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ゆっくりと何も見えなかった視界が戻ってきた。
視界に入ってくるのは女神様が用意してくれるはずっだった大きな家や、大量の金ではなくただどこまでも続くように感じる平原だった。
「おーーーい!!!! 最後最後にとんでもない爆弾発言したと思ったらガチで何ももっていけてないのかこれ!? 嘘だろ? 俺は生身で魔物と人間が争っている危険な世界へ放り出されたってのか? それにどこなんだよここは。何もないにも限度があるだろ」
先ほどまでのなんでもできるスーパー能力を授かる予定だったころに俺を戻してくれ。あの女神様に本気のグーパンチをお見舞いさせてくれ!! 理不尽だこんなの生き残れるわけがない。俺は魔物との戦闘なんてできるような生活をしてきたわけじゃない。むしろ家でゲームばかりの不健康な生活しか送ってきていないのだ。無理だ……せめて、何か一つだけでもってこれていれば。いや、まだすべて持ってこれていないとは限らないんじゃないか? だって、家と金はないけど俺がほしいって言った能力は見てわかるようなものじゃないだろ。
「そうだ、まだ諦めるのは速いぞ。俺が能力をもってないって決まったわけじゃないんだ。まず手始めにそこら辺の弱そうな魔物と戦ってみよう」
正直、ほとんど期待はしていないが、もうこの状況だ。無理だったら、どうせ生き残ることなんてできやしない。ここはいっそ最後の希望にすべてをかけて命を散らせるくらいの覚悟で挑むしかないのだ。
「どこかに戦ってもギリギリ生き残れそうな。雑魚はいないか? よくゲームに出てくるスライムとかで十分なんだが……」
ゲームで培った知識が通用するかはわからないが、ひとまず、適当に決めた方向に歩き始める。
異世界での魔物はやはり、ゲームの魔物たちと似ていたりするのだろうか? それだったら、見た目でおおよその強さなんかも予想がつきそうだ。とりあえずでかい魔物がいたら逃げよう。
ただ何もない平原を進むこと数十分。
自分自身でもなんでこんな理不尽な状況に陥っているのかわからなくて、泣きそうになる。女神様曰く、俺はトイレで足を滑らせて死んでしまう運命だったそうだが、これは余計にしんどい状況になっている気がしてならない。トイレで死ぬだけならこんな無力感や絶望感を覚えることもなかっただろう。でもまだ死ぬと決まった訳じゃないところだけが唯一の救いなのかもな。
俺は心がぽっきりおれてしまいそうになりながらも歩く。ただひたすらに前に向かって歩く。
こんなに歩いても何もないなんて。こんなに広大な平原に一人ぼっち……もしかしたら、ここは人間の領土で魔物は生息していないのかもしれないな。それだったら、どこかの町へつけば生き残れるかもしれない。金も家も何もないが、生きていれば靴磨きでもして金を稼げるだろう。これでチート能力が備わっていたら、魔物を討伐することで金を稼ぐことも可能かもしれない。頼む、何か一つでもいい能力がもってこれていますように。
「ああ、足が限界だ。何も見えてこないじゃないか。無理だ……一旦休憩しよう」
時計をもっているわけではないので、どれくらいの時間歩いたかわからないが、どれだけ歩いても町は見えて来ない。これだけ進んで町も見えないようなところに転生させた女神様への不満が一層募る。
でもこれで最強の身体能力は間違いなくもってこれていないことがわかったな。最強の身体能力があれば、歩いたくらいで疲れるなんて有り得ないだろう。ほかに何を女神様に頼んだっけ? はあ、あのポンコツ女神め、何が私が管理している世界ではないので能力がもっていけるかわかりませんだよ。そういうことは最初に伝えておくべきだろ。大体、なんで世界を管理している神のくせして、わざわざ俺を自分の管理外の世界へ転生させる必要があるんだ? だめだ、考えれば考えるほど負のループにはまってしまう。今は、体力を回復させて町を目指すことだけを考えよう。とにかく命が一番大事なんだ。女神様への文句は命が助かるか、死ぬ間際に叫び散らかしてやる。
「のどが乾いた。くそっ、水もないのかよ。せめて川でも流れていてくれたら……」
休憩を取り、再度歩き出した俺だがこれだけ運動してのどが乾かないはずもなく、のどが潤いを求め、悲鳴を上げだした。
「我慢だ。まだ死んでたまるか。こんなのあんまりだーー!!」
もう根性だけで歩いていると言っても過言ではない極限状態へ突入していた。
それでも生き残るために必死になって歩みを進める。きっとこの先に町があることを信じて。
「あ、なにか見える。もしかして町か?」
ぼんやりとかすみ始めている視界の奥に何かが見える。
既に視界も満足に見えていないので、何かがあるということしかわからない。しかし、それだけが俺の希望となった。
「あと少し……まだ死ぬわけには行かないんだ……はあ、もう、もう……む、むりだ」
バタッ!!
前に向かって必死に手を伸ばし、少しでも進もうとするが俺は奮闘むなしく、地面に倒れこみ意識は消えていった。