「どうゆう事なの?なんで魔王が自身を封印する手助けをするのよっ!おかしいでしょっ!」

うんっ、そうだよね。誰が聞いても疑問に思うよね。なので少年は魔王城で起こった出来事を包み隠さず聖女様へ話した。

そんな少年からの話を黙って聞いていた聖女様は少し呆れたような様子ではあったが何故か納得したようである。


「ふ~んっ、そうなんだ。今の魔王って穏健派だったのね。でもそれも実力があるからこそ出来る方法よね。うんっ、私たちの王様も見習って欲しいものだわ。」

「そうだねっ!あいつって結構いいやつだったよっ!だから結婚してくれ、聖女っ!」


「あーっ、はいはい。でもその前に色々やらなきゃならない事があるからそれが全部済んだらね。」

「えっ、そうなの?」

聖女様の言葉に少年はお預けを喰らった子犬のようにしゅんとしてしまった。まぁ、確かに期待が大きかっただろうから少年の気持ちも判らんものでもない。

だが少年にとって聖女様の言葉はほぼ絶対なので従うしかないのだろう。


その後、聖女様は魔王が勇者によって20年間封印された事を神殿に報告し聖女のお役目を返上した。もっとも聖女という役柄は世間に深く浸透していたので空位になるのは望ましくない。なので神官たちは別の娘を聖女に任命し民たちの心の安寧を計った。

もっともそんなお飾りの聖女にはなんのチカラもなかったのだが、魔王がいなくなった世界では聖女の役目も変化する。なのでお飾りの聖女でもなんら問題はないようだった。


さて、実は魔王がいなくなった事により勇者は職を失ってしまった。そして聖女様も聖女ではなくなったので共に失業者となり収入が途絶えたのだが、勇者には魔王封印の功に対して神殿から報奨金が出たのと、聖女様には年金が支給されたので直ぐに次の職を探さなくてもそれなりの生活はできたらしい。なのでわりとのんびり暮らしたそうだ。

だがそんな環境の中、少年は元聖女様と毎夜ハッスルしたらしく年子で5人もの子供を授かった。故に手持ちのお金が心もとなくなったようで、少年は今、子たちの養育費を稼いでこいと元聖女様にケツを蹴飛ばされて冒険者をやっている。

いや、もはや少年は青年となっていた。そう、彼はもう大人なのだ。なんせ5人も子供がいるからな。なので家族を養う義務を全うする為に一生懸命働いているのである。


そんな青年の目は輝いていた。何故なら彼は過酷な運命に立ち向かい、そして勝利した結果自らが望んだ『幸せ』を手に入れたからだ。

しかも今、元聖女のお腹には新しい命が宿っている。うんっ、6人目だね・・。えっ、お医者さんに見てもらったら双子らしいって言われたの?あらら7人かよっ!これはますますがんばって働かなくちゃなっ!

と言うか、ちったぁ自制しろっ!


-お後がよろしいようで。-

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